「我が子を虐待するような親は最初から子供など持つべきではない」という言葉が抱える矛盾について

生命情報保存研究所 @rodan670

ある親が我が子を虐待していたという痛ましいニュースが漏れ伝わるたびに、聞こえてくる親への非難として「そんなことなら子供など持つな。そんな奴にはそもそも子供を産む資格がなかった」という言葉がある。しかしこの言葉は恐るべき矛盾をはらんでいる。

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その強い憤りをたたえた語句の裏側には、虐待を行った親への憎悪と同時に、その感情の根源となる、被害児童への同情があることは間違いない。しかし当の親が子供など持たない未来こそが理想であったというのなら、当然問題の被害児童もまた存在すべきではなかったという事になってしまう。

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これでは一体誰に同情し、誰の境遇をおもんぱかって発せられた言葉なのかよく分からない。これは極めて自我至上主義的、特に、幸福な自我しか存在を許すことのできない観点から出てきた言葉といえる。

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この見地からは、受ける苦痛が得られる快楽を大幅に上回るような生は無いほうが幸せという結論が導かれる。しかしこの価値観の論者は、その全員が今生きていること自体が苦痛そのものという境遇にあるような人間に対して自殺を推奨するわけではない。

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それはその人物にとって生がどれだけ苦痛にまみれていようと、そこからさらに自死という過程に臨めば、ここで新たに別個の、それも強烈な苦痛に晒される事が明白である以上、苦痛に苛まれる自我をとかく忌み嫌う立場としては、これが真に望ましい道であるのか結論を出せないためである。

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しかしながら相手が「生まれる前の命」となるとこの障壁は簡単に取り除かれることとなる。生まれる可能性のあった命が生まれなくなったところで、その命が現段階でここに存在していない以上、その結果を苦痛に感じる自我もなく

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ならば将来的に虐待されることとなる児童など存在しないことが最適解だとの結論が容易に下されてしまう。ただ自我は苦痛の器になると同時に当然のことながら幸福の足場ともなりうる。

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虐待を受けた児童が自らの幸と苦痛とを天秤にかけ、結果生まれてきてよかったと判断するようなことがあれば「子供を虐待するような奴は子供を産むべきではない」という言葉は当の児童にとってこれ以上ないおせっかいとなりうる。

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だが、児童が何を考え何を感じているかは当の本人にしか分からない。ゆえに、「子供を虐待するような親は子供を持つべきではない」という理論は、拡大していけば他方でまた恐ろしい結論を呼び込むこととなる。

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いわゆる虐待（暴力、過度な叱責、ネグレクト等）を行うことなく、それどころか手塩にかけて育て上げた子供であっても、当の本人がその存在に絶望を感じており、自らを産んだ親を強烈に恨むようなことがあれば、幸福たる自我至上主義の観点からすれば

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その親もまた子を持つべきではなかったと解釈される余地が出てきてしまう。「産んでくれなんて頼んでいないのになぜ自分を産んだんだ」と責められ絶句する親の構図である。そしてどのような育て方、どのような生が苦にまみれた自我につながるか完璧に予測することが難しい以上は

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もはや子を持つこと自体が潜在的に罪をはらんだ行為であると規定されてしまう。「虐待をするような奴は子供を持つべきではない」理論を敷衍していくと、人はもはやこれまで通りの生活を送っていくことができなくなる。よってこの言葉は安易に使われるべきではない。

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絶えず自己保存を続ける存在そのものが生命である以上、人間が子を残すこと自体はしかたがない。自我が苦痛にまみれる可能性の芽は、あくまで自我が生れ落ちた後に刈り取っていく（虐待発動の防止、あるいは発生後の保護の徹底）他ない。虐待とは無縁で、むしろ愛情を込めて育て上げた子供に

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「産んでくれと頼んでもいないのになぜ産んだのか」と恨まれた日には、「地球上に最初に発生したバクテリアを恨んでくれ」と言って納得してもらう他ないだろう。