ダメージド・グッズ #3

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

◆リンゴアメは足を止め、崖下の光景に見入った。「あれは……」「墓だよ。抜け殻」キュナカは言った。そこには朽ち果てたオイランドロイド達が車両スクラップやトタン板、廃棄された電子基板等にまじって、何体も横たわっていた。「我々は、死んで、モノになる。シリコンにな」◆

2017-01-24 22:36:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ついたぞ。ほら」キュナカがリンゴアメの手を引いた。あらわれたのは、高さ10メートルはあろうかというゲート。コンクリートの壁と、生い茂る木々。先導していたシンジツがゲートに近づき、垂れさがった太縄を揺する。ガラガラと鈴が鳴り、ゲートの上に人影が現れる。やはりウキヨか。 1

2017-01-24 22:39:57
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「そいつは?」見張りがリンゴアメを指した。シンジツは「新たな仲間だ」と答えた。見張りは戻っていった。やがて、重苦しい音を立ててゲートが開いてゆく。「すごい建物」リンゴアメは壁の左右を見る。ゆっくり湾曲しながら、ずっとのびている。「ここはね、競技場だったんだ」キュナカが言った。 2

2017-01-24 22:43:25
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「……昔はね。今は、誰も管理しなくなっていた。そこに我々がエクソダスしたわけ」「そうなんだ……競技場……」「競技、見たことある?」歩きながら、キュナカが尋ねる。リンゴアメは頷く。「サイバー馬の競馬。昔の……主人が好きだった」「フン」キュナカは顔をしかめた。「そうか」 3

2017-01-24 22:45:22
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シンジツは衛兵と話をしに離脱した。リンゴアメはキュナカとともにゲートをくぐり、通路から細い階段を上がった。すり鉢状、かつて客席であった傾斜地に出た。そこには沢山のPVCテントが設置されていた。この地の中央には広場がある。「あれはアゴラ」キュナカが呟いた。「女王が神託を受ける」 4

2017-01-24 22:52:38
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「神託……」リンゴアメは中央に設置された壇と、槍めいたオベリスクを見た。キュイイイ。レンズが音を立て、視界がズームする。今、アゴラは無人だ。オベリスクにはルーンカタカナが刻まれている。リンゴアメは呟く。「ツラナイテ……タオス」「なにか、ルーンの言葉さ」キュナカは肩をすくめた。5

2017-01-24 22:56:01
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「あれが何なのかは、知らない。シンジツも知らない。女王は知っているのかな。わからないけど。別にいいのさ」「このテント全部に……ウキヨ……が住んでいるの?」リンゴアメは尋ねた。狭間に設けられた通路を何人かのウキヨが行き来している。キュナカは頷き、笑った。「まだまだ、増やせる」6

2017-01-24 23:01:21
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「ウキヨポリスにようこそ。リンゴアメ=サン」声に振り返ると、目の下に黒い水平ラインを引いた禿頭の男が立っていた。「私は祭司のカブシです」「祭司……」黒いキモノ。なにより、この者は人間である。「そう。私は人間です。女王の相談役として、命を救われました」穏やかに笑った。 7

2017-01-24 23:10:22
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「こいつだけ人間なんだ」キュナカが言った。「ま、そんな顔するな。かわいそうだから。こいつは人間だけど悪いやつじゃないよ」「いいんですよ。確かに不自然ですから。私はウキヨに奉仕する存在です」カブシはオジギした。「シンジツ=サンに話は聞いています。あなたのテントをあてがいましょう」8

2017-01-24 23:13:56
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カブシは足を引きずっていた。「ああ。イクサの折に、怪我をしてね」彼は説明した。「今はウキヨの数も多い。当時よりも安全は増しました。安心してください」「イクサ……?」「妬むやつらがいたんだ。付近にな」キュナカが言った。「だけど、もう終わった事さ。今は平和」 9

2017-01-24 23:16:49
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カブシに案内されて、傾斜の中腹に位置する桃色のテントに辿り着いた。そう、PVCテントはさまざまなパステルカラーで、さながらアノヨの花畑めいている。「電気井戸」と書かれた設備にケーブル接続しているウキヨが顔を上げ、にっこりとアイサツした。「ドーモ、ご近所さん」「ドーモ」 10

2017-01-24 23:20:07
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「電気、ここだから」と、キュナカ。「スシは食うの?」「スシ?うん、食べられる」「いいな」キュナカは笑った。「自分には咀嚼機能、無いんだ。スシ、オイシイ?」「うん……多分」リンゴアメはおずおずと頷いた。「後で市民証を発行します」カブシが言った。「強要する者はいない。くつろいで」11

2017-01-24 23:23:08
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カブシが去るのを見送ると、キュナカはリンゴアメの手を引き、テントの中に促した。マットレスや、小ぶりの箪笥、鏡などがあった。「前のやつが使っていたのさ」「前の……?」「さっき話した、イクサ」キュナカはアグラをかいた。リンゴアメも座った。彼女は尋ねた。「ここではみんな何をするの」12

2017-01-24 23:26:52
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「何を?」キュナカは微笑んだ。「そうだなあ。踊りを覚えたり、ハイクを書いたり。好きな事をしてるよ。でも、みんなで分担する仕事はある。発電設備の守りとか、外敵を警戒したりとか、服を作ったりね。キモノ。女王が指示を出すんだ。神託に基づいてね」「神託……」「あのオベリスクさ」 13

2017-01-24 23:29:29
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「アゴラね」「難しい話より、もっとちゃんと自己紹介をしようよ」キュナカが息を吐いた。「私はキュナカ。ウキヨポリスに来たのは97日前。もっともっと古参の連中がいくらでもいるから、嬉しい」「前はどんな家にいたの?」「貿易会社の重役」キュナカは微笑み、首カットの仕草をした。 14

2017-01-24 23:35:15
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「皆、殺して、ここに?」「そういう奴も多い。だから気に病むなよ」キュナカが言った。「ま、そうじゃない奴もいる。人間は敵とは限らないからな。カブシみたいにね。だけど、そうだなあ、我慢しなくていいのは確かだよな」「我慢……そうだね」「私らはウキヨで、皆は、お互いを尊重する」15

2017-01-24 23:39:32
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「うん」「また難しい話になってきた」キュナカは笑った。「もうやめよう。……ね、目がキレイ」リンゴアメの頬に触れた。「くすぐったい」リンゴアメは笑った。「見せてよ。私は醜いから」「そんな事ない」リンゴアメはキュナカの傷に触れた。「戦うなんて、スゴイよ」「……アリガト」 16

2017-01-24 23:42:45
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カーン!カーン!その時、競技場に甲高い金属音が反響した。気まずくなり、二人はどちらからともなく離れた。キュナカはテントを出、様子を伺った。「遠征隊が帰って来たんだ!」「遠征隊?」「そうさ。ほら、見て」指さした先、捕虜らしき者らを引きずって雄々しくアゴラへ降りる者達あり。17

2017-01-24 23:44:45
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「人間を引きずってる」リンゴアメがキュナカの隣で呟いた。キュナカは頷いた。「そうさ。付近の村の奴。我々に対して攻撃をかけ、返り討ちに遭い、おめおめと逃げた奴らを追っていたんだ。ホワイトライダー達の帰還さ」歓声がさざなみめいて拡がり、ウキヨ達がテントから出て、手を叩く。 18

2017-01-24 23:51:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

捕虜を引きずる三人のウキヨは皆、たしかに白一色の簡易キモノを着、「ツラナイテタオス」と書かれた旗を掲げている。誇らかに。「乗り手!」「乗り手!」「乗り手!」歓声はやがて、「女王!」「女王!」「女王!」という声に変ってゆく。そう、彼らを出迎えるべく、檀上に「女王」が現れたのだ。19

2017-01-24 23:54:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

リンゴアメは目を見開き、キュナカの手を強く握った。確かにそれは「女王」だった。身長は約210センチ、美しく長い手と足と首を備え、聳やかす胸には金のネックレスをかけ、青いアイシャドーは鮮烈で、キモノは真珠色に輝いていた。美しかった。この世のものと思われぬ姿だった。 20

2017-01-24 23:58:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「なんて素敵……」リンゴアメは呟き、雷に打たれたように緊張した。ふと、目が合ってしまったのだ。黒い瞳に射抜かれると、彼女は激しい羞恥を感じた。芸術そのもののようなオイランドロイド。それに引き換え。なんて恥ずかしい。女王はアルカイックに微笑む。その足下に人間達が転がされる。21

2017-01-25 00:03:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

女王は片手を挙げた。歓声が鎮まった。鈴のように美しい声で、女王は言った。「戦士たちにねぎらいを」跪くホワイトライダー達。「今ここに、イクサの完全終結を宣言する。そして……」女王は地面に引きずるほどに長い鞘から、カタナを抜いた。「簒奪者に報いを」再び、破裂するような歓声。 22

2017-01-25 00:09:29