姫「嫁に行くことで戦争を止めたいが、わたしの顔は普通なので美しい身代わりを立てることにした」

顔は普通だけど多少小賢しい末っ子の姫様と、察しが良くてめちゃくちゃ顔がいいけど性格の悪い王様付の文官と、その文官の妹で心も顔も美しい娘の話です。 2020.01.24 完結しました。
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乃井 @no_el_ty

「姫様にはこれより外遊に出ていただきます」 「外遊」 「はい。西の最果てに小国がありまして、ガラス質の花が咲くという非常に稀有な土地、姫様もお気に召されるかと」 「戦争」 「……です。戦争です。姫様にはお逃げいただきたく存じます」

2017-01-25 10:15:14
乃井 @no_el_ty

「我が国もその西の小国と変わらぬくらいに小国ではないか」 「ご存じで」 「我が国は攻めづらい立地のために戦を仕掛ける国がなかった。それ故に建国以降戦の経験のないままと来ている」 「はい」 「戦えば負けるぞ」 「私は承知の上でございます」 「ということは母上と父上は承知せしめぬと」

2017-01-25 10:21:20
乃井 @no_el_ty

「だって聞いてくださいよ姫様!王様は神の加護を信じる頭お花畑のボンクラ!!王妃様は王家守護隊の力を過信するボンクラなんです!!兵力の違いを解いても『神がお守りくださる』とか『兵1人が敵5人を殺せばいい計算です、問題ありません』なんていうんですよ!!」 「我が親ながら阿呆なことだ」

2017-01-25 10:24:20
乃井 @no_el_ty

「せめて……姫様のお付きという名目で国外に逃亡しなければ私も死んでしまうと思い……」 「本音ダダ漏れだぞお前」 「いいではないですか!長年連れ添った間柄でしょう!」 「人聞きが悪いから言葉遣いを改めろ。恋人みたいではないか」

2017-01-25 10:26:49
乃井 @no_el_ty

「というわけで、ぜひ姫様には国外逃亡していただきたく。西の国は良いですよ。私の生まれ故郷なのです」 「えっなに……お前外国人だったの?」 「はい。知りませんでしたか?顔立ちとか髪の色とかで」 「……そういえば、出会ってからここ10年ほどまともにお前の顔を見たことがなかった」

2017-01-25 10:29:15
乃井 @no_el_ty

「いつも薄布越しですからね。暑くはないですかその布」 「暑い。が、王家淑女のたしなみ、婚姻するまでは人前で外せぬのが決まりだ」 「存じております」 「……が、私は王家淑女ではなくなる。外してもよかろう」 「はい?」

2017-01-25 10:41:19
乃井 @no_el_ty

「ふむ。……なんとまあ整った顔だ。銀髪に翡翠の瞳とはさてはお前、龍だな?」 「宮中ではそのように噂されておりますね。西の国ではよくある風貌なのですが」 「お前、たしか妹がいたな。美しいか?」 「おお話が飛ぶ飛ぶ。おりますよ、和が妹ながら驚くほど見目麗しいのが」

2017-01-25 10:45:53
乃井 @no_el_ty

「そもそも。この戦の発端は、我が王家から強国へ嫁を出さなかったことだ」 「王様も王妃様も、政治的な思惑を一切理解しないですからね」 「昏君の話は脇にどけておけ。今、強国は東の大国にも戦を仕掛けている。我らのような小国に回す兵力は極力惜しみたいだろう」 「つまり?」

2017-01-25 10:57:54
乃井 @no_el_ty

「こちらが下手に出れば許されるのでは?」 「もう戦だ!ってなってるのがそんな簡単に片付きます?」 「問題ない。あの国の王は美人に目がないのだ」 「……姫様、一応お聞きしますけど、私の妹を巻き込んでなにをなさるおつもりで?」 「ははは。お前の想像している通りであろうな」

2017-01-25 11:02:20
乃井 @no_el_ty

「……ということがあり早いもので二月が経ちましたが、よくもまあこれほど上手くいったものですね」 「よい、許す。もっと褒めよ」 「呆れているのです!」 「この国の王は思ったより阿呆、いや、素直な心根の御方であったな。あれが替え玉などと、欠片も疑いもせなんだわ」

2017-01-25 16:29:59
乃井 @no_el_ty

「妹も、姫様の思い通りにやっているようで」 「戸惑いつつも『わたしがここにいなければ兄さまは……!』みたいになっているな。なぜあそこまで受け入れられるのか、ちょっとびっくりする」 「姫様。それには理由が」 「理由」 「妹は女性向け恋愛小説が好きなのです」 「女性向け恋愛小説」

2017-01-25 16:34:46
乃井 @no_el_ty

「流行りとして……身分の低い美しい娘が、王や王子に見初められたり、替え玉に使われる筋のものがあるようです」 「え、ええ……そうなのか……わたしの作戦は小説書きに思い付くような程度のそれだったのか……」 「ま、まあ、それだけあり得ぬ話ということではないですかな!?」

2017-01-25 16:39:08
乃井 @no_el_ty

「まあ、気に入られてなによりだ。兄に似ず性格がよいところなど高く評価できる。あれこれと意地の悪いことを言わぬ故、仕えていて楽だ」 「……しかし、姫様に侍女の真似事が出来るとは思いもよらぬことでした。所作が完璧ではありませんか」

2017-01-25 23:57:51
乃井 @no_el_ty

「昔取った杵柄というやつだな。伊達に姉上たちに苛められて育っていないぞ」 「……待ってください、苛められて育った?上の5人の姉姫様がたにですか?」 「ああ。わたしを侍女のように扱っていた」 「……姫様は、それを、どうして私におっしゃってくださらなかったのですかね?」

2017-01-25 23:59:30
乃井 @no_el_ty

「えっ……だって、お前に言ったって仕方がないだろう。止めさせられるでもなし」 「言ってくだされば王に進言いたしましたよ!?それに少なくとも一と三と四の姫は私に惚れていました故に私が言えば止めてくださったかもしれませぬよ?!」 「そうなのか……姉上たちも趣味が悪いことだ」

2017-01-26 00:02:00
乃井 @no_el_ty

「まあ、なんだ。そう苦でもなかった。みな貴族の子らに嫁ぐため、生意気になってはいけないと、針と糸と甘い菓子だけ与えられて育ったのだからな。そのほかには、妹を苛めるくらいしか娯楽のない、可哀想な連中だと思えばむしろ愉快なものだったのさ」 「姫様性格悪っ」 「お前に言われたくないわ」

2017-01-26 00:07:26
乃井 @no_el_ty

「お蔭様でこのように役に立っている。私が傍付きの侍女であればお前の妹の危機に助け船を出せるし、困難から守ってやれる」 「……他の侍女でも同じことはできたかもしれませぬよ。姫様が直々になさることではなかったのでは」 「民を巻き込んだ計画を立てたのだ。ならば責はわたしが負わなくては」

2017-01-26 00:15:30
乃井 @no_el_ty

「長く。長く、縛り付けてしまう。わたしはお前の妹の人生を売って、自分の国を買ったのだ。本来はわたしがあの場に立たなければならないのに。――わたしの顔が普通なばっかりに」 「……ええうん、そうですね。姫様のお顔は、普通です」

2017-01-26 00:18:01
乃井 @no_el_ty

「不細工ではないと自負はする。しかし、わたしの顔では、この国の王は戦を取りやめようとは思わなかっただろう。あの美しさは、得難い。わたしの持たないものだ」 「普通にお可愛らしい顔かと存じますが」 「だが、あれほどに美しくはないのだ。そればかりはどうしようもできまい」

2017-01-26 00:19:49
乃井 @no_el_ty

「……というか、世辞とかいらぬから。うっかりときめいたらどうしてくれる」 「本当のことを言っただけですなどと嘘偽りなく言えたら恰好がつくのですが。申し訳ありません。半分ほど世辞です」 「もう半分はなんだ」 「気遣いです」

2017-01-26 00:22:50
乃井 @no_el_ty

「ふん。ありがたく受け取っておこう。ではわたしは行く。これから閨の油の不寝番を任されているのでな」 「どうぞお体を壊されませぬように」 「……ありがとう。眠りこけてしまわぬよう祈ってくれ」

2017-01-26 00:28:49
乃井 @no_el_ty

「まずいことが発覚した」 「大体想像がついていますが、どうぞ」 「お前の妹と王との関係が複雑になった」 「やはり王の弟君が茶々を入れているのですか」 「それだ。……待て、知っていたのか?」 「三日ほど前に、文官の間で噂に上りまして」

2017-01-26 15:52:51
乃井 @no_el_ty

「こういうことは女のほうが話が早いと思っていたが」 「こちらの文官たちは、王弟と王の間のことに敏感なのです。どちらに着くかを正確に見極めなければならない時期ですね」 「……王は国取りに大きく手を広げ過ぎたな。野心が強く腹芸のできる弟君は、その間に王の座を掠める手はずを整えている」

2017-01-26 15:56:39
乃井 @no_el_ty

「しかし女官が噂したとなれば、それは誰かが『現場』を目撃したという証では」 「それについては問題ない。噂にはなっていない」 「……まさかとは思いますまい。目の下のクマが物語っておいでです」 「うむ」 「心中お察しいたします」 「女性向け恋愛小説を朗読されている気分であった」

2017-01-26 15:59:03
乃井 @no_el_ty

「なにあの……なに?王もそうだが、あの王家の男どもの、女を責め立てるときの歯が浮いて抜けるような台詞は一体どこから仕入れてくるのだ?」 「この国には古来より愛する人とは互いに詩を送り合う文化があったと伝え聞きます。廃れた今でも言葉を飾り立てるのは得意なのではないかと」

2017-01-26 16:02:00
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