フォビドゥンフォレスト3話「蝶舞の町内」 #7「姑獲蝶」

全話+まとめのまとめ http://togetter.com/li/1059871 1話「英雄たちの遺産」まとめ http://togetter.com/li/1020459 2話「バケグモ大進撃」まとめ 続きを読む
1
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

まとめを更新しました。「「フォビドゥンフォレスト3話「蝶舞の町内」 #6「帰り道」」 togetter.com/li/1073341

2017-01-24 02:01:55
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

16時。禁忌の森・レベル3。月曜日の事件を受けて編成された探索部隊は、薄く広い陣形で森の東側全体を捜索していた。ローラー作戦とも言える。彼等の探索目標は2つ。洞窟以外の場所での不明者の有無と、洞窟から逃げたバケグモたちである。後者に関しては昨日の内に大半が討伐されている。 1

2017-01-26 00:07:26
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

残りは2匹。餌の少ない冬とはいえ、中層以上の濃い瘴気を吸うだけでもある程度成長するし、冬眠中の獣でも食えば既に成体になっていることも有り得た。昨日は森の入口から洞窟までの道とその周辺、及び東側低層全域をほぼ調べ尽くした。残るは森の奥のみということで、先頭に精鋭を配置してある。 2

2017-01-26 00:13:18
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

結界の有る東はともかく、大回りして森の中央側へ行く可能性も無くは無かったが、開けた場所が多く雪も深い。武装した人間が大勢いる状況で、無理にそちらに動けば目立つ。バケグモは知能の高い種ではないが、その程度の警戒はする。従って森の奥に逃げるしか無い…と僚勇会は判断したのだ。 3

2017-01-26 00:21:01
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

果たしてその狙いは当たった。物陰から先頭部隊の側面へ飛びかかってきたそのバケグモは対魔アサルトライフルの射撃を受けて飛び退き、今は樹上を蠢いている。飴色の体色のナガヤリバケグモである。後脚の倍以上は有る長さの二対四本の前脚が特徴的だ。姿の似た近縁種と比べて殺傷能力が高い。 4

2017-01-26 00:31:14
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

隊員達が武器を構えて備える中、若い二人が進み出た。 「ここは俺にやらせて貰えませんか。稼いでおきたいんで」 細身の長槍を構えた少年は久浦祥汰。風科の外でスカウトされた高校一年生である。前髪を両側に逃がして後ろはゴムで留めている。端正な顔立ちで淡々とした喋り方をする。 5

2017-01-26 00:36:13
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

「私も手伝う」 朝来想良(あさご そら)。眠たげな印象の目が特徴的な少女で、彼女も外からスカウトされた高校一年である。 「俺一人で良い」 祥汰は敵の方を見据えたまま、片手で制す。 「お金は良い。手伝う」 妖怪の討伐報酬はあまり高くはない。ナガヤリのようなB級で五千円だ。 6

2017-01-26 00:44:44
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

2人以上で倒した場合は、貢献度によって更に割られる。B級妖怪の対人殺傷能力がクマ数匹分以上ということを考えれば安過ぎるが、下手に高額にして奪い合いにならないよう、討伐報酬は抑えその分基本給などに回しているのだ。 「金とかじゃない。危ないから」 「危なくない」 7

2017-01-26 00:49:04
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

互いに頑として譲らない。他の隊員たちが苦笑する中、後ろで見ていた隊長の桐葉は白い溜息を吐いた。 「はぁーっ…。お前らな…いいから二人でやれ」 「うん」 元より想良はそのつもりだが、祥汰からは返事がない。 「嫌なら私一人でやっちまうぞ?」 「…分かりました」 8

2017-01-26 00:52:45
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

祥汰は武器を両手で構え直す。 「よし。合図で威嚇射撃だ。祥汰、デモンズナントカはまだ使うなよ」 「ここで使えって言われても困りますよ…」 デモンズデザイアは魔力で怪物を具現化する彼の能力と、その怪物の名前だ(無論、佐祐里の命名である)。強力だが大きな欠点も有る。 9

2017-01-26 00:58:05
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

重量が有る上に歩行に向かず、一度出すとその場から動かしにくいのだ。しかも具現化に魔力の七割近くを消費する為、回復薬を使っても、一度の出撃で二度以上使うのは難しい。逃げ隠れする敵の追跡や先の見えない状況での使用には向かない。本来なら一箇所に留まっての拠点防衛向きだ。 10

2017-01-26 01:02:25
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

「想良、奴が落ちてきたら、前脚四本を全部徹底的に潰せ。他は無視しても良い」 「うん」 想良は両腕を左右にゆっくりと開き、能力の準備に入る。彼女の能力は引力や斥力を操る玉を出すグラヴィティ・グローブ(佐祐里命名)である。普段は制限付きだが、それでもなお強力である。 11

2017-01-26 01:08:45
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

「っし…撃て!」 隊員達が発砲する。当てようと思えば掠らせるくらいは出来たが、下手に手傷を負わせて逃げられても困る。クモの周囲のみに火力を集中させ、動ける範囲を制限することで真っ直ぐに祥汰たちに向かわせる。任せると決めた以上はサポートに徹するのだ。祥汰は片足を引く。 12

2017-01-26 01:21:42
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

ナガヤリが祥汰目掛けて両脚を突き出す。迎撃体制の祥汰はしかし動かない。 「グラヴィティ・グローブ」 祥汰の周囲にハンドボール大の黒い重力球が20個ほど現れ、ナガヤリへと飛んでいく。突き出された二本の前脚と待機中の残り二本に纏わり付いて拘束し、体の外側へと折り曲げる。 13

2017-01-26 01:32:59
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

前脚の中の隠し脚という凶悪な武器も使う前に潰されてはどうにもならない。バケグモは慌てて口から溶解液を吐こうとするがもう遅い。 「ハァッ!」 この機を逃さず、祥汰は全力で突きを放つ。体の中心付近を尾部近くまで両断され、続く二撃で完全にとどめを刺され、地に落ちる。 14

2017-01-26 01:38:06
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

切り裂かれた死体は雪上で煙を上げて消えていく。一堂はその場で手を合わせて軽く黙礼する。煙は黒く、向こうの景色がほとんど見えない程度には濃い。運良く何匹が野性動物を補食したのだろう。瘴気だけで育った場合は、もっと煙が薄くて白くなる。「実体」が少ないからだ。 15

2017-01-26 23:21:24
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

「これで後一匹か…」 桐葉は他の隊へと報告する。 「洞窟にいたので全部ならですけどね」 義奥が指摘する。 「お前、そういうこと言うなよ…」 「可能性の話です」 絶対ないとは言えないが、その可能性は低いと考えられていた。どの道、森にいる間は油断は禁物だが。 16

2017-01-26 23:32:27
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

既に洞窟内部の遺体や遺留品はほぼ捜索を終えている。洞窟の外では見つかっていない。これ以上犠牲者の数が増えなさそうなのはせめてもの救いだ。恐らく、後一匹のクモを倒せば撤収となるだろう。 「あの…取り合えず引き返しません?」 桐葉隊の新人、高柳霜夜が提案した。 17

2017-01-26 23:40:47
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

この先頭部隊は、桐葉隊の6人に他部隊から6人を入れた12人で構成されているが、霜夜や義奥など耐魔力の低い半数の者ものは特殊防護服を着込んでいる。宇宙服に似た完全密閉型で、高濃度瘴気下でも活動が出来る。ただし、動きにくいので機敏な回避行動は取れない。 18

2017-01-26 23:52:18
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

本来なら、これを着た者は足手まといになるので、装備者は隊の1・2割程度に留めるべきところだが、今回は残敵の数がはっきりしており護衛も多いので危険も少なく、月・火曜の除雪で動きやすいので、人手確保の為に大勢が装備している。この2日間殆ど雪が降らなかったのも幸いだった。 19

2017-01-26 23:55:47
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

防護服の中は空調や暖房も効いており快適では有るのだが、重苦しいには違いない。 「そうですね。もう遅いですし、交代要員も先程森に入りましたから引き返しますか?」 義奥も同意する。空気ボンベには余裕があるが、残る一匹がどこまで逃げたかも分からない以上、無理は禁物だ。 20

2017-01-27 00:15:13
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

「…ま、そうだな。個人的にはクモのついでに、涼平探しの名目で奥に入って妖怪の二・三十匹もぶったぎりてぇけど」 「け、桁おかしくないですか?」 「この大変なときに余計な藪蛇はやめて下さいね」 霜夜が仰天し、義奥が呆れる。その時、通信が入り霜夜が出た。 「はい…えっ?」 21

2017-01-27 00:19:28
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

「どうした?」 霜夜は回線を再びオープンにしながら報告した。 「他の場所、N-O地点で、最後の一匹…の巣が見つかったようです」 ここから南西、レベル2の後半で、この東方森林地帯からみて中央との境界に近い辺りだ。 「マジか。そんな手前かよ」 「何にせよ良かったな」 22

2017-01-27 00:31:40
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

これで心置きなく帰還できる。大規模に人を出したので、捜索ついでに設備点検も月曜にの分に加えて、週内の分も前倒しで終えている。解析班はともかく実働部隊は暫く休めそうだ。早くも飲み会や小旅行の相談を始める者もいた。 『待ってください…これは?…違う…?』 不穏な通信が聞こえた。 23

2017-01-27 00:40:56