『自動車絶望工場―ある季節工の日記』から考える「合理化」について

いつもの読書感想文ですがちょっと反響いただいたのでセルフまとめ。
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⚡波島想太🐈 @ele_cat_namy

「カイゼン」は、えげつないとしか表現のしようがない合理化である。  本書は1972年9月から翌年2月ま...『自動車絶望工場―ある季節工の日記』鎌田 慧 ☆4 booklog.jp/users/electric… #booklog

2017-01-26 23:22:01

 「カイゼン」は、えげつないとしか表現のしようがない合理化である。
 本書は1972年9月から翌年2月までトヨタ自動車の工場で期間工として働いた著者の体験記である。
 コンベアから次々と流れてくる部品にひたすら同じ作業を繰り返す、機械の一部になったような労働が際限なく続く。一つ一つの作業は大したことではなくとも、それが休む間もなく流れてくること、延々と続くことが労働者の心を、長時間労働による疲労と無理な生産体制による労災事故が身体を破壊していく。

 巻末ではトヨタのえげつない合理化の歴史を紹介している。そこで引用されている「トヨタ式生産システム」より。

『真の原価低減は、人数を減らして、初めて達成できる。だから工数の改善はあくまで人数を減らすことに焦点を当てなければならない』
『例えば、人一人減らすのに十万円の電気制御装置を取り付ける案があったとしよう。これを実施すれば、多分十万円で一人減らせたから、トヨタとしては大いに得だったということになる。しかし、よくよく検討してみたら、金をかけなくても作業手順を変えることで、一人ぐらいなら減らせるということがわかったならば、十万円かけて改善する案は決して成功ではなく、むしろ、失敗した、早まったと考えねばならない』

 こんな風にして、昭和30年には従業員5,200人で22,800台作っていたものを(一人当たり4.4台)、昭和47年には41,300人で2,107,000台も作るようになっていた(一人当たり51.0台)。車体設計の変化や、ある程度の機械化はあるとしても、実に10倍以上である。著者が所属していた半年の間だけでも、「1個あたり1分20秒」のコンベアスピードが「1分14秒」まで縮まっている。
 体験記の中でも、コンベアが故障してよく止まっている。コンベアを新調するくらいなら無理に動かして、止まって遅れた分は残業させた方が安くつく、という「合理化」である。そして残業にカウントされない拘束時間も増えていく。
 その過程でついていけなかった人がどんどん零れ落ちていくが、その分だけ新しい人間をかき集める。働きたい人間はいくらでもいる、という理屈である。何のことはない、『外部不経済』でしかない。

 トヨタの従業員のうち、一般的な採用者の他に、まず養成工がある。トヨタが設立したトヨタ工業高等学園の生徒である。それなりの教育も行っているようだが、在学中から低賃金で労働に駆り出される。教育の中でトヨタに対する忠誠心を徹底的に叩き込まれ、組長、班長、工長など現場にまんべんなく浸透し、タテヨコの関係で支配する。労働組合切り崩しの先兵としても利用された。
 もう一つの精神的中核が自衛隊出身者であり、「豊栄会」として、これまた各職場に組織されている。自衛隊勤めが数年で終わる(予備役になる)と、そうした人々を積極的にリクルートする。その身体的能力もさることながら、これまた強い連帯を持ち、組合活動、選挙運動に力を発揮する。

 トヨタは日本を代表する企業であるが、その労働環境もまた、日本の隅々に浸透してしまっているような感もある。現在では自動車製造はほとんど機械化され(職人減少を危惧したか、最近逆に手作業を増やしつつあるようだ)、トヨタ本体での重労働は鳴りを潜めたようだが、下請けへのしわ寄せは相変わらずのようだし、近年世間を騒がせる「ブラック企業」の源流がここに詰まっているような感もある。

⚡波島想太🐈 @ele_cat_namy

われわれメンテナンス分野の人間からすると、「事後保全(要するに壊れてから直す)」よりも「事後保全(壊れる前に直す)」方が全体的にコストがかからない、というのは常識である。しかし前者のコストパフォーマンスは比較的容易に算出できても、後者のそれは難しい。

2017-01-26 23:22:31

誤:「事後保全(壊れる前に直す)」
正:「予防保全(壊れる前に直す)」

⚡波島想太🐈 @ele_cat_namy

当たり前と信じているそれが、本当に当たり前なのか、直感的にはそうだと信じていても、根拠を挙げられるかといわれると答えに詰まる。

2017-01-26 23:22:39
⚡波島想太🐈 @ele_cat_namy

例えば学校のような公共施設において、老朽化により人的被害を受けるとすればそれは子供である。対外的にイメージが悪いし、特に公立学校であれば補償が法律で定められている。計算は難しいが、直感的にはやはり壊れる前に直したほうが良さそうだ、と推測できる。

2017-01-26 23:22:53
⚡波島想太🐈 @ele_cat_namy

それが自動車工場ではどうだろう。いくら労災が起きようと、それが「キモくて金のないおっさん」であったならば、一体誰が気に留めるだろうか。メディアには大量に広告を投じることで都合の悪い報道は外に出にくいとなれば、イメージの低下は考えずに済む。

2017-01-26 23:23:02
⚡波島想太🐈 @ele_cat_namy

劣悪な労働環境が知られたら労働者は減るだろうか。実際そんなことはない。みんな仕事を探していたし、日々生きるのに精一杯の人は、世間の評判なんて知ることもできなかった(少なくとも本書の1970年頃は)。

2017-01-26 23:23:12
⚡波島想太🐈 @ele_cat_namy

全国から人をかき集め、ついていける人間だけを残し、零れ落ちたものは放り出す。心身を壊した退職者がまともな社会生活を送れなくなったとしても関知するところではない。完全な外部不経済であるが、それを除けば非常に「合理的」なシステムである。

2017-01-26 23:23:23
⚡波島想太🐈 @ele_cat_namy

悪だ悪だと糾弾しても、トヨタは日本どころか世界でも有数の大企業である。あえて言えば「勝ち組」である。社員を厚遇しすぎてつぶれた企業がいくら糾弾しても負け犬の遠吠えでしかない。この心理的ねじれをどのように解消すべきだろうか。難しい。

2017-01-26 23:23:36
⚡波島想太🐈 @ele_cat_namy

原点回帰? トヨタが機械まかせだった工程を手作業に戻した理由|ギズモード・ジャパン gizmodo.jp/2014/04/post_1… 「人材育成と生産効率をあげるため」に、「機械に任せていた工程の一部を人間にやってもらうことにした」のが約3年前の話。

2017-01-26 23:33:37
リンク www.gizmodo.jp 原点回帰? トヨタが機械まかせだった工程を手作業に戻した理由 職人技に勝るものナシ?近年、工場で人間が行っていた作業のオートメーション化が進んできました。しかしそんな時代の流れに逆らい、あえて昔ながらのやり方に戻った企業もあります。トヨタ自動車は機械に任せていた工程の一部を人間にやってもらうことにしたのです。オートメーションから手作業に切り替えた理由は2つ。人... 64 users 2922
⚡波島想太🐈 @ele_cat_namy

「熟練の技術工で神様と呼ばれる人がいて、彼らはなんでも作ることができました」とはいうけれども、コンベアから流れてくるのはいつも同じ部品。ギアならギア、エンジンならエンジン、その一部分だけを延々と繰り返すのだ。

2017-01-26 23:36:17