ダメージド・グッズ #5

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
0
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(これまでのあらすじ:ネオサイタマの北には、自我を持ったオイランドロイド「ウキヨ」の共同体、ウキヨポリスがある。自我覚醒したウキヨのリンゴアメは、所有者を殺し、迎えに来たウキヨのキュナカと共にウキヨポリスを訪れる。女王と信仰で支配する地。彼らは人間と相容れぬ存在なのだろうか?)

2017-02-02 22:15:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(一方、ニンジャスレイヤーは己の周囲を嗅ぎまわる探偵、シキベ・タカコの尻尾を掴みかけた。だが折しも彼女は危険な狩人ニンジャの攻撃を受けていた。サザンクラウドはウキヨ狩りのニンジャで、シキベをウキヨと断定し襲い掛かったのだ。放置するわけにもいかずシキベを助けるニンジャスレイヤー)

2017-02-02 22:19:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(シキベは手近のマンホールを蹴り開け、身を躍らせた。ニンジャスレイヤーに逡巡する余裕はなかった。後に続き、下も確かめずに、飛び降りた)

2017-02-02 22:21:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ソウカイ・シンジケートとコトを構えて……」「お前も平穏とは程遠いようだがな」定点ボンボリ・ライトに照らされる下水のほとりを足早に進みながら、二人はやや剣呑に言葉をかわした。「お前、確かに通常の人間と違うな。おれにもわかるぞ」「ウキヨがどうとか言うつもりですか」 1

2017-02-02 22:24:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お前はウキヨではないのか」「違います」「おれはウキヨは一人しか知らない。だが……」ニンジャスレイヤーは眉根を寄せた。おもむろにシキベの腕を掴んだ。シキベは振り払おうとするが、できない。「サイバネティクスか?妙な奴だ」「色々あるンすよ。人間です」「どうでもいい。何故おれを探る」2

2017-02-02 22:32:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「まだそこまで明かしたものかどうか……」シキベは顔をしかめ、はぐらかした。「ただ、言えるのは、ソウカイヤやヤクザクランの連中に依頼されて何かしているとか、そういう事ではない。そこは安心していいスよ」「……」「アンタが狙ってまわる、サンズ・オブ・ケオスのニンジャの依頼でもない」 3

2017-02-02 22:39:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「どこまで調べた」ニンジャスレイヤーの目が燃えた。シキベは怯んだが、タフに睨み返した。「何なンスか?サンズ・オブ・ケオス。何故狙っているンスか?」「……」赤黒の目の光が失望によって薄れた。「知らないのなら、放っておけ」「ニンジャを殺しているンスよね。ニンジャスレイヤー=サン」 4

2017-02-02 22:42:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「それがどうかしたか」「どうかッて、そりゃ……」「おれを嗅ぎまわるな」ニンジャスレイヤーはシキベの手を離した。「せいぜい自身の心配をしろ。あのカラスは何だ?あれがお前を守れるとは到底思えない。サザンクラウドとかいうニンジャにおれは興味はないが、奴はまたお前を……お前……」「?」5

2017-02-02 22:52:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

何かに思い至ったニンジャスレイヤーのアトモスフィア変化をシキベは察知した。「どうしたンスか」「ウキヨを狙うニンジャだと?」「だ、そうですね。いい迷惑ッスよ。自分はウキヨでは……」「ウキヨを狙う……ニンジャ……!」 6

2017-02-02 22:54:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ツツーツー、ツーカリカリカリ。ツツーカリカリ……キャバアーン!「読み取りの完了ドスエ」合成マイコ音声が発せられた。複数台のUNIXデッキの演算音とモニタ光に囲まれてザゼンするサザンクラウドの目が見開かれた。デッキには小型のニューロン・チップが発光チューブ接続されている。 8

2017-02-02 23:01:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ブルズアイ……」見開かれたサザンクラウドの目は愉悦に細まった。カエルとウサギが餅をつく電子演算動画が消え去り、新たに開いた情報ボックスの文字列がニンジャの網膜に映り込んだ。ニューロン・チップに残されたログの解析結果だ。ハントしたウキヨは特定の相手とIRC通信を繰り返していた。9

2017-02-02 23:06:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「奴ら同士の排他的通信……いけない奴らだ……無生物が……こんな事をやってはいけないんだよ」サザンクラウドは腕のサイバネ機構を空ぶかししながら独りごちた。「ふざけたさえずりだ……我らの社会の隙間に寄生して生きる……そんな不自然な行為を、許したおぼえはない」ネオサイタマの北部。 10

2017-02-02 23:11:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

都市伝説テレビ番組や宝探しじみた噂話の類いに無駄足を踏まされるのにはウンザリしていた。しかし今回は新鮮な生の情報、生きたウキヨの情報。真実そのもの。サザンクラウドは吸い出しを終えたニューロン・チップを手に取り、表面を舐めた。「ンン……」ブルブルと震え、冷たい眼差しが戻る。 11

2017-02-02 23:18:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

狩人は冷徹な審問官じみた速度でキータイプを開始した。ただちに傭兵部隊とのIRCセッションが繋がり、編成シーケンスが始まった。サザンクラウドは実績と実力と強靭な意志をもつウキヨ狩りのニンジャである。キンボシを前に、彼のタイピング速度は加速した。 12

2017-02-02 23:25:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「スシ、オマチ!マグロ、オマチ!」ガガピー。ノイズ交じりのイタマエ音声が鳴り、ベルトコンベアを四角いマグロ・スシが流れてきた。コトブキはかじりつくようにそのさまを見つめている。「そんなに気になるの?」リンゴアメは尋ねた。コトブキは頷いた。「自動スシの知識はあまりありません」 14

2017-02-02 23:31:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「食べないと、流れて行っちゃう」「危ないです」コトブキは素早く手をのばし、皿を取った。四角いスシを咀嚼する。「飽きない味です。オイシイです」「オイシイね」リンゴアメは自分の皿を取り、微笑んだ。「アンタらちょっと妬けるよ、仲良さそうで」キュナカがにこやかに声をかけた。15

2017-02-02 23:35:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アンタら、同じ日に市民になったんだ。きょうだいだな」キュナカは言った。「どっちがお姉さん?」リンゴアメは尋ねた。キュナカは苦笑し、コトブキを見る。「それにしても自力でここに来るってのは大したもんだよ。普通は迎えに行くんだ。"ボトルメール"を拾ったウキヨの事を、こっちからね」16

2017-02-02 23:41:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「居ても立っても居られなかったです」コトブキは言った。「ちょうどTV番組で見ていたんです。秘境……でも、場所は番組と違いましたね」「そう簡単にバラしやしないさ」と、キュナカ。三人は食堂テントを離れ、空の下をゆっくり歩く。「どんな暮らしをしていた?」キュナカがコトブキに尋ねた。17

2017-02-02 23:45:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「よくわからないんです」コトブキは記憶の引き出しに触れた。「わたし、出口が無い場所にいました。そこに沢山、映画のビデオがあって……」「出口が無い?閉じ込められていたのか」「そうですね。それで、ある日、外に」「かわいそう」リンゴアメが表情を曇らせた。 18

2017-02-02 23:50:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「とんだサイコ野郎だな。でも、何もされなかったって事か?それだけはラッキーだな」キュナカが言った。「それで?そのまま自力でここを探したのか」「いえ、その場所を出てから、お店で暮らしました」「人間と?」「はい。楽しかったです」キュナカとリンゴアメは顔を見合わせた。19

2017-02-02 23:54:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そういう子もいるんだね……!」リンゴアメの声に驚嘆がにじんだ。「じゃあ、どうしてここに来たんだ?」キュナカが問うた。コトブキは答えた。「わたしはウキヨですから、ウキヨに会ってみたかったんです。生きる意味が見つかるかもしれないと思って」「生きる意味……」「自分探しです!」 20

2017-02-02 23:59:36