空想の街・冬の目覚め 2017・1日目

twitter上の創作企画「空想の街」2017年冬の1日目のまとめです。 不具合や漏れ等ありましたら公式アカウントまでお知らせをお願いします。
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告知

空想の街公式アカウント @humptyhumtpy

【告知】空想の街告知です!2月4日と5日、空想の街の住人として遊びませんか?wiki www4.atwiki.jp/fancytwon/主催 @harasaraha @siduku_xxx 参加前に各自wiki(街・花と海の目覚め)の確認をお願いします。 #空想の街

2017-02-03 18:30:12

前日譚たち

青の楽園/「羊たち」 @nowhereao

がたり、と音を立て、全身で抱えていたバイクを地に着ける。 #空想の街 #青の楽園

2017-02-03 20:04:34
青の楽園/「羊たち」 @nowhereao

遠ざかって行く船を見送り、汽笛と同じ色の息をゆるく吐きながら、背の高い若者は体中に巻くように身に付けているたっぷりした布を傾けた。少々青みを帯びた黒い髪が、宇宙的な大爆発でも起こしたかのようにつむじから生えている。 #空想の街 #青の楽園

2017-02-03 20:05:04
青の楽園/「羊たち」 @nowhereao

この街に来るのは――何度目だろうか。まだ数回しか来ていない筈なのだが、なんだか非常に懐かしい気もするし、かと思えばふと他人のような顔も突きつけられる。つらつら考えつつ、まだ幼さも残る、ただ背だけが高い青年は人気のない街をバイクに乗らずに進んでいく。 #空想の街 #青の楽園

2017-02-03 20:05:34
青の楽園/「羊たち」 @nowhereao

時計塔。椿のステンドグラスに彩られた盤と針は夜八時を指していた。 ――今回の行事、花と海の目覚めは明日からだ。 #空想の街 #青の楽園

2017-02-03 20:06:08
青の楽園/「羊たち」 @nowhereao

北東にある港から、ゆっくりと時間をかけて北区を通りすぎ、中央区まで進む。店や家々の隙間に隠れるようにして存在している扉の前で、青年は漸く立ち止まる。スタンドを立て、大きな黒ブーツに包まれた足を進め、そして布からグローブを纏う手が現れた。 #空想の街 #青の楽園

2017-02-03 20:06:45
青の楽園/「羊たち」 @nowhereao

ノックの音が響く。 三回目で、彼の背後に群れを作って休んでいた野良猫たちが走り去った。その細やかな足音の消える頃、もう三回、ノックが繰り返される。 #空想の街 #青の楽園

2017-02-03 20:07:31
青の楽園/「羊たち」 @nowhereao

おもちゃの箱庭にでも放り込まれたかと錯覚しそうなしじまが耳の氷を厚くする中、それでも青年は片眉を上げたほどで諦めようとはしなかった。奇妙なプレートが下がった木の扉――誰もが通り過ぎて気にも留めない貧相なドアをしつこく叩き続ける。 #空想の街 #青の楽園

2017-02-03 20:08:29
青の楽園/「羊たち」 @nowhereao

それが十回になり、二十回になり、そろそろ近所迷惑だと誰かに怒鳴られそうなくらいの音量で、拳全体を使って青年が叩いて十分ほど後―― #空想の街 #青の楽園

2017-02-03 20:09:21
青の楽園/「羊たち」 @nowhereao

「るせーっつってんだてめこの野郎良い子は寝る時間だろうが!こちとら三日徹夜で死にそうなんだよ押し売りだったら間に合ってるって何度も言ってんだろうが脳みそねえのかアホんだら!とっとと出て行けさもねえと○○から手え突っ込んで奥歯ガタガタ言わすぞこの――って、」 #空想の街 #青の楽園

2017-02-03 20:10:46
青の楽園/「羊たち」 @nowhereao

どうみても成人そこそこにしか見えない、柔らかな若草色の髪をした人間によりいきなりドアは開放されたのだが、 全身でドアの反撃を受けた長身の青年はつむじと言わず爆発を起こして後ろへと引っくり返っていた。 #空想の街 #青の楽園

2017-02-03 20:11:32
青の楽園/「羊たち」 @nowhereao

ドアを開けたほう――肩ほどまでに若草の髪を伸ばしている黒いハイネックの人間は、それまでどこから出していたのか怪しい低音を仕舞いこみ、素っ頓狂な声を上げて倒れた相手を認める。ドアと倒れた相手とをしばし見比べてみるのだが、だからといってどうなるわけでもない。 #空想の街 #青の楽園

2017-02-03 20:13:10
青の楽園/「羊たち」 @nowhereao

「ん――おやおや誰かと思えばララ、貴方でしたか。久しぶりですねえ。大丈夫です?」 「どの口で大丈夫ですかなんてほざく……」 打って変わって丁寧になる相手は放置し、俺の味方は愛車だけだよ、と呟き、つむじから伸びる髪を揺らしてララと呼ばれた青年はその場に蹲る。 #空想の街 #青の楽園

2017-02-03 20:14:31
青の楽園/「羊たち」 @nowhereao

「まあ――ごめんなさいって。ほら外は寒いでしょう。今寝かけてたところだったんですけど、暖炉は点いてるんであったかいですよ、入って」 ノックの正体が分かった途端に愛想がよくなった相手に、青年は肩を回して立ち上がった。今の言葉が本当なのならば悪いのはこちらだ。 #空想の街 #青の楽園

2017-02-03 20:16:27
青の楽園/「羊たち」 @nowhereao

「邪魔なら俺帰る」 「今から出る船を待つんじゃ風邪引きますよ。年上の優しさは素直に受け取っておくもんです。まあ貴方に親切にするのもあれなんですけどね」 「出たよ女好きの元ヤン」 「前言撤回です。とびきりひどい風邪を引くように私が薬品で調整して差し上げます」 #空想の街 #青の楽園

2017-02-03 20:17:32
青の楽園/「羊たち」 @nowhereao

軽口を叩きあいながら、改めてバイクを脇に寄せて青年は示された内部へ入る。迷宮だ。古く分厚い本が石筍の如く立ち並び、それだけで柱や椅子やテーブルのようになっている。青年が本物の椅子に座るうちに、相手はというと、唯一整頓されている巨大なベッドへ飛び込んでいた。 #空想の街 #青の楽園

2017-02-03 20:18:54
青の楽園/「羊たち」 @nowhereao

くぐもった声が這ってくる。 「それは冗談として――私は眠いので本当に寝ます。何のお構いもできなくてすみませんね」 「いいよ。当座の宿があるだけめっけもんだし、俺こそ別にお前の手伝いも何もできないけどまた押しかけちゃったわけだし」 #空想の街 #青の楽園

2017-02-03 20:19:30
青の楽園/「羊たち」 @nowhereao

いてもいいかな、と訊けば、相手は苦い顔を向けてきた。相手の右耳から下がる、鱗のようなレンズが連なる長いピアスが音を立てる。 「仕方ないですね――分かってます。貴方は自分の仕事をやりにきたわけでしょうから私には害はない。お伺いなんて立てなくていいですよ今更」 #空想の街 #青の楽園

2017-02-03 20:20:50
青の楽園/「羊たち」 @nowhereao

さんきゅ、と言えば、いいえ、と眠そうな声が返ってきた。ピアスの側は癖があり、そして反対に左側はまっすぐ肩まで伸びている若草色の髪をかき回し、相手はとうとうこちらに背を向けてしまう。奇妙な男だ。こちらの職業は知られているが、相手のことは特に聞いていない。 #空想の街 #青の楽園

2017-02-03 20:22:22
青の楽園/「羊たち」 @nowhereao

出身地が同じだということが初対面で割れ、それを契機に縁が出来た。自分はよく国に帰るのだが、相手が帰ったところは一度も目撃したことがない――それでも相手はとりあえず親切だ。おかしな仲といえばそうなのだが。 #空想の街 #青の楽園

2017-02-03 20:23:10
青の楽園/「羊たち」 @nowhereao

もう声をかけないほうがいいか、とこちらも布を取って灯りに照らされていたが、 「そうだ。俺ここでちゃんと仕事やれるか見て回ろうと思うんだけど、お前は今回もどこにも出かけないの」 「――宿泊所を貴方に提供する、その支払いは無言であることだった筈なんですけど」 #空想の街 #青の楽園

2017-02-03 20:25:17
青の楽園/「羊たち」 @nowhereao

「分かってる。けどお前大体おかしい調合してるか寝てるか変な論文みたいなの読んでるだけじゃん。折角こういう場所に住んでるのに、なんか惜しいなって思ってて。こう、やりたいこととかさ、」 会いたいひととかいないの、と、こちらの静かな声が薪の割れる音に重なった。 #空想の街 #青の楽園

2017-02-03 20:26:18
青の楽園/「羊たち」 @nowhereao

返事はないかと錯覚するほどの沈黙ののち、相手はずりずりと毛布ごと移動し始める。 「奥で寝ます。貴方はそっちのベッド使っていいからこっち来んじゃねえぞ」 「地が出てるぞ元ヤン。――あのさ、俺は俺なりにお前が心配なの。おい。待てって。聞いてる?おーい!」 #空想の街 #青の楽園

2017-02-03 20:27:45
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