絵画杯の裏話

緊急作成やつ
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さいか @yar_anaika

一つの絵を愛した、私の話

2017-01-29 14:28:20
さいか @yar_anaika

ヒトは何の為に生まれてくるか。 その意味を最初から知ってるのは、何億といる人類の中で殆どいない。 逆に言えば、いないわけではないのだ。 己の業が何かを正しく自覚して生まれてきたニンゲン。 それが私。

2017-01-29 14:29:38
さいか @yar_anaika

私は胎内で眠っているその時から、『せいはい』という器になる事を知っていた。私もまたその宿命を知った上で、この世界に生まれ落ちてきた。 『せいはい』――『聖杯』になって、あなたは悲願を叶えるのよ。 あなた?それ、誰の話? 言わなくても分かるわ、私の話ね。

2017-01-29 14:31:39
さいか @yar_anaika

聖杯になって一族の悲願を叶える、ね。 魔術師である私はそれを理解する。 でも『ニンゲン』である私は理解しない。 英霊の魂を詰め込む器になって死ねですって? 貴方達の理由で私の生は踏み潰されろと? 酷い話ね。悪魔の所業だわ。

2017-01-29 14:34:41
さいか @yar_anaika

聖杯になるべくして育てられた私は、11歳の時に転機を迎える。 『聖杯戦争』が開催される事になった。 ああ、私死ぬのね。不思議と涙は出なかったけれど。 そういう風に生まれてきたのだから、そういう風に死ぬのが運命という奴なのよね。 でも悔しいわ、と私は絵の中の聖母に語りかけた。

2017-01-29 14:37:42
さいか @yar_anaika

家にあった画集の聖母は、私の母とは似ても似つかない優しい表情をしていた。 彼女が抱いている子供になりたかった。 子供を道具として扱う実母より、絵の中の聖母の子になりたかった。 私は、『貴方』の絵の中のニンゲンになりたかった。

2017-01-29 14:39:56
さいか @yar_anaika

聖母は何も答えないまま、その『転機』は訪れた。 聖杯戦争で一族としての勝利を収め、聖杯として一族の悲願を遂げる。 寂しい人生だったと過去を振り返った。 親から渡された聖遺物が、とても憎らしいものに思えた。 この聖遺物の持ち主なんかに、私は興味はない。 だから、私は。

2017-01-29 14:42:05
さいか @yar_anaika

――しかして、私は聖杯にならなかった。どころか、私の手には令呪すら現れなかった。 私の一族を敵視する家が小細工をしかけて、別の聖杯を用意したから。 だから、『その聖杯戦争』で、わたしはいらなかった。 何でか分からない、何でか分からないけど。 私は、怒っていたみたい。

2017-01-29 14:45:02
さいか @yar_anaika

実は私ね、親に貰った聖遺物なんてポイして、別の人を呼ぼうと思っていたの。 私が好きな絵画の、作者さん。 勝てる勝てないなんてどうでもよくて、私はただその人に会いたかった。 そう、私が怒ってたのって、きっとそういう事なのね。今でもあまり自覚は無いけど、なら納得がいくの。

2017-01-29 14:49:09
さいか @yar_anaika

貴方に会いたい、貴方に会いたい、貴方に会いたい貴方に会いたい貴方に会いたい貴方に会いたい貴方に会いたい貴方に会いたい貴方に会いたい貴方に会いたい貴方に会いたい貴方に会いたい貴方に会いたい貴方に会いたい貴方に会いたい貴方に会いたい貴方に会いたい 私は、貴方の絵に恋をしているの。

2017-01-29 14:50:06
さいか @yar_anaika

不幸中の幸い……と言うのかしら?選ばれたマスターの内の一人が、私の一族の分家だった。『聖杯』として私を可愛がっていた、とある魔術師。 『ねえ、あなたの令呪、頂戴?』 そんな事は言わなかったけれど。 再会のハグをしようとしたその人の首を、ひゅっ、て蟲を潰すみたいに切り落とした。

2017-01-29 14:52:42
さいか @yar_anaika

令呪の強奪。『貴方』に会う為の片道切符の獲得。 陣を描いて呪文を唱えて、どうか来て下さい私の恋。 『サーヴァント、キャスター。召喚に応じ参上した、が……君が私のマスターか?』 背丈が小さな私と目線を合わせるように、彼は屈んでくれた。 視線が、交差した。

2017-01-29 14:55:09
さいか @yar_anaika

ねえ聞いて!わたし、一目で分かったわ! この人が、私の大好きな聖母を描いた作者さん。 私の希望の持ち主。私の恋の作り主。 嬉しくて、顔が緩むのが抑えられなかったわ。レディなのに、はしたないわね。いけない、いけないわ。しっかりと背を伸ばして、マスターらしく、レディらしく挨拶しないと

2017-01-29 14:58:18
さいか @yar_anaika

『ええ、そうよ。私が貴方のマスター。貴方を扱うご主人様。…よろしくて?』 心臓がばくばく言っていた。憧れの人を前に、今にも爆発しそうな心臓を抱えながら、私は精一杯を取り繕った。 彼は私の言葉を聞くと、少し困ったように笑みを浮かべた。 戦争に似つかわしくない穏やかな微笑み。

2017-01-29 15:03:33
さいか @yar_anaika

その雰囲気は、絵で見た聖母にそっくりだった。 全てを包み込んで、許して、慈愛を与える、暖かな笑み。 呼吸、本気で一回止まったかもしれないわ。 『ご主人様、か。私はあまり、こういうのには慣れていないのだが…』 『「仰せのままに、ご主人様(プリンチペッサ)」…これで、どうだろうか」

2017-01-29 15:06:23
さいか @yar_anaika

傅いて見せる彼の姿はぎこちなくて、でも、その初々しさが、戸惑いが、私の心臓を掴んだ。 本当に呼吸、止まったわ。 『……姫君(プリンチペッサ)は、流石に恥ずかしいわ』 恋そのものに『お姫様』なんて扱われたら、死んでしまうじゃない、私。 『そ、そうね。じゃあ私の事は――』

2017-01-29 15:09:30
さいか @yar_anaika

――彼は聖杯戦争が好きだと言った。 人々の生と生がぶつかる瞬間が、とても美しいと感じるそうなの。 曰く、『一番綺麗な絵画とは、人の生き様そのものだ』って。 私にはよく分からなかったけど、戦争の中で貴方が描いた絵は素敵だった。

2017-01-29 15:11:44
さいか @yar_anaika

私ね、貴方を呼んだ時点で『聖杯じゃなくなる運命』を願う事は、やめたの。 もっと貴方の絵が見たい。私の心を奪った、貴方の絵が。 聖母の子になれなくてもいい。貴方の絵を見ていたい。 『ねえキャスター。前に言ったお願い事、あれ嘘なの』 『嘘…?』 聖杯の前に立って、私は祈りを捧げた

2017-01-29 15:13:42
さいか @yar_anaika

――『こんな素晴らしい芸術が一度きりだなんて、惜しいものだな』 ――『できればまた呼ばれたいものだ』 ――『「聖杯戦争」という絵画は、それほどに美しかった』 ――『まだ、描いていたかったよ』 ねえ、その願い、叶えましょうよ。

2017-01-29 15:15:23
さいか @yar_anaika

『私の本当のお願い事はね、貴方の綺麗な絵をもっともっと見る事なの』 『……?それは一体どういう事だ?』 『つまりこういう事よ』 聖杯に私は願う。本来私がなる筈だった器に、私は願いを注ぐ。 『もう一度、聖杯戦争を』

2017-01-29 15:16:32
さいか @yar_anaika

世界が反転した。 聖杯戦争の……いや、『前回の』聖杯戦争による傷跡は、全て無へと帰した。「無かった事」になったの。 『前回』を覚えているのは、私とキャスターだけ。 盤上(ステージ)のリセット。駒(マスター)の再配置。 貴方(キャスター)の為の、アトリエの完成だわ。

2017-01-29 15:18:31
さいか @yar_anaika

――『彼女』に関する記述。

2017-01-29 15:19:51