空想の街・花と海の目覚め'17 三日目 #赤風車

#空想の街 花の目覚め・海の目覚めの期間外そのいち(17/02/06) #赤風車 纏め。 この次が終局。 過去本編など→http://nowhere7.sakura.ne.jp ※文章や画像の無断転載及び複製・自作発言等の行為はご遠慮ください。著作権は それぞれの作者に帰属します。画像はこちらから→http://catinthedeath.web.fc2.com/ 続きを読む
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或る初春に寄せる狂騒

不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

相当な速度で歩かなければ、もしくは向かい風が酷い状態でなければ、肩で風を切るなどという器用な芸当はとてもできないのだが、それを軽々とやってのけながら渋い顔をした実華が癖で胸ポケットへ手を伸ばした。何もない。 #空想の街 #赤風車

2017-02-06 10:32:12
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

当然だ、紙巻はここ最近、家の抽斗の中で留守番である。ずっとこの調子で街へやってきたものだから擦れ違うものは皆兢々だ。ただ一人、そんな状態の実華に怯みを見せずにいられる男が後を追いかけている。 「じっかさん!ほんとにいっつも先に行っちゃうんだから」 #空想の街 #赤風車

2017-02-06 10:32:54
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

「あァ?何か文句でもあるのか我が夫」 と語尾を荒げて振り返り、形だけでも反応を返してやれば夫の洸太郎は律儀に「文句じゃなくてただの感想だよ」と言って横に並ぼうとしてくる。 「いい度胸だ洸太郎。私が横に来てもいいと認めているのはお前くらいなんだからな」 #空想の街 #赤風車

2017-02-06 10:33:27
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

言葉通り、他の人間が気安く並ぼうとすると相手を張り倒す勢いで上品な雑言を飛ばす実華が、歩く速度を僅かに落とした。ここまで夫を振り回すのもいけないとふと我に返ったのだ。 #空想の街 #赤風車

2017-02-06 10:34:02
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

やっと普通の会話ができるほどには落ち着いた二人が、久しぶりの街を進んでいく。 洸太郎にとっては昨日ぶりなのだが、こんな遣り取りを出発してから引っ切り無しに続けていたためか、昨日のことがとんでもなく懐かしいことのように思えていた。 #空想の街 #赤風車

2017-02-06 10:34:34
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

「直行するんじゃと思ってたらほんとに直行しようとするんだもの。最近よく勘が当たる気がする」 「いいことじゃないか。少しくらい目出度いことが起きんと私はもう退屈で死ぬぞ、お前のそういう意味の分からん報告さえもとんでもない朗報だ!」 ――苛々するのも仕方がない。 #空想の街 #赤風車

2017-02-06 10:35:08
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

怒鳴って歩くのは如何かとは流石に思うが、今だけはそれも許してやりたいというのが洸太郎の心情だ。洸太郎も実華も、そして二人のいもうともなのだが、肩が角ばって固まる時間ばかり過ごしてしまっている。もうここ数年そうだ。 #空想の街 #赤風車

2017-02-06 10:35:57
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

「ぼくもちょっと弱音を言いたい。実華さんも言っていいと思う」 「私の頭に弱音などという項目がそもそもないが?」 「そうならそのままでいいよ」 #空想の街 #赤風車

2017-02-06 10:36:54
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

項目がなくとも今の態度が弱音だ。強気が弱気に直結しているというよりは逆転しかけている、器用で不器用な妻を歩きながらとっくり検分し、洸太郎は向かい風に舞い上がる前髪を押さえる。 #空想の街 #赤風車

2017-02-06 10:37:34
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

「このままじゃ呼吸するだけで筋肉痛になるよ。気づかれないように探るのって結構面倒だね」 「これぞ腹の探り合いというもんだ。水面下で何かやりあうなんざ上のに構えば当たり前のことだろう、これからも続くんだろうからこの程度で音を上げるなよ――と言いたいところだが」 #空想の街 #赤風車

2017-02-06 10:38:41
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

そこでまた歩幅が狭くなり、一層速度が緩やかになる。勢いづいて一度追い抜いてしまいながら洸太郎が実華を見た。 「探り合いにしてはこっちの一人相撲のような錯覚に陥るし、何しろ程度がおかしいからなァ。お前の気持ちもよく分かるよ」 薄化粧の頬が外気に晒されている。 #空想の街 #赤風車

2017-02-06 10:39:44
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

渋るように端正な唇がはためいた。「我々が動いた途端に白鳥からの電話はぱったり途絶えたし――こっちからは繋がらんわ会合で問い詰めようにもそもそも向こうが出席しないわで散々だ。何なんだおい、勝手に言うだけ言って向こうはこっちを諦めたのか?あの電話も全部戯れか?」 #空想の街 #赤風車

2017-02-06 10:41:23
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

実華の言はまだ続く。 「あれだけ字が出ておいて隠すも何もない。犠牲者が哀れな交換手だけだったなんて落ちは勘弁だぞ」 知らず知らず洸太郎の気持ちも代弁してしまった実華は脇目を振らずに進んでいく。錐のようになった視界の先端目がけて歩けば東区南の海近くに出る筈だ。 #空想の街 #赤風車

2017-02-06 10:42:31
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

「犠牲者の数は少ないほうがいいけどそうだったら帳尻が合わないからね。……こういうの、生きてる限り身の回りで起きないと信じてたのに」 「少なくとも私は起こさないつもりだった!だが現に起こったもんはもう変えられん」 交換手が生きている、という線も消してはいない。 #空想の街 #赤風車

2017-02-06 10:43:56
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

死体も何も見つかっていないためだ。ただそれをひいても死んでいるほうの見通しには簡単に負けてしまう。どこに行ったのか、書いて回しても誰も真剣には捜そうとしない。身元が元々はっきりしていない人間だった所為で警察も家出のようなものとして処理してしまう。 #空想の街 #赤風車

2017-02-06 10:44:43
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

「こうなったのには我々にも少なからず責任があるんだ。積極的に不穏の種を招き入れたり庇ったりする行為はしなくとも、公になるまで気づかずにいたというのもまたひとつの罪なんだからな」 #空想の街 #赤風車

2017-02-06 10:45:37
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

町中に間を空けず警察官を配置してやりたいのが実華の本音であるが、当然そうはいかない。人員も足りなければそんな規則もなし、そこまでは口を挟めない。あの手この手で様々な家と縁を持ったため、昔よりは動かせるものも増えたが、それでも実華は町長でも何でもないのだ。 #空想の街 #赤風車

2017-02-06 10:46:24
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

「にしても妹はもうこの先にいるのか?あいつもすっかり垢ぬけて――先の夏も何が何なのかと思ったが静かだし――逆に怖いくらいなんだが」 徒華が一文字に会いに行くのを、これまでならばやめておけの一点張りだった実華が許したのは、実華自身も会いに行くつもりだからだ。 #空想の街 #赤風車

2017-02-06 10:48:15
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

「前会ったときに聞き出すのは無理かと思ってあっさり身を引いたのが間違いだったな。私としたことがとんだ回り道だ、あの場で揺さぶって拷問してでも吐かせるべきだったんだ。だからこんなに後れを取った。あの男め生意気なつらをしくさりおって――」 #空想の街 #赤風車

2017-02-06 10:48:55
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

じっかさん、と洸太郎が呼んでくるのを、実華は気づいていない。 「どうせあの男が何か招き入れたんだろうが、今度こそ洗いざらい吐かせてやる――併し一文字とかいう男も六條櫻子も白鳥柘榴もどうしてこう厄介なんだ!妹はつきあう相手を選ぶのが何故こんなに」 「実華さん」 #空想の街 #赤風車

2017-02-06 10:50:45
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

見知らぬ人の家を三軒ほど過ぎたあと、すう、と何かが抜けていくように実華の歩みが遅くなり、とうとう止まる。 そうじゃなく、と、そのうちその形の綺麗な唇が形作った。 「そうじゃなくて」 #空想の街 #赤風車

2017-02-06 10:51:54
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

静かに呼んだきり黙っている洸太郎には目もくれず、実華は首を振り振り細い肩を自分で抱え込むようにして言葉を繰り返し、そばの塀へと身を寄せた。暫くの間呼吸を整えている実華を、数歩先で立ち止まっている洸太郎は無言で見つめている。 #空想の街 #赤風車

2017-02-06 10:53:56
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

「分かってる、そんな目で見るなよ。言い過ぎた――違うんだ」 「ぼくは別に怒ってないし、謝る相手が違うと思うけど、なんていうか、実華さん、――寒くない?」 「さむくはないが」 徐に上着を脱ぎかける洸太郎を片手で制し、いつものブラウス姿の実華は首をひん曲げた。 #空想の街 #赤風車

2017-02-06 10:55:21
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

「甲斐甲斐しくするな。こっちが重病人みたいじゃないか」 「あのねぇ」 大袈裟に上目づかいで睨む実華へ、洸太郎が諭すように口を開く。 「お忘れかもしれませんけど、ぼくはきみの夫です。心配も責任も感じてるんだよ、あまりにも疲れてるじゃない、お酒も煙草も我慢して」 #空想の街 #赤風車

2017-02-06 10:56:35
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