ダメージド・グッズ #7

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

道路脇のバイオカンガルー飛び出し注意標識は電灯で飾られ、戯画化した顔がイタズラで上塗りペイントされ、「前後!」という落書きすらも書き加えられていた。荒野の一軒家の屋根には「信じなさい」と威圧的にペイントされていた。運転席のシキベも、助手席のニンジャスレイヤーも、しかめ面だ。 1

2017-02-09 22:20:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ウォーラララ、ウォーラララ、ウォーザリザリザリ……ザリザリキュイイイイ」短波ラジオが届かなくなり、車内は雑音で満たされた。ダッシュボードの上に飾りのように「佇んでいる」三本足のカラスが目を見開き、クチバシでラジオをコツコツと叩いた。「ゲーッ!ゲーッ!」 2

2017-02-09 22:23:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーとシキベは険しい視線を互いにぶつけた。「ゲーッ」やがてカラスが首を振り、屈みこんで、器用にボタンをつつき、オフにした。「……実際、信頼のおけるソースだな。ラジオも消せる」ニンジャスレイヤーが言った。「やめませんか。そろそろ」シキベは前方を見据えたまま言った。 3

2017-02-09 22:26:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「フー……」ニンジャスレイヤーは息を吐いた。シキベの車は小型で、曲線がしゃれている。だが荒野のドライビングに万全の車両とは言えなかった。国家崩壊後、道路インフラの劣化に歯止めはかからず、亀裂やバイオ木の根の浸食がひどい。廃墟には盗賊団やカルティストが隠れ住むようになった。 4

2017-02-09 22:29:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼らはネオサイタマを北へ離れた。向かう先は……。「私らのこと信用しているから、無理やり協力させてるわけッスよね。それならもっと友好的に……」「ゲーッ!」「ああ、ダメだ。全く」シキベは頭を掻いた。「この際、しっかり自己紹介させてもらってもいいスか、ニンジャスレイヤー=サン」 5

2017-02-09 22:33:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーは頷いた。シキベは咳払いした。「シキベ・タカコ。私立探偵ッス。伝説の探偵クルゼ・ケンの後を継いだ探偵タカギ・ガンドーの後を継いだのが私」「ああ」「今はネオサイタマにいますが、受けてる依頼っていうのが、ぶっちゃけると、アンタ……ニンジャスレイヤーを把握する事」 6

2017-02-09 22:36:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「把握?」「ニンジャスレイヤーは約十年前……要は、月が割れて磁気嵐も国もなくなる前ッスね……ネオサイタマに居たンスよ。アンタじゃないですよね」「おれではない」ニンジャスレイヤーはシートにもたれた。だからどうした、とでも言うように。「ゲーッ」カラスが鳴いた。 7

2017-02-09 22:40:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「関係ない、って感じスね」「関係ない」バウッ。亀裂でクルマが跳ねた。シキベは続けた。「昔のニンジャスレイヤー……私は直接は知らないスけど。依頼者は知っていた。ニンジャスレイヤーってものを」「昔の奴など……」「ゲーッ」カラスが咎めるように鳴き、ニンジャスレイヤーをじっと見た。 8

2017-02-09 22:43:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーはカラスから目をそらした。「それで」「私の知るところでは、ニンジャスレイヤーっていうのは、過去千年以上に渡って、時代時代で出現していたようなンスよ。彼らが引き起こした災いの幾つかの記録がある……と言いたいですが、まあ、証拠は無いンスけど、そういう話」「……」 9

2017-02-09 22:46:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「中には都市ひとつ滅ぼしたなんて事もあったらしく!」ギャルルル!車が寸前でバイオカンガルーを回避した。「もし今のネオサイタマにそういう奴が現れたなら、マズイんで対処しなきゃいけないッて事」空気がミシミシと鳴った。ニンジャスレイヤーの殺気だ。「おれの邪魔をしに来たのならば……」10

2017-02-09 22:51:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「だから。ここまで話すッて事は、つまり」シキベが顔をしかめた。「ゲーッ」カラスが鳴いた。シキベはカラスを見た。本当にいいのか?と確かめるように。カラスは車載UNIXの文字入力をクチバシで操作した。液晶パネルに「保留」と文字が映った。シキベは溜息をついた。「そう。保留ッス」 11

2017-02-09 22:54:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「監視か?お前にそんな権限があるとでも?」ニンジャスレイヤーは唸った。シキベは言った。「私の事はどうでもいいでしょ。とりあえず無差別殺戮をやるタイプではないッて事はなんとなくわかった。それが確かめられた以上、私達……私としては、深入りするつもりは無いス。今、マッポーだしね」 12

2017-02-09 23:00:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ならば今がどれだけマッポーか確かめるか」ニンジャスレイヤーの目が赤黒く燃えた。タタッ、とダッシュボード上でカラスが位置を変えた。眼力、立ち位置、行動の予兆。何らかの力の緊張があった。早撃ち勝負めいて。「私は簡単にアンタに殺されると思いますよ、そりゃ」「チッ」目の火が去った。13

2017-02-09 23:06:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハア。よかった」ハンドルを操作しながらシキベは淡々と言った。「だから、勝手にすればいい。私は警察じゃないし、そもそも警察なんてとっくに死語ですし」「……」ニンジャスレイヤーは肩透かしめいた感覚に、眉間を皺寄せた。「とりあえず、今回の追跡は信用してくれていいス」と、シキベ。 14

2017-02-09 23:13:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ちょっと興味もありますしね。ウキヨの共同体なんて」「ゲーッ」カラスが頷いた。「そのカラスは何なんだ」ニンジャスレイヤーが尋ねた。「何故サザンクラウドを追跡できる。そもそも……何なんだ?」「探偵ッスよ」シキベは答えた。「タカギ・ガンドー。ウチの所長ッス」「ゲーッ」 15

2017-02-09 23:19:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「所長はサザンクラウドと交戦しました」シキベは傷をつくろうカラスを見ながら、「だいぶ激しくやったんで、あいつのソウルを追えるンス。肉も齧りましたか。所長」カラスは無視し、向きを変えて前方を見た。シキベはニンジャスレイヤーを見た。「そういうこと」「ああ。わかった」 16

2017-02-09 23:22:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シキベは顔をしかめた。「……本当にわかったンスか?」「必要な事は」ニンジャスレイヤーはぞんざいに頷いた。「何故だの、どうしてだの、イチイチ問い詰めていられるか……」そして彼は目を閉じた。 17

2017-02-09 23:27:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

月明りの角度。闇。コトブキがクールダウン状態から復帰したのは、接近してくる足音に反応しての事である。「キレイです」高い位置にある窓の向こう、砕けた月を見上げ、コトブキはひとり呟いた。「空が澄んでいます」「……コトブキ=サン」鉄格子ごしに、影が身を乗り出した。「私。リンゴアメ」19

2017-02-09 23:34:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「リンゴアメ=サン?」コトブキは瞬きし、首をそちらに向けた。「何故ここに?どうやって入って来たんですか?」「シーッ」リンゴアメが指を立てた。「忍び込んだ。うまくいったの」やや考え、「やけに簡単に忍び込めた。護衛の皆、妙に浮足立っていたから」「何をしに来たのですか。危ないです」20

2017-02-09 23:40:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

リンゴアメは通路を気にしながら、「大丈夫」と呟いた。チェーンロックの六桁のナンバーをダイヤルしてゆく。「出してあげる」「そんな事をしたら、あなたも危険です。よくない」「いいの」リンゴアメは言った。「あなたはここに来た。でも帰る。それだけなのに、幽閉したり処分するのは変だよ」21

2017-02-09 23:44:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「わたしは平気です」と、コトブキ。「落ち着いたら、なにか方法を考えようと思っていましたし。それにわたし、この場所の秘密を誰かに教えるつもりなんて、ありません。この場所の人たちにも事情があるという事、よくわかります。だから、真剣に話せば伝……」ガチャリ。「開いた!」「まあ!」 22

2017-02-09 23:48:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「出て」リンゴアメはコトブキの手を取り、グイと引っ張った。コトブキはよろめきながら牢を出た。「良かったのでしょうか」「大丈夫」「私はウキヨポリスの人たちに助けてもらった。だから、私はあなたを助けてあげたい」リンゴアメは言った。「この事は……間違ってると思うから」 23

2017-02-09 23:54:20