「午前0時の小説ラジオ」・「国歌と国旗」

「午前0時の小説ラジオ」・「国歌と国旗」
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高橋源一郎 @takagengen

「午前0時の小説ラジオ」・本日の予告編1・前回は5日連続で「小説ラジオ」をやりましたが、今日からは平常運転です。でも、今回はちょっと、悩ましいテーマです。4月に迫ったれんちゃんの小学校の入学式で、もし「君が代」を起立して斉唱することを求めたられたらどうするか、という問題です。

2011-03-02 22:34:35
高橋源一郎 @takagengen

「午前0時の小説ラジオ」・予告編2・ぼくは、入学式には出席し、もし起立と「君が代」を求められても、起立せず・歌わないつもりです。だが、そのことで、子どもを不快な状態に陥らせたくない。だから、出席しない方がいいのかもしれないと考えたりもします。できればスルーしたい問題ですけれど。

2011-03-02 22:38:52
高橋源一郎 @takagengen

「午前0時の小説ラジオ」・予告編3・この問題を急にとりあげるのは、昨日、深く考えさせられる出来事にぶつかったからでもあり、数時間前に「自民党が「国旗損壊罪」提出へ 君が代替え歌に刑事罰検討」というニュースを見たからでもあるのです。今晩はみなさんとじっくり考えたいと思います。

2011-03-02 22:43:49
高橋源一郎 @takagengen

「午前0時の小説ラジオ」・予告編4・ぼくも思案中のことです。結論が出るかどうかもわかりませんが。では、後ほど、24時に。

2011-03-02 22:45:23
高橋源一郎 @takagengen

「午前0時の小説ラジオ]・「国歌と国旗」1・つい先日、ぼくが努めている大学(明治学院)の教授会で、印象的な出来事があった。本人の許可をとっていないので「ある先生」としておこう。「ある先生」は何年も卒儀式に参加されていない。その理由を切々と語られ、ぼくは強い衝撃をうけたのだ。

2011-03-03 00:00:01
高橋源一郎 @takagengen

「国歌と国旗」2・「ある先生」が教授会で述べられたことを、内容を改変しないようにまとめると、こうだ。「 このことを述べるのは、たいへんな心理的圧迫があることを理解していただきたい。わたしが卒業式に出席しない理由の一つ目は「賛美歌」を歌うことに抵抗があるからです‥」

2011-03-03 00:05:09
高橋源一郎 @takagengen

「国旗と国歌」3・「‥それは信仰に関することというより、これを歌う新入生諸君を圧迫することになるのではないかと思うからです。わたしたちの学校はキリスト教系の大学ですが宗教学校ではありません。新入生の中に、イスラム教徒や仏教徒や神道を信じる者もいるかもしれない‥‥」  

2011-03-03 00:08:05
高橋源一郎 @takagengen

「国旗と国歌」4・「‥彼らの信仰と異なるものを信じる歌を歌わせること、それも最初の機会に、それは彼らを圧迫することにならないのか。もう一つは、校歌です。ご存知のように、わたしたちの校歌は島崎藤村が作詞したもので、たいへん優れたものです。だが、わたしには歌えない歌詞がある」

2011-03-03 00:11:04
高橋源一郎 @takagengen

「国旗と国歌」05・「それは「ああ行けたたかへ雄雄しかれ」という部分です。わたしは歌う気になれない。おそらく、この歌詞に異和を感じるのはわたしだけではないはずです。わたしは、式に参加する人を止める気は毛頭ありません。けれど、わたし自身が参加してあの曲を歌う気にはなれないのです」

2011-03-03 00:15:09
高橋源一郎 @takagengen

「国旗と国歌」6・「ある先生」のその発言を聞いて、ぼくは、ぼくが見て見ぬふりをしていた部分を、鋭く指摘されたように思った。最初の「賛美歌」についていうなら、うちの大学はきわめてリベラルで、信仰の強制も儀式への出席の強制もない。宗教的教育も形式的なものだ。

2011-03-03 00:18:30
高橋源一郎 @takagengen

「国旗と国歌」7・極端にいえば、入学式と卒業式の2回だけしか「賛美歌」を歌わない学生も多い。もちろん、日の丸が掲揚されることも「君が代」を歌うこともない。それ故にこそ、わずか2回の斉唱に(ひそんでいるかもしれない)圧迫に気づかなかったのだ。もう一つの藤村の歌詞はもっと微妙だ。

2011-03-03 00:23:56
高橋源一郎 @takagengen

「国旗と国歌」8・「ああ行けたたかへ雄雄しかれ」は、別に戦争をけしかけた歌詞ではない。青年に対して、目の前にそびえたつ障害に立ち向かえと呼びかけたものだ。けれど、当時の藤村の考えからしても、この歌詞の背後にマッチョな、男性中心的な思考があることは否定できないだろう。

2011-03-03 00:28:27
高橋源一郎 @takagengen

「国旗と国歌」9・「弱いもの」を大事にしたいと考える「ある先生]にとって、その歌詞に現れた藤村の思想は肯んじないものだったのだろう。もちろん、そこまで、厳密に考える必要はないという立場もある。ぼくだって、賛美歌に共感し、歌詞の意味を理解した上で、式で斉唱しているのではない

2011-03-03 00:31:49
高橋源一郎 @takagengen

「国旗と国歌」10・けれど、「ある先生」は、大学という場所に初めて集う時、そこがどんなところかを教えなければならないのだとしたら、そこが物事を突き詰めて考える場所だと伝えるべきだと考えた。その時「賛美歌」を歌うこと、ある「歌詞」を歌うことの意味こそ、まず問われたのだ。

2011-03-03 00:36:53
高橋源一郎 @takagengen

「国旗と国歌」11・「ある先生」の話を聞きながら、ぼくは目前に迫ったある問題を考えなければならないことに気づいた。長男であるれんちゃんの入学式だ。式次第がどうなっているかぼくは知らない。だが、国旗掲揚と「君が代]斉唱があるとしたら、どうすればいいのか、ということだった。

2011-03-03 00:42:11
高橋源一郎 @takagengen

「国旗と国歌」12・この問題に関して、ある意味で、ぼくの考えは決まっている。「君が代」については、どのように解釈しても「天皇家の御代」が続くことを祈った歌詞なので、それを歌う気にはなれない。国旗については、それがどのような旗であれ、旗に頭を垂れる趣味は、ぼくにはない。以上だ。

2011-03-03 00:45:33
高橋源一郎 @takagengen

「国旗と国歌」13・さらにいうなら、ぼくは、自分はきわめて愛国的な(というより愛郷的な)人間だと思っている。この日本という「国(郷土)」の長い歴史と文化、とりわけ、言語文化に深い愛着と崇拝の感情を持っていることをぼくは隠さない。日本文学が世界最高だ思うぐらいに、だ。

2011-03-03 00:48:11
高橋源一郎 @takagengen

「国旗と国歌」14・だからこそ、たかだか百数十年の「歴史」しかなく、しかも、一部の人々によって恣意的に作られた国旗や国歌には異和を感じざるをえないのだ。もちろん、国旗を国歌が好きな人はいくらでも大事にすればいい。ぼくは興味がないので放っておいてほしいだけだ。

2011-03-03 00:51:55
高橋源一郎 @takagengen

「国旗と国歌」15・国旗が掲揚されている場所、「君が代」を歌わなければならない場所に出向かなければいい。だから、そのようにぼくはしてきた。幸いなことに、大学では、そのような目に会わずにすんだのである。だが、思いもかけなかった事態がやって来る。子どもたちの学校だ。

2011-03-03 00:55:32
高橋源一郎 @takagengen

「国旗と国歌」16・子どもたちがどうするかは、ぼくが決めることではない。彼らは、みんなが歌うからと理由で歌うかもしれない。それでいいと思う。つまらないもの、醜悪なものともおおいにつきあえばいい、というのがぼくの教育方針だ。ずっと後になって、自分で考えればいいのである。  

2011-03-03 00:58:24
高橋源一郎 @takagengen

「国旗と国歌」17・ただし、ぼくは、こどもたちの前では(というか、それ以外の場所で、そんな目に会うことはないはずだから)、起立もせず、「君が代」も歌わない。そして、理由を訊ねられたら、ゆっくりと話したい。ぼくは、多くのものに、愛情と敬意を表する。あるいは、忠誠を感じる。

2011-03-03 01:03:10
高橋源一郎 @takagengen

「国旗と国歌」18・だが、ぼくが愛情と敬意と忠誠を感じるのは、「国」のサイズではない。それは、個人であり、個人の作った作品であり、家族や、少数の親密な共同体であ利、あるいは、「国]よりも遥かにおおきなサイズの共同体、その歴史やことばだ。それはぼくの考えの根元にあって揺るがない。

2011-03-03 01:07:30
高橋源一郎 @takagengen

「国旗と国歌」19・こんなぼくの考え方は特殊だろうか。国旗や国歌が、たとえば、学校のような場所で、当然のように掲揚されたり歌われたりすることに異和感を持つことが。ちなみに、欧州の立憲君主国では、学校で国旗掲揚したり、国歌斉唱をすることはほとんどない。  

2011-03-03 01:12:56
高橋源一郎 @takagengen

「国旗と国歌」20・イギリスでは、国旗も国歌も歴史と音楽の授業で取り扱い、学校行事では掲揚もされず歌われない。オランダも、同様に学校行事で掲揚や斉唱はない。ベルギーは国旗掲揚の義務はなく、国歌は教育されていない。デンマークも行事で国歌を歌うことはほとんどない。

2011-03-03 01:19:15
高橋源一郎 @takagengen

「国旗と国歌」21・欧州の共和国は「革命」の 伝統があり、国歌と 国旗を強調する国が多い。それでも、イタリアやスイスでは学校の行事として国歌を歌うことはほとんどない。学校で特段の規程がない国も多い。そもそも「国歌」は国民の慣例にまかせ、法的規定がない国が多いのだ。  

2011-03-03 01:26:40