悠久なる世界の欠片 第五部

レティシアとキルティの物語。 不定期 & 虫食い 連載。
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目次と設定

まとめ 悠久なる世界の欠片 目次&設定 「タイトル未定の物語」から、正式タイトルへ改題。 同時に、長くなってきたので第×部ごとに分割。 物語のあっちこっちを飛び飛びに呟くごとに更新。 更新は不定期。 ゆえに、不定期連載にして虫食い連載 なのは相変わらず。 3634 pv 59

第五部

第五部第一話 より

夢乃 @iamdreamers

生暖かい風が吹いている。虫か何かが頬を歩く感触に、苦労してそっと空けた目に映るのは、雲ひとつ無くどこまでも広がる青空。 (もう、痛みも感じなくなっちゃたな・・・) (ここで死ぬのかな・・・まだ家を出てたいして経ってないのに・・・) #twnovels

2015-07-05 14:57:40
夢乃 @iamdreamers

(結局、父さんが正しかったってことか・・・母さん、ごめんなさい・・・) (あの娘との約束も果たせなくなっちゃったな・・・一緒に冒険しよう、って私から言ったのに・・・ごめんね・・・) (綺麗な青・・・死ぬにはいい日かな・・・) #twnovels

2015-07-05 14:58:16
夢乃 @iamdreamers

頬を這っていた虫が飛び立つのが目の端に映った。それを見て、少女は再び目を閉じた。もう、二度とこの目で青空を見上げることは無いだろうと思いながら。 #twnovels

2015-07-05 14:58:43

夢乃 @iamdreamers

整備の行き届いていない裏街道を、二頭立ての馬車が走ってくる。御者台で手綱を握る小柄な人物は、日差しを避けるようにフードを被っていた。あまり使われていない街道なので、もうずっと他の馬車も行商人も旅人も見ていない。 #twnovels

2015-07-05 14:59:49
夢乃 @iamdreamers

(ん?) 御者が、馬車の先の道端に何かを認めた。 「先生、人が倒れています!」 振り向いて馬車の中の人物に届くように声を張る。 「なんだ、行き倒れか。面倒だな。捨て置け」 「いいんですか?お医者様がそんなこと言って」 #twnovels

2015-07-05 15:00:15
夢乃 @iamdreamers

「いくら医者でも、死んだ人間を生き返らせることはできん。それを気にするなど偽善にすぎん」 「まだ生きているかもしれないじゃないですか。助かるかもしれない人を見て見ぬ振りをするのは、先生の美学に反するんじゃないんですか?」 #twnovels

2015-07-05 15:01:00
夢乃 @iamdreamers

医者と呼ばれた男は馬車の中で溜息を吐いた。 「仕方がないな。馬車を停めて看てみろ。息があったら呼べ。死んでたら先を急ぐぞ」 御者はちょっと笑って、もう目の前にまで来ていた行き倒れの前に馬車を停めると、御者台から飛び降りた。 #twnovels

2015-07-05 15:01:34
夢乃 @iamdreamers

仰向けに倒れているのはまだ少女と言っていいほどの女性だった。側には鞘から抜かれたままの剣が転がっている。少女は腹部に大きな刀傷を負い、夥しい出血が地面を染めている。もう死んでいるだろうか?首筋に手を当てて脈拍を確認する。 #twnovels

2015-07-05 15:02:07
夢乃 @iamdreamers

「先生!まだ息があります!」 少し間をおいて馬車の扉が開き、長身の男が姿を現した。倒れている少女に近寄ってきて膝をつき、容態を看る。 「どうですか?」 「死に掛けているな。まだ息があるのが不思議なくらいだ」 #twnovels

2015-07-05 15:02:40
夢乃 @iamdreamers

「でも、先生なら助けられるでしょう?」 「わからんな。こいつの運次第だ」 そう言うと男は少女の身体をそっと抱き上げた」 「メリール、緊急手術の用意だ」 「・・・げ。私にあれをやれって言うんですか?」 #twnovels

2015-07-05 15:03:09
夢乃 @iamdreamers

「助けようと言ったのはお前だ。家に帰るまで放っておいたら、こいつは確実に死ぬ。それでいいのか?俺は構わないが」 「・・・仕方ありませんね。わかりました」 「入れるものは俺とこいつと簡易ベッド、それに医療鞄だけでいい」 「わかっています」 #twnovels

2015-07-05 15:03:50
夢乃 @iamdreamers

「それから、こいつの持ち物らしいものは馬車に放り込んでおけ」 御者は小さな溜息を一つ吐いてフードを跳ね上げると──その姿は倒れていた少女より少し上くらいの女性だった──落ちていた剣とバッグを広って小走りに馬車に戻って行った。 #twnovels

2015-07-05 15:04:31
夢乃 @iamdreamers

男が少女を抱えて馬車に戻ったときには、メリールが簡易ベッドを馬車の傍らに広げていた。少女をベッドにそっと降ろす。 「じゃ、いきます」 メリールの言葉と共に、周りの景色が消えた。メリールが、展開した異界に引き込んだのだ。 #twnovels

2015-07-05 15:05:03
夢乃 @iamdreamers

「私の魔力じゃ、この広さの異界はもって40~50ミールほどです。ご存知でしょうけど」 「解っている。そんなに時間はかけない」 鞄から出した白衣に着替えながら答える。 「道具は俺が用意する。その間にそいつの服を取っておけ」 「はい」 #twnovels

2015-07-05 15:06:09
夢乃 @iamdreamers

医者が手術道具を銀の盆に並べている間に、メリールはハサミで少女の服を切り裂き、取り除いていった。傷は、左わき腹から右胸の下まで達している。下から切り上げられて肋骨で剣が止まったようだ。 「終わりました」 「よし、はじめるぞ」 #twnovels

2015-07-05 15:06:51
夢乃 @iamdreamers

医者は、傷の状態を詳細に観察した。 「見た目ほど、深くはないな。臓器に大きな傷はなし。胃と大腸の一部に損傷があるくらいか。まずは血をなんとかしないとな。吸引機」 「はい」 手際よく体内に溜まった血液を吸いだしてゆく。 #twnovels

2015-07-05 15:07:43
夢乃 @iamdreamers

「吸い出した血液は撹拌しておけ。必要なら抗凝固剤も使え」 「はい」 血液を吸いだした後は、内臓の汚れを生理食塩水を使って洗いながし、そして縫合にかかった。 #twnovels

2015-07-05 15:08:26

夢乃 @iamdreamers

30ミール足らずで手術は終了した。 「さすがですね。こんなに短い時間で終わらせるなんて」 「無駄口を叩いている暇はないぞ。輸血用の血液が足りん。早いところ帰らないとこのまま死にかねん」 「そうですね」 #twnovels

2015-07-05 15:09:42
夢乃 @iamdreamers

異界から戻った二人は少女の身体を馬車の向かい合った前部の座席に横たえ、間に合わせの輸血用の血液を天井から垂らした。医者は後部の座席に収まり、メリールは御者台に戻った。 「じゃ、行きます」 「急げよ。ただし、静かにな」 #twnovels

2015-07-05 15:10:20
夢乃 @iamdreamers

「はいはい」 また無茶を言うんだから、と溜息を吐きながら、メリールは馬に鞭を当てた。 #twnovels

2015-07-05 15:11:39

第五部第一話 より

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