悠久なる世界の欠片 第六部

ユーリニアの物語。 不定期 & 虫食い 連載。
0

目次と設定

まとめ 悠久なる世界の欠片 目次&設定 「タイトル未定の物語」から、正式タイトルへ改題。 同時に、長くなってきたので第×部ごとに分割。 物語のあっちこっちを飛び飛びに呟くごとに更新。 更新は不定期。 ゆえに、不定期連載にして虫食い連載 なのは相変わらず。 3637 pv 59

第六部

第六部第一話より

夢乃 @iamdreamers

その宿に部屋を取った客は、二階の部屋に一度上がると、暫くしてから降りてきた。三人のうち、髭を蓄えた大柄な初老の男と、マントとフードで全身を隠した小柄な客。もう一人は部屋に残っているらしい。 #twnovels

2015-08-23 11:27:21
夢乃 @iamdreamers

二人はカウンターに近付くと、帳簿を確認していた主人に大男が声をかけてきた。 「ご主人、この村に強力な魔術師がいると聞いてきたんだが、その魔術師がどこに住んでいるか、ご存じないか?」 「強力な魔術師ねぇ。あの子のことかな」 #twnovels

2015-08-23 11:27:46
夢乃 @iamdreamers

心当たりのありそうな言葉に男は身を乗り出した。 「その人はどこに?」 「そんな遠くありませんよ。この宿を出たら右に向かって、10テナーほど先に十字路があります。そこを右に曲がって2~3テナー行った先の『魔力布の店レミーナ』と看板を出した店を尋ねてみてください」 #twnovels

2015-08-23 11:29:28
夢乃 @iamdreamers

男は連れを振り返ってそのフードの下の顔が頷くのを確認すると、 「ありがとう。これから尋ねてみる」 と主人に礼を言って二人は出口に向かった。 「行ってらっしゃいませ」 宿の主人は頭をさげて二人を見送った。 #twnovels

2015-08-23 11:30:06
夢乃 @iamdreamers

数ミールの後、二人は教えられた店の前に立っていた。入口の暖簾をくぐる。 「いらっしゃいませ!」 ショーケースの向こう側、店の隅で編み物をしていたらしい少女が、入ってきた二人に気付くとその手を止めて二人を迎えた。奥からは機の音が聞こえる。 #twnovels

2015-08-23 11:30:41
夢乃 @iamdreamers

「どのような布をお探しですか?」 白いエプロンをかけ、同じく白い布で長い艶やかな黒髪を纏めた少女は、二人の前に来て声をかけた。ケースには、いろいろな布が巻かれて置いてある。店の名前から察するに、いろいろな魔力を込めてあるのだろう。 #twnovels

2015-08-23 11:31:14
夢乃 @iamdreamers

男は連れを振り返った。フードの人物は首を振る。男は少女に向き直って質問した。 「ここの布はここで作っているのかい?」 「はい?そうですよ」 「すまんが、その人を呼んではくれないか?」 「ちょっと待ってください」 少女は奥の引き戸を開けた。機の音が大きくなる。 #twnovels

2015-08-23 11:32:18
夢乃 @iamdreamers

「母さん、お客様よ」 引き戸の奥に消えた少女の声が聞こえた。 「はい、すぐ行くわ」 少女はすぐに戻ってきた。 「母はすぐに来ます」 すぐに機の音が止まり、奥から少女と同じ恰好をした長い黒髪の女性が出てきた。親子というだけあって少女に良く似た美しい女性だ。 #twnovels

2015-08-23 11:32:55
夢乃 @iamdreamers

「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか」 「・・・ここに強力な魔術師がいると聞いてきたのだが・・・」 男はまたフードの人物を見た。先ほどと同じように首を横に振る。 「どうやら勘違いだったようだ」 「あら、それなら、ユーリニアのことですよ」 #twnovels

2015-08-23 11:33:33
夢乃 @iamdreamers

自分の名前を呼ばれた少女は、編み物に戻っていた手を止めて三人を見た。 「何?母さん」 「ユーリ、こちらのお客様あなたに用事みたいよ?」 「冗談じゃないわよ!」 それまで黙っていたフードの人物が店主に詰め寄った。その勢いでフードが背に落ちた。 #twnovels

2015-08-23 11:35:34
夢乃 @iamdreamers

現れたのは、輝くような金髪を持った、美しい少女の顔だった。歳の頃は、ユーリニアと呼ばれた店主の娘と同じくらいだろうか。 「あなた、魔術技師としては凄いのかも知れないけど、魔術師としては二級でしょ?この子の魔力はそのあなた以下じゃない!」 #twnovels

2015-08-23 11:36:29
夢乃 @iamdreamers

店主はふっと息を吐くと諭すように言葉を継いだ。 「私の祖母は、当時世界最強と呼ばれた魔術師でしたが、魔術師登録は二級魔術師でしたよ。魔力の強さと魔術師として強力かどうかは、あまり関係ないんですよ」 「それにしたってね、この子の魔力は弱すぎよ」 #twnovels

2015-08-23 11:37:12
夢乃 @iamdreamers

「私の見たところ、あなたは一級魔術師ですね」 「それがどうしたのよ」 店主の静かな問に金髪の少女は言葉を吐き出すように答えた。 「この子、ユーリニアの魔力は、あなたよりずっと強力ですよ。それが判らないようではあなたの力もその程度ということですね」 #twnovels

2015-08-23 11:38:09
夢乃 @iamdreamers

金髪の少女はユーリニアを見た。この子の魔力が私より強力?とてもそうは見えない。溢れる魔力は微々たるものだ。これ以上言い合っても仕方がない。 「もういい。行くわよ」 フードを直しながら、少女は男に言った。 「はい」 男は店主に向き直った。 #twnovels

2015-08-23 11:38:59
夢乃 @iamdreamers

「申し訳ない。悪い方ではないんだが、ちょっと気が強くて」 「何してるの!行くわよ」 そんな二人を、店主はもう一度呼び止めた。 「ちょっとお待ちください」 「何よ。まだ何かあるの?」 店主はショーケースを開いて、そこにあった巾着袋を取り上げた。 #twnovels

2015-08-23 11:39:53
夢乃 @iamdreamers

「これをお持ちください。この子が作ったものです。これがどんなものかあなたに解れば、この子の凄さもわかりますよ」 少女はまじまじと店主を見ていたが、その手から引っ手繰るように袋を取った。 「ザッシュ、代金を払っておいて」 「代金は結構ですよ」 #twnovels

2015-08-23 11:40:47
夢乃 @iamdreamers

その言葉にまた少女は激高する。 「私を何だと思ってるのよ!物乞いと一緒にしないで!ザッシュ、きちんと払っておいて」 男、ザッシュは少し困ったように店主に言った。 「姫様もああ言っているので、代金は支払わせてくれ」 「はいはい、では50リーク頂戴します」 #twnovels

2015-08-23 11:41:45
夢乃 @iamdreamers

店主は微笑みながら言った。男は1リック硬貨を出して店主に渡した。 「50リークのお釣りですね。お待ちください」 「釣りはいらん」 「そうはいきません」 今度は店主が声を大きくした。 「私共も物乞いではないのですから、代金以上は受け取れません」 #twnovels

2015-08-23 11:42:46
夢乃 @iamdreamers

そう言って店主は50リーク硬貨を取り出してザッシュに手渡した。 「はい、お釣りです。ありがとうございました」 「ザッシュ!何してるの!早くなさい!」 外から少女の声が聞こえた。ザッシュはやれやれ、と言う感じで釣銭を受け取ると、その店を後にした。 #twnovels

2015-08-23 11:44:19

夢乃 @iamdreamers

翌日。まだ朝靄も晴れない頃、マントとフードに身を包んだ小柄な人影が街の通りを足早に歩いていた。通りには既に何人もの人たちが出ていて、朝の支度に忙しい。その間を、周りの喧騒など見えないように、小柄な人物は通りを進んで行った。 #twnovels

2015-10-31 11:40:22
夢乃 @iamdreamers

その歩みが、一つの店が見えたところで止まった。魔力布の店レミーナ。その店の前で、白いエプロンを身に着けた黒髪の少女が、開店前の準備だろう、掃除をしているようだ。しばらく逡巡した後、小柄な人物はその店に近付いた。 「ちょっと、あんた」 #twnovels

2015-10-31 11:40:42
夢乃 @iamdreamers

いきなり後ろから声をかけられたにも関わらず、ユーリニアは落ち着いた様子で振り返った。 「はい、おはようございます。何でしょう?」 その、春の日差しのような笑顔に、声をかけた人物はちょっとたじろいだが、すぐに気を取り直した。 #twnovels

2015-10-31 11:41:10
1 ・・ 6 次へ