ザイバツ・シャドーギルド #1

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

◆「お前を犯す人間はもういない。命令する人間ももういない」◆「何なンスか? サンズ・オブ・ケオス。何故狙っているンスか?」「知らないのなら、放っておけ」◆「生きる意味……」「自分探しです!」◆「脱走!?」◆「わたし、生活を体験しました。ネオサイタマに帰るんです!」◆

2017-02-22 22:15:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

◆「ニンジャスレイヤーは約十年前、ネオサイタマに居たンスよ。アンタじゃないですよね」「おれではない」◆「コトブキ=サンは探して!自分のなにか素敵なものを、探して!」◆「警告……しに来た筈なンスよ……」◆「アアア……アアーン! アアーン!」◆

2017-02-22 22:17:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キョート・リパブリック、ガイオン地表。2038年以降の試練の10年期は、変化の無い事を何より尊ぶ都をも、否応のない変動に呑み込んだ。磁気嵐と共に経済上の優位は消え去り、闘争と破壊が碁盤の目を洗った。それでも朱塗りの五重塔はいまだ等間隔にそびえ立ち、誇らしく天を指す。 1

2017-02-22 22:21:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「エッホ!エッホ!」サイバネ・リキシャー・ドライバーは観光客と武装ガイドをリキシャーに乗せて観光ルートを走り抜ける。時刻はちょうど正午過ぎ。狂言強盗団やバイオグール達もこの時間帯は大人しい。「ここから見えるキョート城跡ときたら、たまらないですよ!」「本当だ」観光客も笑顔だ。2

2017-02-22 22:24:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ゆっくり写真でも撮ってくださいね。ウチの武装ガイドは凄腕だし、変な奴が来ても殺します。なあ、ノブザメ!」「まかしてくださいよ」ハッピ姿の全身サイバネティクスの武装ガイドが力こぶ仕草をすると、観光客の老紳士は笑顔を深めた。「いやあ、本当に頼もし……」DOOOOOOM 3

2017-02-22 22:27:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……武装ガイドは再起動した。周囲に生命反応は……まばらにある。だが彼のパートナーも、観光客も、ただの肉となっていた。正確には、血のマンデルブロ・サインに変わり果てていた。地面にはコンパスで測ったような円形の「抉れ」が無数に、ランダムに生じていた。空気にオゾンが溢れていた。 4

2017-02-22 22:30:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何……だ、こりゃ」ノブザメは起こった出来事を確かめようとした。塀が、道路が、木々が、屋根が抉れ、失われ、大小のマンデルブロ・サインが重なり合っている。ZZZZOOOOM……彼の後ろで、五重塔が傾き、倒れていった。マンデルブロの中から黒い水晶が生え始めた。 5

2017-02-22 22:33:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キョート・リパブリックと時間差さほどなく、ローマ。電子戦争や試練の10年期をも生き延びたコロッセオが、つい数分前に起こった黒い爆発、それに伴う醜い「抉れ」によって、巨大なスイスチーズめいた有様になっていた。病んだ色の火がそこかしこに灯り、やはり黒い水晶が生え始めた。 6

2017-02-22 22:36:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そして……ベルリン。鉄条網で覆われ、見張り櫓がそこかしこに築かれた壁が、ある地点で50メートルほど消失し、破壊の痕跡には黒い水晶が育ちはじめていた。「……」生きて動く者があった。赤黒の装束を着たニンジャは円形の「抉れ」の間をしめやかに歩き進み、痕跡を感じ取ろうと努めていた。 7

2017-02-22 22:42:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

動きの気配に、ニンジャスレイヤーは目線を飛ばした。「だ、ダメだ……ダメだ」石くれにまみれ、震えているのは、ひどく傷ついた男だ。ただ、このベルリンの自警団や物乞い、商人の類いとはアトモスフィアが違った。彼のニンジャ洞察力は、死にかけたその男が「余所者」であると見て取った。 8

2017-02-22 22:46:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『オイ!返事しろ、ニンジャスレイヤー=サン!』タキの喚き声がニューロンに響いた。「無事だ」ニンジャスレイヤーは答えた。「情報通りか」『そりゃそうだ!オレを誰だと思ってやがる。だから気をつけろッつったんだ』「黙っていろ」ニンジャスレイヤーは瀕死の男に近づく。「お前。話せるか」 9

2017-02-22 22:48:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

男の意識は混濁していた。「お、俺は、俺はやったか?」「何?」「見えないんだ」両目は真っ赤で、眼球は無く、涙の代わりに血が流れていた。「これで……うまくいったかなあ?」「何がだ」「嗚呼……」男が掲げた右腕は肘から先が無く、断面が青く光っていた。その光もやがて弱まり、黒く焦げた。10

2017-02-22 22:52:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『何が起きてる!オイ!』タキが騒ぐ。男は力尽き、動かなくなった。ニンジャスレイヤーは男の外套を探る。仰々しく、時代がかった服装だ。やがて彼は焦げた端末と手帳を見つけた。手帳を開き、あらためる。『どうした!』「こいつだ」『マジか』「多分な」手帳はウキハシ・パスポートだ。 11

2017-02-22 22:58:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「正規の手段で入国している」『どこからだ』「……」ニンジャスレイヤーは眉根を寄せた。「デジ・プラーグ」『デジ・プラーグだと?あんな所から?ともかく、なあ、身をもって体験したんじゃねえか?その目で見たんだろ。被害をよ。今回のは、なあ、やめとかねえか?ブラスハートでもねえし……』12

2017-02-22 23:02:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーはタキとのやり取りを思い起こしていた。新たにその動向の一端が明らかになったサンズ・オブ・ケオス構成員の情報を、タキは素知らぬ顔で一度スルーしかけた。ニンジャスレイヤーはその不自然を見咎め、彼を脅し、強いて、情報を深く掘らせた。 13

2017-02-22 23:04:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「今度の奴はヤバイぞ」タキは言った。数秒置いて、再度、強調した。「その……マジでヤバイ」「そうか」「わかってねえな。畜生、オレはだんだん後悔し始めてる。いや、ずっと前から後悔してる。だけどその百倍後悔するようになる」「何故だ」「こいつテロリストだ。カルト。個人の規模じゃねえ」14

2017-02-22 23:07:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「もう少し詳しく話せ」「こいつ、ここ最近世界中の都市で無差別な破壊をやらかしてる。メガコーポが何社も賞金をかけてる」「殺して儲かるのに、なぜお前が避ける」「ふざけるな。とんでもねえ規模の被害を出しやがるんだぞ。目的もわからねえ。カルトの信者を使って、とにかく殺して、壊す!」15

2017-02-22 23:14:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何を信奉している」「アー……」タキはモニタに大写しになった紋様に目をすがめた。「魔術…かな?」「そいつの名前は」「エゾテリスムだ」「何処にいる」「さあ?」……その会話の三日後。こうして居場所の手がかりを掴んだ。旧チェコ共和国、デジ・プラーグ。成程、この服装は魔術師気取りか。16

2017-02-22 23:19:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

立て続けに起こったキョートとローマの被害。その後、ネットワークに流出した標的地、ベルリン。ニンジャスレイヤーは企業のウキハシ・ポータルを繰り返し利用して、タキが必死で探し集めたテロ行為の足跡をトレースし、エゾテリスムの痕跡を探し回った。「順調だ」彼は呟いた。タキはもはや無言。17

2017-02-22 23:23:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

今回の作戦はサダカル・ヤシモ・エンタープライズ社とオムラ・エンパイア社の共同で、その構成比率は7:3。メインとなる戦力は無限軌道式の戦車部隊で、上空には有人ヘリコプターが展開している。針葉樹林に霧が被さり、雪の峰々は展開する企業軍隊を超然と見下ろしていた。 19

2017-02-22 23:32:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

緯度・経度でいえば、そこは亜北極圏、かつてカナダ領であった土地だ。国家はもはやなく……しかしそこは企業豪族の領土ですらない。支配者はウインドウォーカーと呼ばれる神秘の存在であり、サダカル・ヤシモ社の目下の最大の敵であった。 20

2017-02-22 23:40:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そう、今まさに、針葉樹林の霧の中を驚くべき速度で移動する人型の影こそがウインドウォーカーだ。この揺れは地震ではない。ウインドウォーカーの移動に伴う揺れに過ぎない。そして今、サダカル・ヤシモ社側の指揮官は高精度ゴーグルを通して影の動きを睨み、一斉攻撃のタイミングをはかっていた。21

2017-02-22 23:43:11