ストレイトロード:ルート140(25周目)
- Rista_Bakeya
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#私の創作はここから知ってください このタグで紹介できるような「一冊」は鋭意製作中なので、今はweb化屋の『ストレイトロード』を挙げます。少女に連れ回されることになったおじさんの目線で語る冒険レポートです。
2017-02-20 23:38:40↑その話を含む短編集を鋭意制作中です。お披露目と次の140文字まとめ作成とどちらが早いかな……
今回の本編
受付では人型ロボットの隣に人間が座っていた。揃いの名札に案内係と書かれている。「いらっしゃいませ」近づいた藍に話しかけたのは人の方で、ロボットは全く動かなかった。「これは何?」「私の先輩でございます」かつては人の助けなく客の案内を務めていたという。「色々と教わっているところです」
2017-01-03 20:09:56「なんで門を開けてくれないの」「他の町で悪い風邪が流行ってるんだ」「だから町ごと出入り禁止?」「どうしても通りたければ診断書を出せ」「どうせ二日前に書いたものなんて信じないでしょ」「藍、その辺にしては」「ここで書かせるからお医者様呼んで」「俺が医師だ」「えっ」「診たらすぐ帰りな」
2017-01-04 19:49:39今日は藍が車のハンドルを握っている。ただし乗るのは運転士の訓練に使われていたシミュレータだ。画面は昔ハイウェイを走った長距離バスの車窓を再現している。「でもこれ自動運転だったんでしょ?訓練って何してたの?」「いろいろ」機械の所有者が次の操作を教える。現役時代を懐かしむ横顔を見た。
2017-01-05 19:10:22集会所は全壊していた。瓦礫の中心に残る小さな火が、騒動の終わりを報せるように黒煙を吐き出していた。「問題は、何故ここが襲われたか。高い建物ではないのに」「わたしが言おうとしたこと取らないで」藍が前にかざした手を下ろすと風が弱まった。「とにかくこの町には悪趣味な演出家がいるみたい」
2017-01-06 19:03:59「貴女は風に訊ねて失せ物を探すと聞きました」藍が見上げたポスターには著名な音楽家の顔写真が並ぶ。「どうか彼らを捜し出してください」演奏会前日に奏者の半数が行方不明。深刻な事態を無視できる娘ではない。「その人達の使う楽器を揃えて」藍は依頼者に命じた。窓を開ける前から魔女の顔だった。
2017-01-07 19:14:11初めて藍を自宅へ送り届けた翌日、彼女が生まれ育った邸宅を一日かけて案内された。途中で客間の前を通過した際、家主の嘆きが耳に入った。「待て、この皿が偽物だと!高かったのに!」客人は旧知の鑑定士だという藍の説明に恐らく嘘はないだろう。もう何年も聞いていない壮大な金額に目眩がしそうだ。
2017-01-08 19:02:23私達は暗号が示した場所へ急いだ。しかし事件は起きた後。一足早く駆けつけた記者達が道を塞ぎ、火災の現場までは近づけなかった。「通して!わたし関係者だから!」藍が強気に主張しながら人垣に突っ込んだ。すぐにその姿も声も紛れたが、やがて怒声とフラッシュが一点に集まり、魔女の登場を飾った。
2017-01-09 18:50:55明日は休暇と言われた翌日、藍に呼び出され隣町まで車を走らせた。訪ねたのは小さな靴屋。彼女が知人らしき職人に目的を問われると私を名指しした。「この人の靴がないから作って」思わず自分の足を見下ろした。擦りきれた古い靴がある。「どうせそのボロに未練ないでしょ?」靴屋は笑いを堪えていた。
2017-01-10 19:44:16検事が証言を読み上げる間、藍は傍聴席でじっと耳を傾けていた。だが欠伸を呑み込むように動く口元を私は偶然見てしまった。難解な会話はやはり退屈だったか。「全然違います」閉廷後に気遣うとすぐ否定された。「見たでしょ、あの検事。よく法廷に立てるなって思わない?」服装のセンスが問題らしい。
2017-01-11 18:59:28「海の上で見ることも、なくはない」貨物船の航海士が目撃したクリーチャーは何もしてこなかったという。「船に気づかなかったのね」藍の顔に海鳥の影が重なる。「すぐ通り過ぎていったから。あの鳥みたいに」「風は出てた?」「多分」どこかを目指していたのだろう。渡り鳥と同じように、風に乗って。
2017-01-12 19:36:22山中で怪物と魔女が競った話を一通り聞くと、男はすぐ五線譜の上にペンを走らせた。薄暗い部屋の中、サングラスの奥に輝くのは作曲家の魂か。「あんな話で良いのね」藍の呟きに反応はない。書き進められる楽譜を二人で覗き込むと、様々な記号が窮屈そうに詰め込まれていた。「これ、人間に弾けるの?」
2017-01-13 18:47:23怪物の襲撃を幾度も免れたという古い教会を訪れた。藍に連れられ内部を見学していると、跪いて祈る修道女の姿が目に留まった。私達を追い越して順路を進む観光客が騒がしいのに、一心不乱に何か唱える彼女は静寂の中にあるように見えた。「よそ見禁止」背中を叩かれた瞬間、私の耳に喧騒が戻ってきた。
2017-01-14 18:56:32