最終話 吹雪 ━━酒場にて 「では噺の続きと参りましょうか。」 夜が本格的に深まり、流石のドンドルマの酒場も静かになっている。 「おう、どんどん進めてくんなっ!」 「しかし、あのラオシャンロン以上にド派手なのったら何があるよ。」
2017-03-10 22:02:58「ん~、そうさなぁ。 それこそキョダイリュウノゼツメイニヨリデンセツハヨミガエルってか!?」 「流石にそれは安直過ぎるだろうよ。」 詩人は口角を吊り上げて答える。 「半分、当たりですよ。」 「おぉ!ほら、当たってるじゃねえか!」 「落ち着けよ。しかし、半分たぁどういうことだ。」
2017-03-10 22:03:15くつくつと詩人は笑い、大仰に、朗々と語る。 「えぇ、今からその答えを語りましょう!」 そう、ヴァルムは、遂に決戦に挑みます。 黒き烈風に、凄絶なる嵐に、偉大なる吹雪の覇者たるかの龍に挑むのです━━
2017-03-10 22:03:26━━その男は酒場に居た。 どうやら、一人で呑んでいるようだ。 いやぁしかし、なんだってラオシャンロンは進路を急に変えたんだろうなぁ。 ドンドルマにさえ来なければ俺が出ることもなかったし、御剣も使うことは無かった。 やっぱ、あの御剣はずっと封印していたほうがよさそうだなぁ。
2017-03-10 22:03:39だがなぁ、なんだって俺を選んだんだか・・・。 っと、ミックスビーンズが無くなったな。最近寒いし、ホットワインでも頼むかな。 「おう、すまん。オーダーいいか。」 「はぁーい、何になさいます?」 「ミックスビーンズとホットワインくれ。」 「かしこまりました、少々お待ち下さい。」
2017-03-10 22:03:55平和なもんだ。 最近は寒いから燃石炭の需要が高騰して、採掘クエストがびっしりだ。 実入りもいいし、楽だし。至れり尽くせりだ。酒が旨い。 「すみません、ヴァルムさんはいらっしゃいますかニャ?」 あん?
2017-03-10 22:04:12「あら郵便屋さんこんばんは。 ヴァルムさんはあちらで呑んでいる髪を結った大剣の方ですよ。」 「有難うございますニャ。」 雑だなおい。まぁ、なんでもいいけども。 「おう、こっちだ。」 「はい、お手紙ですニャ。」 「あぁ、どうもな。」 「ではですニャ~。」
2017-03-10 22:04:30『ユクモ村より えみゅうからヴァルムへ 壮健と重々承知であるも、貴殿の身案ずるが故、文をしたため候 御身、老山龍を打ち倒す事迅速と、活躍耳にあり、感服にて候』 「読みにくいわっ!」 っと、つい声に出しちまった。 ただまぁ、続き読まないとなぁ・・・。
2017-03-10 22:05:33『まあ、ようはどえらいことをしたと聞いたから、 褒めるついでに無茶して怪我しとらんか確認したかっただけだ。 ヴァルムに限ってそんな事はないと信じとるがの』 そうそう、これなら読みやすい。
2017-03-10 22:05:45『こちらはジンオウガの討伐を無事済ませた。 ちと、納得いかんのは、雷狼竜の撃退よりも、 一人で老山龍を倒したハンターの噂で盛り上がったことだな』 あぁ、ちと派手にやりすぎたかな。 『しかし、ユクモ村は、まだ平和にはなっておらん』 んだと。
2017-03-10 22:05:55『討伐ついでに、ジンオウガが人里に来た理由を突き止めてしまってな。 山々の奥深く、霊峰と呼ばれる場所に嵐を纏う古龍アマツマガツチが降り、 霊峰に住んでいたジンオウガを追い出したのが今回の事件の発端。 アマツマガツチは巨大な嵐と共に霊峰に今も留まっておる。
2017-03-10 22:06:17この文をお前が読む頃には、クエストの日取りは決まっているだろう。 老骨を打つための腕も疲れた。ワシはこの大一番を最後の狩りにしようと思う。 ハンターとしてお前と共に狩場に立つことはもうない。
2017-03-10 22:06:33ヴァルムよ、こんな事を語ると、ギルドに叱られるかもしれんが、 無茶や無理も時には必要だが、力を抜き流れに任せ、 思うがままに剣を振うのが、真のハンターとしての在り方だと思わんか。 狩場から去るその時まで、達者に走れよ。
2017-03-10 22:06:43ハッ、好き勝手言いやがって・・・まぁ、悪い気はしねぇがな。 「御老体が引退か・・・よくもまあ、あの歳までハンター続けられたな。古龍相手でも、あの二人なら心配ないだろ。」 しかし――嵐を纏う、か。 どうしても、強敵を思い出す。 忘れられるはずもないんだがな・・・どうしたもんか。
2017-03-10 22:07:10「お待たせしました。ホットワインとミックスビーンズです。」 「おう、悪いな――サキじゃねえか。お前がウェイトレスなんざ珍しいな。」 「たまには後輩に私の仕事をして貰わないと成長しませんのでね。」 ハッ、言ってろ。 「まぁ、そういうことにしておくさ。あんましごくなよ。」
2017-03-10 22:07:33そこに居ないのに、聞こえないはずの音が聴こえてくる。 雪の結晶が、割れる音、風に砕かれる音。 ――強敵よ!! 「おう、勘定ここに置いとく!じゃあな!!」 「ちょちょ、ちょっと待つニャ!」 「郵便屋さんか?今急いでるんだ。」 「手紙もう一通ありますニャ。」
2017-03-10 22:08:02なんだ、日に2通も手紙なんざ珍しい―― 『吹雪の覇者来たる。大老殿にて待つ。』 ッ!! 酔いなんざ吹っ飛んだ。 全速力で大老殿に向かう。 「ッ!大長老様!!」
2017-03-10 22:08:15「――来たか。 ヴァルムよ、緊急クエストを発令する。 クエスト名は"吹雪の覇者"。討伐対象はクシャルダオラ。成功報酬は50000z。
2017-03-10 22:08:31最近の大寒波は彼奴の仕業故、撃退は許されん。必ず討伐せよ。 尚、報告には黒き風を纏い、他に類を見ないほど強力であるとの事だ。 お主にしか、頼めない。引き受けてくれるな?」
2017-03-10 22:08:39そうかい・・・やってやろうじゃねえか!! 「えぇ、引き受けましょう。」 「うむ、彼奴は3日後に来るとの事だ。今日はもう遅い。明日より準備を進めよ。」 「わかりました。」 大老殿を出る。 血が沸騰しそうだ。 早速明日は工房に行こう。アレの出来を確認せにゃならん。
2017-03-10 22:08:50翌朝、工房についた。 「ストラトス頼む。」 「はい、かしこまりました。」 しばし待つと、ズカズカと聞きなれた足音が聴こえてきやがった。 「おうヴァルム!派手にやるのか!!」 「派手にやるぞ!アレはどうなってる!!」
2017-03-10 22:09:17「おぉ!ノリがいいじゃねえか!!――話は聴いている。ついてきな。」 「おう!」 「こいつよ。」 「ハッ、流石だよ。これが暁丸か・・・仕上がりは完璧なんだろうな。」
2017-03-10 22:09:37