死にたがり兎のはなし ※不謹慎注意

明治の記憶がある宇佐と笠木くんが擬似恋人しつつ、霰くんと鈴里くんの記憶が戻るのをただ待ち傷を舐め合う高校生活を過ごす。 卒業後自然消滅するも、ばったり街で出会いまた擬似恋人へ。 自殺未遂を繰り返す笠木くんを毎回助け「自分だけ幸せになるのはダメだ。」と囁く。 やがて心中をしようと持ちかけられるが、失敗に終わる。
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うさ @usa_kororin

@tos あの人が「一緒に死んでくれ」と切なそうに言ったから一緒に死のうと思った。この身に火を付けて跡形もなくなってしまえばいいと思った。だが死ねなかった。目が覚めて、自分の体に覆いかぶさりながら泣く"霰くん"がいた。記憶が戻ったのだ。と直感する。

2017-03-16 07:33:05
うさ @usa_kororin

@TOS あの日以来自分が失ったものは表情と感情。背負ったものは消えない罪。手に入れたものは"霰くん"。その腕の中に抱かれれば心穏やかにいられたのは数日だけだった。幸せすぎる日々に恐怖すら感じた。自分が今どこに立っているのかもわからなくなる。そんな時はあの人に助けを求めてしまう。

2017-03-16 07:37:07
うさ @usa_kororin

@TOS 「助けてください。」そう言えばあの人は慰めてくれた。その時だけは自分がどこにいるのか認識できた。家に帰るとリビングのテーブルに突っ伏して眠る霰くんがいた。「ただいま。」抑揚のない声で告げると、勢い良く起きあがって抱きつかれた。「どこにいってた?」「……どこも。」

2017-03-16 07:41:24
うさ @usa_kororin

@TOS 抱きしめられる力が強くなった。恐る恐る背に腕を回すとビクリと肩がはねた。「ちゃんと帰ってくるから心配しないで。」やはり抑揚のない声が出る。以前の自分の話し方は覚えているがどうもあんな声は出せそうにない。抱擁が解かれたのは30分後だった。

2017-03-16 07:45:20
うさ @usa_kororin

@TOS ソファに座ってどこを見るでもなくぼうっとする。目の前のテーブルにはしまい忘れたハサミ。手に取ると霰くんが血相を変えて飛んできて奪い去られる。「しまおうと思っただけだよ。」適当を言って口の端を引きつらせる。痛い。昔、あの人がヘタクソな笑い方をする理由がわかった気がする。

2017-03-16 07:49:03
うさ @usa_kororin

@TOS ここに住むようになって数週間後、ボクが手首を切って遊んでいるところを目撃されて以来刃物やそれに準ずるものに触れさせてもらえなくなった。若干不便は感じるが霰くんがそう言うなら仕方がない。家にいる間の行動はだいたい制限されている。特段支障はないので構わない。

2017-03-16 07:53:21
うさ @usa_kororin

@TOS 外に出ることは禁止されていない。どこに行くかを伝え忘れると霰くんは何時までだってボクの帰りを待っていた。そうして帰ってきたボクを抱きしめる。それが少し嬉しくてわざと遅く帰る事もある。

2017-03-16 07:56:04
うさ @usa_kororin

@TOS 今日は霰くんが取材のために朝早くから出かけていた。作家さんをやっている霰くんは時たまこうして長い間家を空ける。その間、必ずボクの”監視役”をおいていく。そうして霰くんが帰ってくる日に帰っていく。その空白の時間にいそいそと行動する。

2017-03-16 08:41:54
うさ @usa_kororin

@TOS 初めて作ったにしては上手な”首輪”ができた。そろそろ霰くんが帰ってくる。椅子の上に立ち、”首輪”をゆっくり首にかける。はやる気持ちを抑えつつ椅子から足を落とす。ぶらり、と体が吊られる。息が詰まっていく感覚がとても気持ちいい。多幸感に包まれる。

2017-03-16 08:47:29
うさ @usa_kororin

@TOS もう少しで意識が落ちそう…その時玄関の鍵が開く音がした。ガチャガチャと乱暴にドアを開けて入ってくるような音がする。リビングのドアが開く。目がかすんでよく見えなかったけれど、霰くんだ。一瞬固まってそのあとすぐ駆け寄ってくるのが見えた。はは、また死ねないみたいだ。

2017-03-16 08:50:30
うさ @usa_kororin

@TOS ”首輪”を外され、一気に押し寄せる酸素に咳込む。苦しい。その様子を何とも言いがたい目で見てくる。それは憐れみなのか悲しみなのかよくわからない。「お前はまた……。」ぎゅう、と体を拘束するようにして抱きしめられる。「げほっ、げほっ……おかえりなさい。」

2017-03-16 08:54:44
うさ @usa_kororin

@TOS 昔、よくしてあげていたように撫でれば泣かれてしまった。最近はとんとこの子の笑顔を見ていない。どうすれば笑ってくれるのだろうか。以前のボクならできたことだったかもしれないけれど、今のボクには到底無理そうだな……。まだ整わない呼吸を落ち着かせるため深呼吸。肺が痛い。

2017-03-16 10:06:38
うさ @usa_kororin

@TOS 首を吊った後1週間、ボクの行動を追う目が厳しくなった。霰くんの視線を、思考を、時間を全部ボクが独占できると思っただけで気分が高揚する。ちょろちょろと動き回っていると腕を掴まれる。「あまり動くな…。倒れそうで怖い。」以前より食べなくなったボクの体は痩せ細ってていた。

2017-03-16 10:14:36
うさ @usa_kororin

@TOS 「ん。わかった。」そう言って正面から抱き着く。霰くんも少し痩せたんじゃないかな。もっと食べて?と言うとお前が食べるなら一緒に食べると返され、内心苦笑するも表情には表れなかった。代わりに首を傾げてやるとおでこにキスを落とされた。じわり、温かくなったような気がした。

2017-03-16 10:17:02
うさ @usa_kororin

@TOS ちょっと前から皮膚科以外に別の病院へ通っている。精神が不安定だと言われ引きずられるようにして連れてかれた精神科。ここはなんとも居心地が悪い。別に飲んでも飲まなくても変わりのない薬を処方されるだけだ。薬を飲んでいるという安心感を得るために飲むようなものだ。僕には必要ない。

2017-03-16 10:23:59
うさ @usa_kororin

@TOS だが、ここで処方される睡眠薬はとても優秀だ。体は疲れていないのに飲めば勝手に眠たくなる。意識が途切れるかのようにして眠りにつける。まあ、これも”よい眠り”ではないのはわかっているが、そこのところは別にどうでもいい。”眠れたような気分”さえ得られればよかった。

2017-03-16 10:26:24
うさ @usa_kororin

@TOS 昼間、買い出しに出かける霰くんを見送って、何をするでもなくただソファに座る。ふと以前服毒自殺をしようとしていたことを思い出す。毒物…薬でもいいのか。思い立って睡眠薬を手にした。致死量がわからないな。生きるか死ぬかギリギリの量を飲みたい。調べよう。

2017-03-16 10:33:41
うさ @usa_kororin

@TOS スマホを取り出し検索ワードを入力するとすぐに検索候補があがった。「なんだ。みんな死にたいんだ。」ワクワクとした気持ちでページを開く。ボクの服用している薬と同じような薬からどのくらい飲めば確実に死ねるのかを調べた。もうスマホに用はない。テーブルの上に放置する。

2017-03-16 10:37:00
うさ @usa_kororin

@TOS 「これでよし。」案外少ない量でもいいんだな…。手のひらの上の小さな錠剤を見つめて思う。水を少量口に含み、その後薬を放り込む。さらに水を注ぎ飲み込む。分けて飲めばよかったかな。錠剤がこすれて喉の奥が痛い。これであとは薬が効いてくるのを待つのみだ。ソファに横たわる。

2017-03-16 10:39:57
うさ @usa_kororin

@TOS 目を閉じてその時を待っていると、じわりじわりと視界が回ってきた。めまいに続き吐き気、倦怠感が全身を襲った。うーん。あまり気持ちよくはないな。仰向けで吐いてしまってはただの窒息死になってしまう。仕方がない、這ってトイレまで行こう。床に身を落としずるずると這う。

2017-03-16 10:42:36
うさ @usa_kororin

@TOS 何とかトイレに到着する。便器に顔を突っ込んで吐こうと思った。…あれ?でも吐いちゃったら意味ないな。そう思い直して吐く事は諦めた。我慢、我慢。トイレの壁に寄りかかって天井を見ているとふっ、と影が落ちてきた。調べものに時間をかけすぎたようだ。また失敗した。

2017-03-16 10:45:53
うさ @usa_kororin

@TOS 救急車のサイレンの音が聞こえた。そこで意識が途絶えた。 目が覚めて見慣れた天井に挨拶代わりに一言。「また、ここかぁ…。」その声にボクに背を向けて立っていた人たちが一斉に振り返る。ここにいるのはせいぜい霰くんくらいかと思っていた。視線が痛い。

2017-03-16 10:49:44
うさ @usa_kororin

@TOS 霰くんがその場に崩れ落ちたのが見えた。その横に片倉くんがいて、後ろの方には鈴里くん、笠木くんがいた。片倉くんが眉を顰めながら口を開く。「お前は、何がしたんだ?」答えは簡単なことだ。「許されたいんだよ。ボクを許してくれるのはもうこれしかない。」

2017-03-16 10:54:34
うさ @usa_kororin

@TOS ひひ、と不気味な笑い声が漏れ出た。「じゃあなんでキチンと死なない。今回だってキチンと死ねたはずだ。」「そうだね。でも仕方がないんじゃない?99%死にたいって思ってても1%は生きたいって思っちゃうんだもの。」だから常にギリギリをはかっている。

2017-03-16 10:57:55
うさ @usa_kororin

@TOS 「じゃあ生きろよ!」霰くんが叫ぶ。久しぶりに聞いた大きな声に体が過剰に反応する。「…生きてていいの?」「なんのためにお前のそばにいると思ってんだ。生きてくれよ…置いて、逝くな。」周りを見る。まだボクは見放されていないのだな…。「…わかった。君のために生きるよ。」

2017-03-16 11:01:52