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洲央@3417【紗-10】 @laurassuoh
大学の新入生として入ってきた翔鶴さんと仲良くなりたいだけの人生だった
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翔鶴さんと大学の新歓花見で出会って仲良くなって、二人ともそのサークルには入らなかったけどちょくちょく会うようになって、地元から出てきた翔鶴さんはこっちに知り合いもいないらしく、二人で嵐山などに出かけるようになり、最初の夏、僕たちは蝉の声がうるさいあの竹林で初めてのキスをした
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夏の京都は暑いから、翔鶴さんとのお出かけは鴨川沿いを歩いたり水族館に行ったりと避暑を求めるようになった。何度か、「彼女さん」「彼氏さん」なんて言われて、恥ずかしかったけど彼女も僕も否定しなかったことが嬉しくて、汗がにじむのも気にせず手を繋いで、哲学の道を歩いたりした
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やがて僕たちがしている行為をデートと呼んで不自然ではなくなった頃、紅葉の季節がやって来た。大学は後期が始まる。僕たちはお互いの学部の軽口を言ったり、般教の講義を一緒にとったりした。河原町辺りの食べ物屋さんを回ったり、電車に乗って鞍馬や大原にも行くようになった。
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僕たちはそれでも一線を越えてはいなかった。実際、付き合っていたのだけれどそういうことをしなくても満足していた。翔鶴さんは女子高育ちだったし、かなりの箱入り娘なようだった。冬が来て、百万遍の狭い道が凍ると大学へ向かうのが面倒になった。その日、僕は朝早く起きて何となく下鴨神社を歩いた
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薄く積もった雪を踏みしめる音、吐く息は凍り、頭上の木々は軋んでいた。十字になっている参道を本殿の方に折れ、鳥居をくぐった。ここには翔鶴さんとよく一緒にきた。古本市で買った異国の観光ガイドを開いては翔鶴さんと石畳を並んで歩くのを夢想した。拝殿で手を合わせて背を向けた。
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「こちらです」 そんな、聞き覚えのある声が静寂に響いた。僕は咄嗟に植え込みの陰に隠れた。白い髪、白いコート、白いマフラー、白い手袋、白いブーツ、何もかもが白い彼女がいた。黒い髪、黒いコート、黒いマフラー、黒い手袋、黒い靴の黒い男と腕を組んでいた。ふたりは親しげに話していた。
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彼らの会話を聞く気にはなれなかった。翔鶴さんの笑みは僕に向けるものとは別種の、もっと取り繕った可愛げのあるものだった。例えば、何か利益を求めるような。そんな下心のある笑みを見たくなかったし、下心を笑みから見抜けるまで親しくなってしまった自分が辛かった。
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彼らが参拝している隙に僕は駆け出した。雪を蹴って砂利を飛ばした。あれでは援助交際そのままではないかと僕は思った。家に帰って布団を被ると僕は眠った。般教が3つもある日だったから翔鶴さんに会いたくなかった。気が付くと夕方になっていて、翔鶴さんからメッセージが3件と着信が2件届いていた
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その晩、僕はパスタを茹ですぎた。トマトソースが服に飛び散った。洗濯物が溜まっていた。電気も点けず、僕は天井を眺めた。ひとしきり泣いたら冷静になった。僕は今でも翔鶴さんが好きだった。だから、あの光景は夢だと思うこともできたはずだった。でも僕はそうしなかった。
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シャワーを浴びて服を着ると翔鶴さんにメッセージを送った。この時間ならもう家に帰っているはずだった。誰かとデートしていない限りは。翔鶴さんからの返信はすさまじく早かった。普段は僕の3倍ほどゆっくり時間が流れている翔鶴さんが、この時は僕の3倍速だった。
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三条大橋には相変わらず人がたくさんいた。翔鶴さんは僕の顔を見て「よかった」と長く息を吐いた。どうやら心配をかけたらしかった。僕はもう早速心が揺れてしまって、もう今朝のことなんてどうでもいいからこのまま彼女を抱き締めたかった。川沿いを歩いていると、翔鶴さんが僕の腕をとった。
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「こういうこと、他の誰かとするの」 僕の口からそんな言葉が漏れていた。 「あなただけ――」 「嘘だよ。だって今朝、下鴨でしてたでしょ」 僕は翔鶴さんを振り払ってしまった。煌びやかな街の灯りが翔鶴さんを背後から照らしていて、とても綺麗だった。 「あれは……父です」
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常套句だった。 「信じると思う?」 僕は自分が嫌なやつになっていると自覚していたけど、どうしようもなかった。僕の口はよく動いた。翔鶴さんが大好きだったから、父親だなんて安易な嘘で僕を傷つけてほしくなかった。 翔鶴さんはひたすら僕の言い分(と言うにはそれはただの嫉妬だった)を聞いた
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それから、僕が鬱憤をぜんぶ吐き終えたところで静かに口を開いた。 「覚悟はありますか?」 意味が、分からなかった。 覚悟とはなんだろう。真実を明かされることか。翔鶴さんが本当は援助交際をしているビッチだったとか、他に男がいるとか、いや、逆にぜんぶ僕の勘違いだったとか?
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仮に、仮に僕の嫌疑が真実だったなら、僕らは二度と会うこともないだろう。だけどもし、ぜんぶが僕の被害妄想だったとしたらどうしよう。土下座したって許されないことを言った気がする。冬の鴨川は寒いだろうか。とりあえず飛び込んでしまいたい。 「覚悟って、そんなの……」 行くしかなかった。
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「あるよ」 僕がそう言うと、翔鶴さんは信じられないほどの強引さで僕の手をひっつかんで歩き出した。 「ど、どうしたの!」 「今から行くところがあるのです」 それきり、翔鶴さんは何も答えてくれなくなった。仕方なく僕は彼女に引っ張られて地下鉄に乗り、京都駅で降りた。
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本願寺方面へ向かい、有名なホテルへと辿り着く。NTRものだったらこの先に待っているのはあの黒いおじさんで、僕は目の前でセックスを見せつけられる。 「行きましょう」 翔鶴さんは僕の外見を一通り直してからホテルの中へ入って行く。ロビーのソファにはあの黒い男が座っていた。
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「優成さん……いえ、お父さん」 翔鶴さんに気付いて立ち上がった黒い男。彼は本当に翔鶴さんの父親なのだろうか。それにしてはあまりに顔も何もかも似ていない。 「私の……恋人を連れてきました」 翔鶴さんは僕のことを恋人だと紹介した。黒い男、優成さんは僕を見て「ほぅ」と言った。
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「はじめまして」 一応頭を下げる。 「こちらこそ。いつも娘がお世話になっているようだね。私は国母優成、翔鶴の父だ。君のことは娘から散々聞かされたよ」 顔を上げると優成さんと目が合った。黄金色に輝く秋穂の瞳、そこだけは翔鶴さんとまったく同じ色をしていた。
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優成さんは翔鶴さんがいつも僕のことをどんな風に報告しているのかを上機嫌で喋り、今朝も下鴨神社でそこかしこに僕との思い出があるのだと解説されたことを語った。 僕は反射的に土下座していた。 「ごめんなさい!」 ホテルのロビーで、恋人の父親の前で、そういうことはどうでもよかった。
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翔鶴さんはしばらく、とは言っても実際には3秒くらいだったけれど僕には永遠に感じた時間、僕の土下座を見つめていて、それからしゃがんで僕に顔を上げさせると、悪戯に笑ってただ一言、 「ばか」 と、僕を叱った。
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会食にて、僕は翔鶴さんの家の事情に深く触れることになった。彼女の家はやはり地方の大地主で、優成さんはその当主だった。翔鶴さんが幼稚園から高校まで一貫の学校に入り大学も遠く京都まで来ているのは彼女が私生児だったからだ。翔鶴さんの母親は彼女が9歳の時に亡くなっていた。
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「私には3つ下の妹がいるの。今度紹介させてね」 翔鶴さんは幸せそうに微笑んだ。翔鶴さんの妹は優成さんの妻が産んだ子だから、本家筋となる。 僕は翔鶴さんが言った覚悟の意味を知った。確かに、父親に彼氏を紹介して家の事情を教えるというのは象徴的だった。しかも翔鶴さんは私生児だ。
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コメント

グレやん @glayer776 2017年3月17日
あまりに綺麗なままなので、思わず「あれ?NTR描写や鬱描写は?!あと引くぐらいのR18描写はどこ⁉︎」ってなった
洲央 @laurassuoh 2017年3月18日
大学生翔鶴さんとの出会い編に、昨夜の不特定時空における翔鶴さんとの蜜夜を追加しました。
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