ザイバツ・シャドーギルド #8
◆エゾテリスムの身体は鐘に叩きつけられ、鐘ごと塔の外へ弾き出された。魔術師は瞬時に態勢復帰し、鐘を蹴って塔の屋根に飛び移る。それを追うニンジャスレイヤー。彼らは大聖堂の尖塔の上で殺意をもって睨み合った。KRAASH……鐘が中庭に落下したのが号砲だった。二者は互いに襲い掛かった。◆
2017-03-22 22:21:26◆「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」尖塔の上で、激しいカラテ応酬が始まった。そのときだった。円形に切り取られた青空をにわかに雲が塞ぎ、黒い雷光がバチバチと生じた。神秘的カラテが天候を左右したか。否。それは別の事象だった。黒い稲妻は空に黒い方舟を残していった。◆
2017-03-22 22:21:56『ファック!何だありゃ!何だありゃ……あれも……なんだ、あれもまたぞろ魔術がどうとか言いやがるのか?ふざけ……』タキの通信がニューロンに波を立てた。しかしそれもノイズの中に隠れ消え、かわりに表出してきたのはマスラダの殺意と融け合った邪悪なるナラク・ニンジャの殺意であった。 1
2017-03-22 22:25:46「イヤーッ!」「イヤーッ!」赤黒く燃えるニンジャスレイヤーの拳とエゾテリスムの黒く滲む拳がぶつかり合った。ニンジャスレイヤーは押し負けた!エゾテリスムは血を吐きながら笑い、よろめくニンジャスレイヤーの首を掴んだ。「ガボッ……私のサクリファイス・ジツは無尽蔵の力をもたらす……!」2
2017-03-22 22:30:42「無尽蔵だと?無尽蔵?」ニンジャスレイヤーは至近でエゾテリスムを凝視した。エゾテリスムはニンジャ握力で締め上げた。意識が濁る。マスラダは決して目をそらさぬ。サツガイ接触者の瞳の奥底に、あの日の光景が繰り返される。アユミ。円状にランダムな八つの刃を飛び出させたスリケン。サツガイ。3
2017-03-22 22:35:04アユミの顔も、その時、血溜まりに映り込んだマスラダ自身の顔も、もはやまるで遠い昔の出来事のように擦れ、ぼやけ、朧だ。それでもナラク・ニンジャはマスラダの怒りを糧に黒い炎を燃やし、力に換えて、カラテをもたらす。それでいい。為すべきことを為すだけだ。こいつを殺せばいいのだ。 4
2017-03-22 22:40:54エゾテリスムは彼の内なるジゴクに気づきようもない。ただ、愉悦に目を細め、締め上げる力を強める。溢れんばかりの生命力が魔術師の身体を満たしている。犠牲となったムンバイの市民のエネルギーが。ウキハシ・ポータルで繋がっている都市ならば、地球上のどこからでも命を得られる。素晴らしい。 5
2017-03-22 22:46:30オヒガンと卑近世界を重ね、破損させて、命を収奪し、エメツ資源を生み出す。命は力になり、資源はカネになる。全てがエゾテリスムのもとに集まる。サツガイとの接触がそれを可能にした。彼にとって、サツガイとの接触は、眩しい「全知」の瞬間だった。一瞬の全知が、哀しみを残し、去った。 6
2017-03-22 22:54:51彼は餓えていた。だが同時に、あの瞬間を永遠のものに固定できると確信していた。サツガイは既にそれができるだけの力を彼に贈ってある。ブラスハートは何度もサツガイに接触しようとしている。愚かな行為だ。サツガイはきっかけに過ぎない。(見解の相違だな。お前は畢竟、ニンジャに過ぎない) 7
2017-03-22 22:57:26憤怒がにわかに彼のニューロンを満たした。ブラスハート。奴は危険だ。エゾテリスムはいずれ地球上の卑しい命を喰らいつくし、オヒガンの神秘と100%のシンクロを果たし、全知の現人神となる。あれは必ず最大の障害となる。排除せねばならぬ。最大の障害……まして、眼前のこの狂人など……。 8
2017-03-22 23:03:37眼前の……眼前……ニンジャスレイヤーの目には無惨に殺められた女、八つの刃を円状に生やしたスリケンが映る。(何故おれではなくアユミを殺した)(何?)エゾテリスムのニューロンに灼熱の憤怒が押し寄せた。だらりと垂れていたニンジャスレイヤーの腕が上がり、エゾテリスムの手首を掴んだ。 9
2017-03-22 23:06:52(何故だ!答えろ!)(グワーッ!?)エゾテリスムの手の感覚が消失した。ニンジャスレイヤーを締め上げていたはずだ。焼き切れている。感覚が。憎しみが流れ込んでくる。(何故殺した)(何故だ)(ニンジャ)(ニンジャに殺された)(ニンジャ)エゾテリスムの脳裏は不可解な焼野の光景を映す。10
2017-03-22 23:09:49(ニンジャ)(ニンジャ)(ニンジャ!)(((ニンジャ!殺すべし!)))ナラク・ニンジャ!極めて不吉かつ邪悪な名がエゾテリスムに焼き付く。エゾテリスムは声にならぬ悲鳴を上げ、ニンジャスレイヤーを拒絶しようとする。全身を循環する怒りが彼自身を苛んでいる。サクリファイスした命が! 11
2017-03-22 23:12:50「アアアア!AAAARGH!?」身をもぎ離そうとする。ニンジャスレイヤーは左手でエゾテリスムの首を掴む。憎悪が循環する。内なる炎が!「苦しい!」エゾテリスムは叫んだ。「これは!何だ!」「苦しむがいい!」ニンジャスレイヤーは嘲笑った。「苦しみ続けろ!モータルの怒りを知れ!」 12
2017-03-22 23:17:20そして今、上空には黒い稲妻が激しく散り、黒い方舟の下、プラハ城を構成する美しき複合建築物の屋根の上に、続々と謎めいたニンジャ存在が出現し始めていた。彼らは容易に標的を見つけ出した。大聖堂の尖塔の上、ニンジャスレイヤーはそれらに構わず、エゾテリスムを殺しにかかっていた。 13
2017-03-22 23:21:24「貴様の力はわかった……それは貴様のものではない!」ニンジャスレイヤーは叫んだ。エゾテリスムの両目が赤黒の炎を噴き出す!「アバーッ!?アバーッ!」エゾテリスムは痙攣した。死の顎が彼を捉えようとしていた。ゆえに彼は最後の手段に出た!「まだだ!」掌に「沌」の字が浮かび上がる!14
2017-03-22 23:24:41ナムサン!それはオヒガン・ボムの発動!エゾテリスムにはいまだ勝算あり!自らの身体を触媒にボムを発動し、ニンジャスレイヤーをオヒガンに衝突させて殺す!その余波で少なくともヴィート大聖堂は跡形を留めるまい。デジ・プラーグ2の再構築にも手間取るだろう。だが背に腹は代えられぬ! 15
2017-03-22 23:27:58ニンジャスレイヤーをサクリファイスする事でエゾテリスムは死を免れる。しかし……ニンジャスレイヤー。サンズ・オブ・ケオスを狙う……サツガイへの復讐の為に?愚かな!極限状態で泥のように鈍化した時間の中で、エゾテリスムはあらためてこの赤黒のニンジャを呪った。考えなしの邪魔者め! 16
2017-03-22 23:32:32死者の苦悶と憎悪が互いの身体を循環するなか、互いの思考も混じり合っていた。マスラダは一瞬後に起こる惨事を知った。破壊の運命を。その眼から溢れていた赤黒の炎が凝縮し、点のようにすぼまった。「ニンジャスレイヤー=サン!」彼は間近に旋風を感じ、呼びかける声をきいた。 17
2017-03-22 23:35:18それはカゼのジツで不意に現れたコルヴェットだった。何か言おうとする彼にかぶせるように、ニンジャスレイヤーは言った。「上へ投げろ!おれたちを!」ニンジャスレイヤーの背に、縄めいた筋肉が浮き上がった。彼はエゾテリスムのジツの発動を無理やりに押さえ込んだ。それは1秒か。2秒か!? 18
2017-03-22 23:37:51コルヴェットは状況判断した。彼は当初、ニンジャスレイヤーめがけ集まって来る謎のニンジャ軍勢を見、状況を打開すべく転移したのである。だが、彼はニンジャスレイヤーの言葉を聞き、エゾテリスムから異常な緊張を感じ取った。彼は言われるまま身を投げ出し、二者に触れた。 19
2017-03-22 23:41:29旋風が起こり、彼は数十メートル上空に、二者とともに再出現した。コルヴェットはデジ・プラーグを見下ろし、呻いた。ニンジャスレイヤーは腕を引き抜き、脈動する肉塊を握り潰した。それはエゾテリスムの心臓だった。魔術師は血を吐き、血走った目を見開いた。その身体が風船めいて膨れ上がる。20
2017-03-22 23:43:35「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはエゾテリスムを蹴り飛ばした。コルヴェットは手足をばたつかせ、ニンジャスレイヤーの足にしがみついた。再び旋風が巻き起こった。風が包んだのは彼ら二人だけだ。エゾテリスムは大聖堂の遥か上空。黒いモザイク状のネガティブ球体を生じ、砕け散って消えた。 21
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