【憑依:クリーチャー】[艦これ二次創作]『深海disこれくしょん』-2廻。

初めての二次創作という名の盛大な破壊劇。その、二話という形の代物。 何もかもが破綻していくさまを楽しめる方向け。
0
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

【深カいディスこレクしョン】

2017-03-14 02:07:37
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

何かが呼ぶ声が聞こえる。 彼はそう感じ、海中から水面を覗き込んだ。 「これは……そうだ、深海棲艦の"声"だ」 一般的な深海棲艦は人間のような言葉を介さないが、奴ら同士で意思疏通するために、鳴き声のような音を言葉がわりに用いている。というのが軍の共通見解だ。

2017-03-16 01:05:42
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

「まるでイルカかクジラのようだ……そんな可愛いものではないが」 そんな横ズレした思考を軌道修正し、彼は再び思考する。 「これは……無性に躯が疼く。『こっちへ来い』と言っているのか?」 おそらく、これは彼らの召集命令だろう。このイ級の躯も、無意識にそれに従おうとしているのだ。

2017-03-16 01:11:51
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

躯は今にもひとりでに泳いでいきそうな勢いだ。抗いがたい感覚を抑え、思考を続ける。 「……いいだろう。どちらにせよ、必要なのは情報だ」 感覚の束縛を解放し、彼は水面をめざして泳ぎだす。 「俺を呼ぶのは、"誰"だ?」 鏡のような水面に頭部を突き込み、その躯を大気に晒す。

2017-03-16 01:19:13
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

緋色の海、沈み行く夕陽、千切れ舞う雲の欠片、湿気を帯びた温い風。 現れ始めた星々、揺籠のような波の揺れ、遠く揺らぐ水平線。 ああ、こんな姿となっても、美しいものを見ることが出来るのか。 それは、彼にとって救いとなりうるのだろうか。 しかし、眼球に写るものはそれだけではない。

2017-03-16 01:26:38
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

縦を模したかのような艤装、少女のように華奢な体躯、仮面を付けたような頭部の意匠。 ところどころが砕け、割れ、ヒビが入り、隙間から黒い煙を吐き出している。 「雷巡、チ級……! ……中破している、のか?」 声の主はこのチ級で間違い無さそうだ。

2017-03-16 01:36:48
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

「となれば、あの声は――」 救難信号、そう考えて間違いはないだろう。 そして、それを発すると言うことは。 「拠点への随伴艦を、求めているのか」 損害をそのままにして現れる深海棲艦は、現時点では確認されていない。 つまり奴らも、何かしらの修復手段を持っていると考えるのが妥当だ。

2017-03-16 01:45:51
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

仮説として、やはり有力なのは拠点での修復作業だろう。 でなければどこの海域にも指揮艦級が留まり続ける一帯がある、と言うことの説明がつかないし、何より我々が感覚的に理解しやすい。 そして、もしそうであれば、だ。 「これは、指揮艦級の深海棲艦に近づく好機、というわけだ」

2017-03-16 01:50:51
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

チ級は、先程からじっとこちらを向いたまま、大きな動きを見せない。 念願の随伴艦が来たというのに、もう少し喜んでも良さそうなものだが。 「だが俺も、深海棲艦の言葉など分からん」 わたしは味方ですよと語りかければ一発なのだろうが、生憎とこの躯の発声器官がどれなのかすら分からない。

2017-03-16 02:01:13
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

さあどうしたものかと思案していると、チ級が慌てた様子で周囲を見渡し始めた。 何があったのか、そう思い辺りに眼を向ける。 眼球がその要因を捉える前に、届いたのは耳障りな音だった。 風を切るキュルキュルした音、ブルブルと大気を震わす音、音のする方へ、彼とチ級は眼を向ける。

2017-03-16 02:08:41
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

飛行機、下駄履きで、緑を基調としたカラーリング、赤い正円のマーク。 「零式水偵……! 艦娘がいるのか!」 やはり、チ級の傷は艦娘との交戦で負ったものらしい。 おそらくは近場の鎮守府の艦娘たちだろう。 「あいつはいつも仕事が早かったからな――」

2017-03-16 02:21:37
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

だが彼女らは、今の彼の味方とはなり得ない。 敵の深海棲艦の一隻として沈められるのが落ちだ。 そうしているうちに、チ級が水上移動を開始する。 索敵機が戻る前に、逃げるのだ。 「アレと一蓮托生か。忌まわしい……」 彼はチ級と同じ方向へと進む。 死ぬわけにはいかないのだ、今も昔も。

2017-03-16 02:27:04
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

追撃の気配はない。撒いたか、見過ごされたか。 やがて、チ級が速度を緩める。海の色はより赤みを増していた。 ちらり、ほらりと、薄暗がりに人形の影が見える。 深海棲艦だ。おそらく、指揮艦級の。 「重巡ネ級、それもエリート格、か」

2017-03-16 02:36:23
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

ネ級の回りには、数隻の補給艦ワ級の姿が見える。 少し離れて駆逐艦ロ級、こちらもエリートクラスだ。 指揮艦級の編成としては数が少ない。 いや、"彼"とチ級も含めれば編成としては十分なのだが。引っ掛かるものがある。 「何を、している……? 姫級や戦艦級の姿が見えないのも、妙だ」

2017-03-16 02:44:14
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

あれだけの攻勢、あれだけの大軍勢。 これだけの大地を浸食しておいて、そこに何の執着も見せないというのは、余りにも解せない。 「奴は、レ級は、どこへ消えた? 一体、何を企んでいる?」 残されているのは、精々が水雷戦隊程度の戦力。 この様子であれば、制圧までに時間は掛かるまい。

2017-03-16 02:55:41
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

轟音。 ネ級が、ロ級が、チ級が、空を睨む。 艦載機の大編隊。 流星、彗星を中心に、覆う様に広がる、烈風の戦闘隊。 「ああ、あいつは、本当に仕事が早い――」 低空飛行する流星から、魚雷が放たれる。 急降下する彗星から、炸裂弾が降り注ぐ。 悲鳴のような金切り声が、聞こえた。

2017-03-16 03:10:37
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

水飛沫が晴れる。 海上の影は、三つにまで減っていた。 損傷軽微なネ級。 大破満身創痍なワ級。 "彼"には傷一つなかった。 夕陽の残滓が消える。 夜が訪れる。 波しぶきと、タービンの音が、近づいてきていた。

2017-03-16 03:19:27
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

「艦娘の攻撃とは、これ程のものだったのか……」 彼は提督だ。だったものだ。 冗談で艤装を向けられた事は数あれど、本気の攻撃に身を晒す機会などあろう筈はない。 だが、彼は既に提督ではない。 自己認識こそ彼のままであっても。 その躯は紛れもない、深海棲艦、駆逐イ級のものなのだ。

2017-03-16 03:31:44
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

近づくタービン音へ向けて、ネ級が砲弾を放つ。 着弾、爆音。されど沈むもの一つも無し。 焼け果てボロボロになった書巻きを掲げながら、視線は捉えた獲物を離さない。 横合いから、砲撃音。 満身創痍のワ級が、堪らずに崩れ落ちる。 射出音。 水飛沫。 スクリュー音。

2017-03-16 03:52:16
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

スクリュー音は、まっすぐにネ級へと向かう。 金切り声をあげる、ネ級。 「――!?」 "彼"の躯が、動く。 否、"動かされて"いる。 スクリュー音――撃ち放たれた魚雷の斜線上。ネ級を庇う位置。 そこに、彼は、駆逐イ級は、"移動させられて"いた。 直撃。 炸薬が、爆ぜる。

2017-03-16 04:02:15
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

肉が裂ける、装甲が割れる、骨が捻れ切れる、皮が焼け落ちる。 直感的に理解する。『盾にされた』のだと。 理屈など解る筈もない、だが確信はあった。 堪え難く、度し難く、どうしようもない程に。 憎悪が、痛みが、氾濫する。 二度目の死、それが訪れる前に。 "彼"は、"飛び移った"。

2017-03-16 04:21:08
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

[起動部隊旗艦の報告書] 主力部隊を捕捉、撃退するも、敵旗艦撃沈には至らず。 敵旗艦は当初徹底抗戦の構えを見せたものの、最後の随伴艦を失った時点で戦意を喪失し遁走した。 また、報告にあった「黒いイ級」を発見。雷撃によって撃沈した。 交戦時点で他の駆逐イ級との差異は確認されず。

2017-03-16 04:32:09
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

月が沈む。間もなく日が昇るだろう。 赤みを失った青い海の上で、"彼"は己の姿を見下ろした。 腕があり、足があり、艶やかな髪のようにも見える糸状の器官。 滑りを帯びながらも艶やかな肌、しなやかな大腿部。 それは、いままでよりもずっと、元の身体に近く。 しかし、決定的に違うものだ。

2017-03-16 04:43:36
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

それは、一見して、やわらかな少女の様にも見える。 タートルネックにも似た、服状の皮膜。 しとやかさを示す、リボンタイの模倣品。 異質さを示すものは、その背中にある。 へそに相当する下腹部より突き出たチューブ状の物体。 接続された、余りにもいびつな二基の砲塔。

2017-03-16 04:49:00