セシウムホットパーティクルを取り出してみる

一般的な写真撮影用のフィルムを使ったホコリ試料のオートラジオグラフィーの輝点に合わせてホットパーティクル近傍の試料を取出し薄く広げていって粒の取出しを試みました。粒の存在は実感できます。光学顕微鏡での確認が当面の目標です。
4

今回の事故で放出された放射性セシウム(Cs137,Cs134)の形態として、空気中を漂う1μm(千分の1mm)位の大きさの微粒子の中に数ベクレル含まれてしまうという超高密度放射性セシウム凝集粒の存在が、気象研究所等の研究により明らかにされています。大気汚染物質、PM2.5と同様に肺等に入り込むので被曝影響が大きくなる可能性が考えられます。1ベクレルのセシウム137は約10億個のセシウム137の原子から成り、毎秒1個ずつ崩壊してガンマ線とベータ線を1つずつ出し続けます。体内にこの粒が入りこんだ状態を考えると、この粒子近傍が定常的に、特にベータ線被曝を受け続けることになり局所的高密度被曝にさらされます。気象研究所ではこの粒をセシウムボールと名付けましたが、アルファ線放出核種で言われてきたホットパーティクルと同等で、セシウムホットパーティクルと呼んでよいと考えられます。私たちはこれまでにいろいろな場所のホコリ、土壌、焼却灰等のオートラジオグラフを撮影し、いずれからもかなりの量の点状の放射線による感光を見出しました。このことから今回の事故でやってきた放射能の中に相当な割合でセシウムホットパーティクルあるいはセシウムボールが含まれていると考えています。
 ここではオートラジオグラフとGM管によるベータ線測定、シンチレーション検出器でのガンマ線スペクトル測定を使い市民測定所レベルの測定技術でこのセシウムホットパーティクルを実感できる形で示すことを試みました。当面の目標は素人にも手近な光学顕微鏡でホットパーティクルの像を見つけることです。現段階では顕微鏡で像として見ることはできてませんが、数ベクレルの桁の放射能を持ち、数ミクロン程度の大きさの粒の存在を実感することができました。

今回の試料はこのバス待合所の中のホコリです。採集したのは2016年2月です。富岡インターチェンジを降りた所で、空間線量率は16年2月時点では1.0μ㏜/h程度でした。出入り口は広く開いていますが内部は雨があたることはなく、昔からのホコリがたい積してます。今年、2017年の4月からは避難指示が解除になってます。

隅や蛍光管の上面などホコリのつき易い場所を20cm四方の湿らせた薄い布で拭き掃除しました。

拭いた布を天日乾燥したものです。

たたんでNaI巻き付け法で布全体のベクレルを測定。布5.7g、拭く前の布4.4g。したがってホコリの重さは1.3g。次の結果を得ました。

布全体の放射能は2820Bq これを布の重さ5.7gで割って布の比放射能は約50万Bq/kg ホコリ自体の比放射能は200万Bq/kgを超えています。
溜まっているホコリにこれだけの放射能があることはなかなか知られていないと思いますが、決して知らずに生活してよい水準だとは思えません。帰還にあたってもっと注意喚起されるべきと思います。

布をはたいてホコリを分離します。上ははたいた布、下が布から落ちたホコリです。これだけで0.5gになりました。

ホコリをはたき落した布からオートラジオグラフ用の試料にするため、5cm×10cmほど2枚を切り取ります。1枚はそのままで、もう1枚は24時間水浸けします。

布は引き上げ、乾燥してから試料に、そして水溶液は撹拌してから底にポリのシートを沈めて沈澱物を付着させます。割り箸はシートを底に沈めておくための押さえです。

2日間放置後に引き上げ、乾かしたシートです。これもオートラジオグラフ用の試料とします。

今回のオートラジオグラフ用試料は1枚の板の上に6枚貼り付けです。この上にブローニフィルム(5cm×70cm)を展開して密着し14日間の露光としました。(結果的には4~5日で十分でした)

最初の2つ、水浸布とそのままの布の現像フィルム(中段の写真)です。それぞれの布に含まれるセシウム137+134のベクレル測定値は水浸布93Bq、そのままの布153Bqです。水浸でも約6割は残っていて、現像フィルムでも輝点は多数写っています。なおフィルムはふつうのカメラ用で、感度はISO400のものです。
下段は試料の上にこの現像フィルムを重ねたもので布のどこが輝点をもたらしたかがわかります。

1 ・・ 6 次へ