古着屋シリーズ

古着屋シリーズ七人分のまとめです。
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長編・シリーズ・オムニバス保管庫 @yukikotouyama

①自分の友人が店長をしていると言う理由から、心配性の兄が勝手に選んだバイト先。余りファッションに興味が無い私には、向いてない気がしていた古着屋のバイトも、慣れれば楽しくなっていて。気がつけば一年が過ぎていた。

2015-01-07 20:10:54
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②店長のすばるさんとすばるさんの彼女、そして私の三人だけのこの店に、新しいバイトが入ったのは三ヶ月前の事。彼はすばるさんの知り合いの様で、すばるさんの様に古着が好きでこの店に来た。最初見た時は、正直頭がどうかしているのかと思った。

2015-01-07 20:11:02
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③原色だらけの目がチカチカする服装で目の前に立たれたら、誰だってそう思うはず。そんな格好で私の前に立った彼は、可愛い顔で私の手を握り“先輩?よろしくなぁ”と笑った。元々古着好きなだけあって、知識は私よりも豊富だった。彼の感性にはすばるさんですら舌を巻いた。

2015-01-07 20:11:14
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④私が彼に教える事よりも、彼に私が習う事の方が遥かに多かった。それこそどちらが後輩か分からなくなる程。それが悔しいという感情よりも、素直に凄いと思う感情が在るのは、やはり彼の人柄からなんだろう。彼は穏やかで優しくて暖かい人。

2015-01-07 20:11:24
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⑤そんな彼を好きになるのには時間がかからなかった。彼自身を目当てに店に来る客も大勢いる。今日もまた、彼は数人の子に囲まれていた。ニコニコとその子達の相手をする彼を見ていられなくて、倉庫に避難する。今日は自分の誕生日だというのに、ツイてない。思わず零れた涙を袖口で拭った。

2015-01-07 20:11:33
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⑥《心配いらんで》急にかけられた声。『…すばるさん』《アイツ採用した理由、別に知り合いやからとか、古着好きやとかじゃないねん》すばるさんが言っている言葉の意味が理解出来ず、首を傾げる。《あっち、行ってみ?俺の言った事の意味、わかるわ》『でも』《ええから》

2015-01-07 20:11:43
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⑦半ば追い立てられる様に戻された店内。相変わらず彼は女の子に囲まれていて。苦しさに胸が詰まる。[ね、こっちに置いてあるコレ、可愛いし買いたいんだけどぉ]聞こえた声にそちらを見れば。取り置きの為別に置いてある服を持つ女の子が見えた。

2015-01-07 20:11:54
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⑧その服は数日前に私が気になって見ていた服。値段が思うよりも高かった為、諦めた服だった。“ゴメン、売れへんねん。俺の取り置きやねん、それ”まさか彼の取り置きだとは思っていなくて、驚きに彼の方を見た。“それな、俺の大好きな人のやから”

2015-01-07 20:12:10
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⑨大好きな人、その言葉が胸に刺さる。女の子達はいつの間に居なくなっていた。泣きそうになるのを必死で耐える。“先輩?”近づいて来た彼から逃げようと踵を返す。その前に彼に掴まれた手。“逃げんといて”『離して…』“今の、聞いてたやんな?”聞いていた。だから聞きたくない。

2015-01-07 20:12:33
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⑩“ホンマは、閉店後に渡すつもりやってん。今日、誕生日やろ?”『え?』目の前に突き出されたあの服。“好きやってん、ずっと前から”服を差し出す手が心なしか震えている。“半年程前、俺買い物に来てん。そん時にな、楽しそうに接客してる先輩見て、何回かここに来る度に…好きになってた”

2015-01-07 20:12:52
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⑪“やから、渋やんに頼み込んで…働かせてもろてん”不安気な声の彼。見れば今にも泣き出しそうで。『好き』“えっ”『章大君が、好き』思い切り抱き寄せられた体。『ちょ、ここ店内っ』“大丈夫。もう閉店してる”チラリと見えた入り口にはCLOSEの札。

2015-01-07 20:13:07
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⑫微笑みながら片手を挙げて奥に消えるすばるさんの姿。“俺と付き合って?”その言葉に頷けば。“誕生日おめでとう”声と共に頬に落とされたキス。真っ赤になる私と幸せそうに微笑む彼を、迎えに来ていた兄に見つかり二人で慌てたのは数秒後の話。

2015-01-07 20:13:25
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①読み上げられた自身の名。『はい』凛と響いた声。しっかりと体育館のステージに立つ。この制服を着るのもこれが最後。両手に受けた証書の重みと、卒業おめでとうとの声に深く頭を下げた。脳裏に浮かぶのはあの日のすばるとの約束。そして遠く幼い日の残像。

2015-02-08 21:53:16
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②私の記憶の断片には、いつもすばるが居た。楽しい時も悲しい時も、悔しい時もどんな場面でも、あの日までは。すばるは私が産まれた時から隣に住む、二つ上の大切な幼馴染み。彼との一番古い記憶は私が三歳、すばるが五歳の時。その時からあの日まで、私の隣には必ず彼が居た。

2015-02-08 21:53:35
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③一年だけ一緒だった幼稚園。初めてに戸惑い泣く私の手を優しく引いてくれた。一緒に通った小学校。からかわれて涙ぐむ私の元に、いつでも一番に駆けつけて戦ってくれた。一緒に居たくて早く行きたかった中学校。二年の間に何だか遠い存在になってしまった気がして。

2015-02-08 21:53:52
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④それでも時折見せる表情は昔と変わらなくて。この頃初めて気付いたすばるへの恋心。伝える術を知らずに泣きながら送り出した彼の卒業式。三年生になって突然自身に降って湧いた恐怖。大勢の男性と女性に連れていかれた薄暗い路地裏。ただ訳も分からず震えていた私を救った光は彼で。

2015-02-08 21:54:10
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⑤知らなかった。彼も私を想っていてくれた事。そのせいで彼に振られた女の子達が、怒りの矛先をその相手である私に向けた事も。忘れない、初めて想いが通じあった時の事。彼の息づかいも優しい手も、肌に触れた体温も。幼馴染みから恋人に。訪れた穏やかで幸せな日々。

2015-02-08 21:54:42
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⑥私が居て、隣にすばるが居る。満たされた毎日。少しでもすばるの側に居たくて、必死に勉強して合格した高校。二人並んで歩く桜並木の下。散る花びらの下で、永遠を約束した。入学して半年が過ぎた時、全てが暗闇に沈んだ。両親の事故死。あの時全てを執り行ってくれたのはすばるの両親。

2015-02-08 21:55:14
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⑦私自身は泣く事も出来ず、何を考える事も出来なかった。両親を送り暗くなった家の中でただ座り込んで宙を見つめる。不意に身体を包んだのはすばるの温もりで。呼ばれた名に漸く涙が溢れた。私の両親は近くに親しい親戚も無く、私は遠い親戚に引き取られる事になった。

2015-02-08 21:55:31
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⑧荷物は既に運び出した後。転出、転入の手続きも済んで後は小さな鞄一つでこの街を去るだけ。すばるは何とか私がこちらに残れる様に頑張ってくれていた。でも、子供である私達の意見は通らなかった。駅に向かう私とすばるの影。繋がれた手は指先まで絡み合って。

2015-02-08 21:55:48
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⑨近付く出発の時刻。それまで何も言わなかったすばるが、私を見つめて口を開いた。“迎えに行く。必ず”頬を滑る優しい指先。“俺はここで俺の夢を実現させる。やからお前はちゃんと卒業して”髪を梳く彼のその手に自身の手を重ねる。“俺が迎えに行くその日まで、待っとけ”

2015-02-08 21:56:02
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⑩すばるはわかっていた。私がこのまま消えるつもりでいた事を。誰も居ないプラットホームに列車が滑り込む。“俺の為に生きてくれ”重なる唇。“約束や”離れる刹那零れた言葉。遠ざかるすばるの姿。涙に霞む視界でしっかりと記憶に刻んだ。

2015-02-08 21:56:19
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⑪あの日から二年と半年が過ぎた。別れを惜しむ友人達の声を背に、教室を出る。もう使う事の無い靴箱から靴を出し、昇降口から校門への道程をゆっくりと歩く。蕾をつけた桜の下、仰ぎ見た空は蒼く澄んでいて。ふと前を見れば、校門の横に立つ影。

2015-02-08 21:56:34
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