実写版攻殻機動隊「ゴースト・イン・ザ・シェル」に見る、人が肉体を捨ててなお連続した同一個人である為の最低要素について

31
生命情報保存研究所 @rodan670

士郎正宗によって描かれた漫画「攻殻機動隊」、およびこれを原作とする、同タイトルのアニメ作品群では、人が脳髄以外のすべての肉体部分を機械に置き換えられたサイボーグと化し、あるいはそれすら失ってネット空間内を漂う意識体と化してなお、

2017-04-15 18:38:51
生命情報保存研究所 @rodan670

それが人体を有していたころと連続性を保ち、寸分たがわぬ同一個人で居続けるために必要な最低限の要素として「ゴースト」と呼称される概念(自我、意識のようなもの)をあげ、このゴーストは作中常に重要なテーマとして扱われ続けてきたが(その正体や、AC(人工意識)がこれを持ちえるかについて)

2017-04-16 00:21:41
生命情報保存研究所 @rodan670

基本的には原作や、既存アニメ作品群の設定、展開を骨格としつつも、随所に独自の解釈も取り入れたハリウッド実写版攻殻機動隊「ゴースト・イン・ザ・シェル」では、人間の「固有の記憶」に焦点を当てることで、個人が同一個人であるための最低要素(ゴースト)について、一定の見解を導き出していた。

2017-04-15 18:52:12
生命情報保存研究所 @rodan670

スカーレット・ヨハンソン演じるミラ・キリアン少佐 (草薙素子)は過去何らかの事故に巻き込まれたことが原因で脳髄以外の肉体を失い、この脳髄を機械の体に埋め込むことでサイボーグとなって蘇った、と当初、少佐自身は認識していた。

2017-04-15 18:58:01
生命情報保存研究所 @rodan670

しかしこれはサイボーグ化手術時に同時に埋め込まれた偽の記憶であり、本当の彼女は本人の意思に反して無理やりサイボーグ化研究の実験体とされた被害者であった。少佐の意識野には時折、生身の体で最後に過ごした小屋の映像がバグとなって現れるが、本人にはそれが何を意味するのか分からない。

2017-04-15 19:06:53
生命情報保存研究所 @rodan670

このバグは少佐を無理やりサイボーグ化し、偽の記憶を埋め込んだ博士にとっては都合の悪いものであったため、博士はこのバグを消去しようと試みるが完全に消去しきるまでにはいたらず、博士はこのことをいぶかしむ。

2017-04-15 19:10:15
生命情報保存研究所 @rodan670

そうこうするうちに、少佐は同じく研究の実験体にされたクゼという被害者(人体を有していたころの少佐の恋人)から伝聞の形で真実を伝えられる。この段階ではあくまで教えられただけに過ぎず、少佐自身が本当の記憶を回復したわけではない。

2017-04-15 19:15:18
生命情報保存研究所 @rodan670

少佐は博士を問い詰める。博士は自分の行為に後ろめたさを感じていたのか、サイボーグ化研究を推し進める巨大企業の意図に反して、少佐に真実の記憶を取り戻すための手がかりを与える。

2017-04-15 19:21:13
生命情報保存研究所 @rodan670

与えられたデータをもとにたどりついたマンションには、人間体であったころの少佐(草薙素子)の母(桃井かおり演)が住んでいる。母は素子は死んだと認識しており、また見かけ上は人種レベルにて娘とは異なっている少佐を目の前にしても、それが愛娘であるとは気づかない。

2017-04-15 19:25:14
生命情報保存研究所 @rodan670

ただ少佐の自分を見るしぐさが、娘によく似ているとの感想は漏らす。作品はここで、人間が肉体を完全に取り替えられてなお、昔の己と変わらぬ同一個人として成立するための一要素として、まずその性格(しぐさのレベルにまで滲み出す思考回路)があることを物語る。

2017-04-15 19:33:55
生命情報保存研究所 @rodan670

一方少佐は、この段階ではもう桃井かおりが確かに自分の母親に相違ないだろうと(埋め込まれた偽の記憶では、彼女の両親は彼女とともに事故に巻き込まれ死亡したこととなっているにもかかわらず)認識している。この母親との邂逅も材料となって少佐は最終的に真実の記憶をほぼ復元させる。

2017-04-15 19:36:22
生命情報保存研究所 @rodan670

結果少佐は、「機械の体をも捨てて意識体となって電子世界で生きよう」とのクゼの誘いに、「ここ(物的世界)が自分の生きる世界である」と断りを入れ、サイボーグとして活動し続ける。母親にも真実を伝えるが、娘が死んだと思い込み鬱状態にあった桃井かおりは打って変わって明るい表情を取り戻す。

2017-04-15 19:41:22
生命情報保存研究所 @rodan670

ここからは、自分の娘(草薙素子)は完全に異なる形態(ミラ・キリアン少佐)になってしまったが、肉体に関係なく本人が本人であるための最低限の要素(ゴースト)が備わっているならそれは娘に間違いないとする桃井母の、あるいは脚本上の意図が読みとれる。

2017-04-15 19:45:45
生命情報保存研究所 @rodan670

以上、主人公ミラ・キリアン少佐=草薙素子の出自と、アイデンティティの確立に関するストーリーは、当然映画全体のメインフレームであるため濃密に描写されるが、

2017-04-15 20:14:42
生命情報保存研究所 @rodan670

実はこの映画には人間が同一個人であるための最低要素(ゴースト)の正体を浮き彫りにする上で効果的な、あるモブキャラのストーリーも描かれている。先述した「クゼ」は、自らを強制的にサイボーグ化した巨大企業を恨み、これに対してテロ攻撃を繰り返している。

2017-04-15 20:17:28
生命情報保存研究所 @rodan670

クゼには脳神経系をネットワーク化(電脳化)させている人間をハッキングして操る能力があり、彼の手駒にされ悪事を働いたある中年男性が少佐率いる部隊(公安9課)に捕らえられる。男性はクゼに偽の記憶を埋め込まれており、本来寂しい独身者であるにもかかわらず、

2017-04-15 20:24:21
生命情報保存研究所 @rodan670

自らを妻子に恵まれた存在と思い込んでいる。しかし尋問の過程で少佐からその事実を伝えられた中年男性は、絶望のあまり自殺してしまう。少佐の同僚で準主役級キャラクターの「バトー」は「真実の記憶も偽の記憶も同じ意識上のバグのようなものにすぎない」としてこれを切り捨てる。

2017-04-15 20:29:56
生命情報保存研究所 @rodan670

作中、中年男性の扱いは敵役に弄ばれた哀れな小物程度のものでしかなく、その中で、現実を認められず、都合のいい幻想に逃げ込んだ弱者として、真実の記憶を受け入れ現実を自らの生きる世界と見なした少佐と対を成して描かれているようにも一見思える。しかしながらこの両者は実は完全に同類である。

2017-04-15 20:36:40
生命情報保存研究所 @rodan670

自分が偽の記憶を埋め込まれていたと告げられ、妻子持ちなどではなく寂しい独身者であると諭された中年男性は、どれだけ受け入れがたいものであったとしても、それが真実であると認識できている。できていなければ自殺にまでは至らない。

2017-04-15 20:40:34
生命情報保存研究所 @rodan670

妻子持ちの記憶こそが現実を反映しており、少佐達のほうが自分に偽りの記憶を埋め込もうとしていると考えることで抵抗を試みるはずである。しかし中年男性は、どちらが正しいのか明確な証拠を入手することも困難な取調べ室の中でスピード自殺を遂げてしまう。

2017-04-15 20:44:21
生命情報保存研究所 @rodan670

これは男性が短期間のうちに独力で記憶の真偽を判定できたことを意味している。人間の脳を電子的にハッキングし、現実そっくりな偽の記憶を埋め込むことができるのであれば、そのフィクションは当人にとって主観的には現実そのものと成りうる。

2017-04-15 20:50:13
生命情報保存研究所 @rodan670

この意味で「真実の記憶も偽の記憶も同じ」としたバトーの言葉はある程度正しいといえる。しかし正しくない部分として、少佐から今保有している記憶が仕組まれたものである可能性であることを示唆された後の男性は、二つの「現実」を天秤にかけた上でどちらが真実であるか瞬時に見分けられている。

2017-04-15 20:54:46
生命情報保存研究所 @rodan670

同様の現象は少佐にも見られる。先述したように少佐は人体で最後に過ごした小屋のイメージを意識野に残留させ続けており、いかに記憶の改ざんを試みてもこのバグを消去しきれない現実に博士は頭を抱えた。また自らの記憶を操作した博士から、「真実」への手がかりとして注入されたデータをもとに

2017-04-15 21:01:10
生命情報保存研究所 @rodan670

少佐は桃井母の家へとたどり着き、自身固有の記憶を回復させていくが、少佐の立場からすれば、博士から与えられた問題のデータとて、今度こそ真実として安易に受け取れるものではなかったはずである。博士が再び自分を騙まし直すために仕組んだやはり偽りのデータであるのかもしれない。

2017-04-15 21:08:43