【春に酔う】福間健二 #k2fact166
音もなく降りだした雨のなかに立つ。島の貸本屋と、船の上での記憶がよみがえる。老いた牛が死んでいた。泣かない太平洋の夜、ぼくは大泥棒。甘くないリンゴをかじった子ども時代のひとりごとにカーテンが引かれる。そのシミ。膨らませたいものがあったはずだ。(春に酔う1)#k2fact166
2017-04-05 11:32:21思い出した恩義へと急ぐ途中の、足もと。スミレが咲いている。その耳がぴくっと動く泥沼。次はどうするんだ。そればかり偉そうに聞くやつを倒し、人にやってもらうことしか提案しないやつは迷子にして、窮地というわけだ。ジャッキー、酔拳では切り抜けられないか。(春に酔う2)#k2fact166
2017-04-06 11:25:47多くの人がそうであるように動機と行為をつなぐ太い線に見放されても。坐骨、大丈夫。神経痛は健忘症の議員にくれてやる。うずいて飛びちる雲に強制して青くない空買い占めてどうしたいのだ。回路が入りくむのは、脱走兵と介護の必要な人がいるからじゃないんだよ。(春に酔う3)#k2fact166
2017-04-08 10:52:39引きとめてくれる楕円形。あいさつだけではすまないさ。多くを聞けなくても、悪に敏感な、中篇の眠りに生えるしっぽ、その骨がどうなってるかのレポートを、恋と経済活動、夕ぐれの二重の困難にからませながら、いい汗に、いい風。いよいよ入りくむ道を歩いている。(春に酔う4)#k2fact166
2017-04-09 12:06:56もっといいもの、この袋に入れたい。夜まだ寒いこの現実に耐える方法。ほんとうに何がいいだろう。考えているうちに袋が破れている。意地と安ウイスキーの物語は終わるのだ。結末をその息でめちゃくちゃにしないように。着ないかもしれないセーターの色を選ぶ。(春に酔う5)#k2fact166
2017-04-10 10:34:54好きなものがわからなくなって、トンビが飛ぶ。雲のかたちはさっきからずっと変わらない。カラスがいない。カラスにはわるいが、それが幸いして、きれいな空の下にきれいな街がある。歩いているのは、詩人、画家、音楽教師。それぞれの洞窟から恩返しに出てきたか。(春に酔う6)#k2fact166
2017-04-13 12:06:39靴の跡でちぎれる横断歩道のラインが、一瞬、大きな動物の背骨になり、だったらその骨からみんなが大好きだったななこさんの隠れる山へ向かう船をつくることも可能だ。一九六〇年代じゃなくても。いや、いまだからこそよろしく。出雲富士、おいしいお酒の名前だよ。(春に酔う7)#k2fact166
2017-04-14 09:33:51お昼はお母さんと娘さんがやっている金水園。いつもタンメン(五〇〇円)かラーメン+ライス小(五五〇円)かで迷う。三対一くらいでラーメンライス。きょうもそう。お盆で出してくれるが、お母さんだとライスが左。きょうは娘さんでライスが右。左のほうがいい。(春に酔う8)#k2fact166
2017-04-15 10:24:20週に二回行けるといいのだが。春は工事の多い旭通り、希望の通りではない。言ったことだけやりなさい。その先生口調。未遂の椅子、それでよかったという座り方がロックンロールを裏切るとしても、許される男の子たちの嘘。濃い色をできるだけ使わないようにすれば。(春に酔う9)#k2fact166
2017-04-16 12:02:45洗ったもの。水気を取る。思うこと、すなわち入って出ることにするために。次はどのケースと格闘するのか。大岡さんの、内側から光る花も、水島さんの、肩の奥のもうひとつの肩の丸みも、洞窟に戻る泥棒に持って行かせる。あとはこの出雲富士をからにしてから。(春に酔う10)#k2fact166
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