フューリー・ロード #3

V8を讃えよ
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劉度 @arther456

(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。感想・実況などは #ryudo_ss をお使いいただけると大変ありがたいです。忙しい方はtogetterまとめ版をどうぞ。それでは暫くの間、お付き合い下さい)

2017-04-19 21:01:17
劉度 @arther456

【フューリー・ロード】#3

2017-04-19 21:02:04
劉度 @arther456

「きゃあああ!?」「おあああ!?」春雨と江風は、慣性に振り回されていた。ハイエースが右に左に曲がる度に、彼女たちの体は壁にぶつかる。シートベルトをしている春雨はまだいいが、江風の方はスーパーボールめいて、座席や床、果ては天井にまで叩きつけられていた。1

2017-04-19 21:03:07
劉度 @arther456

「あの、もう少し安全運転を」「駄目だ!」白雪の訴えは運転手に即座に反対された。東京に入ってから、ずっとこの調子で運転している。あまりに荒っぽい運転に、春雨は聞いた。「あの、どこまで行くんですか!?」「もうちょいだ!」車が大きく右に曲がった。海に向かおうとしているようだ。2

2017-04-19 21:06:03
劉度 @arther456

「よし、あと一息か。この先の住宅街で……」「待て」ダウンジャケットの男が、運転手の声を遮った。「ああ?」「何か来たぞ」「なに!?」運転手の男がバックミラーを見た。途端に、その表情が強張った。春雨も気になって、身を乗り出してシートの後ろを見た。3

2017-04-19 21:09:07
劉度 @arther456

五十鈴のバンの更に後方から、胡乱な改造車が次々と迫ってきていた。「何ですかあれー!?」「わからん!」「知らねえ!」「私もです!」車内の誰も、あの見るからに危険そうな暴走車集団に心当たりがない。全員、東京にやってきたのは初めてだからだ。4

2017-04-19 21:12:03
劉度 @arther456

「と、とにかく早く目的地へ!」「お、おう!」白雪に促され、運転手はアクセルを踏み込む。前方に視線を戻そうとして、ふと、春雨の視線が、ダウンジャケットの中国人に留まった。これだけ揺れる車の中なのに、彼は最初に車に乗った時から、一歩も場所を動いていなかった。5

2017-04-19 21:15:12
劉度 @arther456

芋田丞。61歳。大田区、世田谷区、港区南部をテリトリーとする、武装暴力集団の長である。東京大空襲、松代遷都、そして海上封鎖による混乱の中、東京で生き残ったのは、暴力を持って歪な秩序を形成する、彼らのような武装集団だった。7

2017-04-19 21:18:02
劉度 @arther456

芋田は大田区の工場地帯を根城とし、独自の王国を築き上げた。その主力は、東京の廃車から組み上げたツギハギのスクラップカーと、芋田を盲信する若者たちである。V8エンジンの機動力と、死を厭わぬ兵隊たちを相手にできる武装勢力は、そう多くはない。8

2017-04-19 21:21:10
劉度 @arther456

自分のテリトリーの中に、不審な暴走車が2台侵入してきたと聞いた時、芋田はすぐに出撃した。新鮮な車のパーツは、彼らにとっては貴重品である。追いつくことには苦労しなかったが、芋田はそこで意外な車を見つけた。五十鈴自動車の営業バンだ。9

2017-04-19 21:24:04
劉度 @arther456

芋田は己の駆る二段重ねのキャデラック『ギガホース』を、走る五十鈴のバンに横付けした。運転席にいるのはやはり、先日会った艦娘の女社長、五十鈴だった。「社長!」芋田が呼びかけると、五十鈴は車の窓を開けて答えた。「何よ!」「何で戻ってきた!東京に忘れ物でもしたのか!?」10

2017-04-19 21:27:02
劉度 @arther456

「アンタには関係ないでしょ!」そう返す五十鈴の表情は切羽詰まっている。何事かあったのは間違いない。「関係ある!ここは我々のテリトリーだ!何であれ通行料は支払ってもらう!それにお前は大事なV8エンジンの売り手だ!納品する前に、こんな所で事故を起こされては困るのだ!」11

2017-04-19 21:30:12
劉度 @arther456

東京に販路を拡大する際、五十鈴にとって最も厄介なのは、その途中の区域を支配する芋田だった。そこで五十鈴は芋田に取引を持ちかけた。交渉は難航し、護衛の艦娘が大隊長とSUMOUをとる事態にまでなったが、最終的に五十鈴がエンジンを格安で売ることで決着した。12

2017-04-19 21:33:08
劉度 @arther456

「何があった、社長!」暫くの沈黙の後、五十鈴は苦虫を噛み潰したような顔で言った。「仲間を攫われたのよ!」「艦娘か?」「そうよ!」芋田は前方のハイエースに目を向けた。艦娘が誘拐された。その重大さは彼にもわかる。「おい、社長!」「何よ!」「手を貸してやる」「はいはい……はい!?」13

2017-04-19 21:36:06
劉度 @arther456

「ただし!」芋田は五十鈴に向かって人差し指を突きつけた。「俺の子供たちの車100台の面倒を見てもらう!」「100ゥ!?吹っかけ過ぎよ、50にしなさい!」「艦娘が攫われたら大問題だろう!?90だ!」「65!それ以上は駐車場が足りないわ!」「工場の中を使えば80は置けるはずだ!」14

2017-04-19 21:39:03
劉度 @arther456

次の返事を聞くまでに、3秒かかった。「……わかったわよ!その代わり、マーボーに傷つけたら承知しないわよ!」芋田はうなずき、五十鈴のバンから離れると、後方のスピーカートラックに手で合図を送った。荷台上のドラマーがそれを受け、ギタリストの肩を叩くと、たちまち戦神楽が始まった。15

2017-04-19 21:42:02
劉度 @arther456

MAN WITH A MISSION×Zebrahead 『Out of Control (MAD MAX: FURY ROAD Ver.)』 youtu.be/qyERfHRjTTo @YouTubeさんから

2017-04-19 21:43:02
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劉度 @arther456

先頭を行く自動車の"槍手"が、両手の指を交差させるポーズで指令に答えた。切り込み隊長の車はアフターファイアーを吐き出し急加速、瞬く間にハイエースに並ぶ。槍手は狙いを定め、ハイエースに"槍"を投げつけた。爆発物を仕込んだ穂先が命中、オレンジ色の爆発が車体を襲う!16

2017-04-19 21:45:03
劉度 @arther456

だが、手榴弾程度の爆発では、ハイエースは壊せない。車体が少し凹んだだけだ。槍手が2本目の槍を用意する。その前に、ハイエースが彼らの車に体当たりを仕掛けた。切り込み車も馬力を生かし突進に応じる。激しい鍔迫り合い。槍手は槍を直接叩きつけ起爆、車体が大きく凹む。17

2017-04-19 21:48:00
劉度 @arther456

不意にハイエースが切り込み車から離れた。次の瞬間、切り込み車が飛んだ。落ちていた瓦礫に猛スピードで乗り上げた結果、ジャンプ台のように飛び上がってしまったのだ。切り込み車はなんとか着地するも、そのままスピンし、コンビニ跡地に突っ込んだ。18

2017-04-19 21:51:03
劉度 @arther456

「バカめ!」芋田はとっさに毒づいたが、切り込み隊長は十分に役割を果たした。彼が時間を稼いでいる間に、6、7台の車がハイエースを包囲した。もう逃げ場はない。槍手たちが爆発槍を構える。その時、ハイエースのドアが開いた。そして中から何者かが飛び出し、ボンネットの上に乗った。19

2017-04-19 21:54:09
劉度 @arther456

その男の異様さに、芋田も、兵士たちも、一瞬動きが止まった。見た目の奇抜さなら彼らのほうが上である。彼らが自分の目を疑ったのは、男が手に持っていた武器が、何の変哲もない短弓だったからだ。文明の利器である車の上で、男は最も原始的な飛び道具である、弓矢を構えた。20

2017-04-19 21:57:14