フューリー・ロード #5(完結)

さあ、話を動かすぞ。
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劉度 @arther456

(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。感想・実況などは #ryudo_ss をお使いいただけると大変ありがたいです。忙しい方はtogetterまとめ版をどうぞ。それでは暫くの間、お付き合い下さい)

2017-04-22 21:01:22
劉度 @arther456

【フューリー・ロード】#5

2017-04-22 21:02:05
劉度 @arther456

東京タワーのすぐ近くには寺がある。かつては徳川将軍家の菩提寺だったが、今は陸軍の防衛拠点の1つになっている。そこに1台の車がやってきた。「着いたであります、提督殿」運転手は陸軍の艦娘、あきつ丸である。「さんきゅ、あきつ丸」助手席から降りてきたのは、横須賀33地区の提督だ。1

2017-04-22 21:03:06
劉度 @arther456

「これが東京タワーか……」後部座席から降りてきたのは、赤い着物に身を包んだ女性だった。「姫さん、今日はそっちに行きませんからねー」「わかっている。早く案内しろ」3人は車から降りると、兵士に案内されて寺の中に入った。廊下を進み、応接室の1つに通される。2

2017-04-22 21:06:07
劉度 @arther456

部屋には、五十鈴、不知火、そして春雨と江風の姉妹がいた。「お疲れ様です、提督」提督の顔を見るなり、不知火は立ち上がって挨拶した。「ご苦労さま。いやあ、みんな元気そうで良かった!」「江風さんは重傷ですから、あまり元気とは言えませんが」「ほんとごめん」3

2017-04-22 21:09:07
劉度 @arther456

提督が謝っても、江風は険しい表情を崩さない。「いや、まあ……うん。そういう顔になるのもわかりますけど。とりあえず話だけでも聞いてくれません?」「話は聞くよ。聞くから、わざわざアンタにこうして会ってるンだろ?」妹を軟禁していた張本人に対し、江風の態度は辛辣そのものだ。4

2017-04-22 21:12:12
劉度 @arther456

「ああ、はい。ええと、お姉さんの足の事なんですけど、足がね。我々も努力したんですけど、助けた時点で足がもうほとんど吹っ飛んでて、再生治療とかも……」「そういう言い訳を聞きに来たンじゃねえンだよ」怒った声が、提督の言葉を遮った。「ゆ、由美江……」「テメー、姉さんに何したンだ?」5

2017-04-22 21:15:03
劉度 @arther456

「何って、具体的にどういう……?」「しらばっくれンじゃねーぞ」江風は拳を握りしめ、今にも提督に殴りかかりそうな形相だった。「あの時、アタシはハッキリ見てンだからな。ヘリと戦ってた時、姉さんは……まるで……」しかし江風は、その先の言葉を、わかっていても言えなかった。6

2017-04-22 21:18:03
劉度 @arther456

「深海棲艦」答えを言ったのは不知火だった。「お察しの通り、そちらの春雨は深海棲艦です」「ぬい……」戸惑う提督に、不知火は言葉を投げかける。「提督。報告通り、先日の戦闘で既に春雨は外見が変化しています。これ以上、ごまかす事は不可能だと、不知火は思います」7

2017-04-22 21:21:14
劉度 @arther456

春雨の姿は、今は人間のものに戻っている。しかし、ヘリと戦っていた時は確かに深海棲艦の姿だった。青白い肌、体の各部を覆う装甲、艤装無しに発揮される火力。それらは人間のものではない。「……わかった。ハッキリ言いましょう。由美江さん、あなたのお姉さんは、紛れもなく深海棲艦です」8

2017-04-22 21:24:04
劉度 @arther456

江風は春雨を見た。「姉さん……本当なのか?」「そう……だと思う」「だと思うって……知らなかったのかよ!?」「うん、私も今初めて聞いたから……」「おい提督、どういうことだよ。説明しろ!」提督はしばし顎に手を当て考えてから、話し始めた。「助けた時、春雨はもう深海棲艦でした」9

2017-04-22 21:27:02
劉度 @arther456

「渾作戦中に佐世保第15艦隊からの救援要請を受けた我々は、そこで重症を負った春雨を見つけました。応急手当の時はわからなかったんですが、本土に戻って精密検査を行った結果、春雨の体組織は人間とは別物……つまり、深海棲艦のものだとわかったんです」10

2017-04-22 21:30:14
劉度 @arther456

提督は江風と春雨の顔色を伺った。やはり、どちらもショックを受けている。ただ、春雨のほうが少しだけ落ち着いた様子だった。「何だよそれ……」逆に、江風の方は耐えられなかったようだ。「おかしいだろ!?姉さんが深海棲艦だなンて!なあ、どう見たって姉さんじゃねえかよ!」11

2017-04-22 21:33:07
劉度 @arther456

「落ち着いて。香苗さん、というか、春雨が春雨なのは変わってません。ただ人間から深海棲艦になっただけで……」「それがおかしいって言ってんだよ!なんで人間が深海棲艦になっちまうんだよ!?」「いや、まあ確かにおかしいんですけど……そうなると……」「そうなると、何だよ!?」12

2017-04-22 21:36:11
劉度 @arther456

「そこにいるのは、『死んだ春日香苗の記憶と性格を全部引き継いだ、まったく別人の深海棲艦』って説明するしかないんですけど、それでいいんですか?」江風は、すぐに返事ができなかった。「それでいいなら、そういうことにしますけど……」「いい。やめてくれ……頼む」「はい」13

2017-04-22 21:39:03
劉度 @arther456

沈んだ艦娘は深海棲艦になる。そんな噂は、どこの鎮守府でも囁かれているものだ。しかし、噂が真実だと突きつけられるのは、話が別だ。何しろ艦娘にとって、いや、人類にとって、深海棲艦は日常を奪い、家族や友人、愛する人を殺した仇であり、生存圏を奪い合う敵なのだ。14

2017-04-22 21:42:04
劉度 @arther456

「何で姉さんが……何でなンだよ……」「何で、と言われてもな……」赤い着物の女性が、ポツリと呟いた。しかし、江風も他の艦娘たちも、彼女の言葉に反応する余裕はなかった。春風は、俯いて震えている江風を不安げに見守っていたが、やがて小さく手を上げた。「あの、提督」「なに?」15

2017-04-22 21:45:03
劉度 @arther456

「私が深海棲艦と知っていたなら……どうして、私を助けてくれたんですか?」「んー」提督は少し考え、ポツリと言った。「いや、大人しかったし……」「えっ」「暴れ出すならともかく、普通に暮らしてるうちは預かってても平気かなーって思って」「いやいや、ダメだろそれ!?」江風が声を上げた。16

2017-04-22 21:48:01
劉度 @arther456

「提督が深海棲艦を匿ってるって、大問題どころの騒ぎじゃねーぞ!?」「大丈夫だって。今まで5人ぐらい預かってきたけど、誰も問題は……まあ、人は死んでないし、ちゃんと言い聞かせればわかってくれるから」「そういう問題じゃねえだろ!アンタらはこれでいいのか!?」17

2017-04-22 21:51:07
劉度 @arther456

江風に問われた不知火は、表情ひとつ変えずに答えた。「提督のご命令とあらば、従うまでです」「ええ……じゃ、じゃあ五十鈴、アンタは?」「まあ、私は初めから聞かされてたから、今更ねえ」「そこの陸軍っぽいアンタは!?」「陸軍としても手に負えないので、放置推奨であります」18

2017-04-22 21:54:10
劉度 @arther456

「アンタは!?」「いや、そもそも私は深海棲艦だが」「え」着物の女性の思わぬ返答に、江風の動きが固まった。「貴様らの分類では、装甲空母姫と呼ばれている。……ああ、心配するな。敵対するつもりはない」「なにこれ……」衝撃的事実の数々を受け、江風の頭はついにはオーバーヒートした。19

2017-04-22 21:57:05
劉度 @arther456

「あ、あの……それで、私たちはこれからどうなるんでしょうか?」春雨がおずおずと尋ねた。「私はどうなってもいいから、由美江は助けていただきたいんですけど……」提督は小さく頷いた。「大丈夫。筋書きは考えてある。まず、由美江さん。あなたは横浜で事件に巻き込まれたってことにします」20

2017-04-22 22:00:17
劉度 @arther456

陸軍と警察には既に話をつけ、架空の銃撃事件をでっち上げる手筈になっている。これで彼女が罪に問われることはない。「問題は君だ、春雨」提督の言葉に、春雨は息を呑んだ。深海棲艦であることがわかった以上、今までのままではいられない。「選択肢は2つある」21

2017-04-22 22:03:07
劉度 @arther456

「1つ。こちらの装甲空母姫の手引きで海外に脱出、西方海域で深海棲艦として暮らすこと」装甲空母姫が呼ばれた理由はこれだった。かつて西方海域を支配していた彼女は、未だに影響力を持っている。提督が安全に西方海域で輸送作戦を行えるのも、彼女のお陰だと言っていいだろう。22

2017-04-22 22:06:03