ストレイトロード:ルート140(26周目)
- Rista_Bakeya
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今回の本編
ほとんどの単語は気象庁のwebで紹介されている「予報用語」から選びました。
久しぶりに帰郷した藍は母親と会話してすぐ自室に籠った。最近雨が降っていないと聞き、何かを思いついたらしい。「こんな感じかな」彼女が応接室に戻ってきた。しばらくして外を見ると、雨ではなく霰が降っていた。「何がいけないの?途中で余計なこと考えたから?」どんな雑念が冷気を増やしたのか。
2017-02-22 20:57:59140文字で描く練習、1251。霰(あられ)。 積乱雲の中で生まれた氷の粒がそのまま地表に降ってきたもの。途中で溶けると雨になる。
2017-02-22 20:58:05長旅の復路で再び立ち寄った街で、顔見知りの研究員が待ち構えていた。「お前勝手に雨風呼び過ぎ。見ろ、最近観測された異常気象のデータ。こっちは通信記録から割り出したお前の移動経路」藍は聞こえないふりに徹している。「このままだと地球レベルで異常気象が」「そこまで大きなことできませーん」
2017-02-23 18:59:16「窓を閉めて」真紅の女が傍らの青年に命じた。「海風はお嫌い?」店内を緊張が覆う中、女と同じテーブルについた藍が薄く笑う。「髪が傷むじゃない。あなたも絶対そのうち気にし出すから」「ケアすれば何とかなるでしょ。それとも一度でダメになる弱い髪なの?」窓ガラスの振動音は海風だと思いたい。
2017-02-24 19:09:09城壁周辺は朝から晴れていた。だが山の近くで怪物の動向を見張る砦は煙霧に覆われ、視界の悪化は明らかだった。「今のところ異状なし、ね」いつ起きたのか、私の隣で藍が同じ方角を見ていた。言い切る理由は視力の差ではない。彼女は煙霧の先の様子を風に聞く。「視界不良の原因も調べ」「それは無理」
2017-02-25 18:59:52大雨で川が増水し橋は封鎖された。突然の足止めで藍は機嫌を損なうかに見えたが、彼女はしばらく空模様を見つめ、それから笑顔でこう言った。「大丈夫、他に雨雲は来てない。明日こそ出発ね」そして迎えた翌朝、私達を待ち受けていたのは前日以上の大雨だった。藍は歯を食いしばり、何かを堪えていた。
2017-02-26 19:01:04季節外れの寒波の影響か、その日は人の往来が普段より少なかった。「例の人もすぐ見つかるかも」喫茶店に入るまでは予定通り。だが店先の冷えたテーブルに手を置いた藍は、口から漏れた悲鳴を一瞬で凍らせ、すぐ私に投げつけた。「計画変更。中から見張る」結局、暖かい店内で珈琲を味わう日になった。
2017-02-27 20:06:00二人で海岸を歩いた。藍は強風で乱れる髪に苦心している。「季節風が強くなる時期ですから」「これがそうなの?」習ったことは覚えていると強調された。車に戻った後、私は藍の教科書を借りて確かめた。季節風について一般的な説明が書かれていたが、先程浴びてきた風がそれだとは解りそうになかった。
2017-02-28 19:40:11ラジオから流れる情報によれば明日の夜まで曇り。雨は降らないようだが、天体観測には都合が悪い。「せっかくのチャンスだったのに」藍は車の窓から身を乗り出し、悔しそうに曇り空を見上げていた。「雲の上に何かいるの」彼女が指差す先には影さえ見えない。「夜空を独り占めなんて、本当に腹が立つ」
2017-03-01 19:41:04堤防の決壊を知った時、この街に着いて最初に車を止めた場所を思い出した。藍から雨雲の接近を聞いていなければ今もそこに置いていただろう。「高台も怖いけど低地も危険なんだよ」丘の上の学校に避難した住民が語る。「川沿いの畑を見に行くってさっき誰かが」藍が言った直後、人が倒れる音を聞いた。
2017-03-02 18:31:28連絡を待つ間、私達は宿の周辺を散歩した。庭先から遠く離れた山を望むと、楔に似た岩が山頂近くに立つ独特の景観がよく見えた。隣で同じ景色を見ていた親子連れが話している。「この辺にあった岩が遠い昔の洪水であの場所に流れ着いたんだって」藍が私に顔を寄せて呟いた。「さすがにそれは嘘でしょ」
2017-03-03 19:12:25ハイウェイを走る車の背後に巨大な壁が迫っていた。正体は砂塵嵐だと早くに判明していたが、風の魔女が早々に対抗を諦めた為、アクセルを踏み続ける他には何も出来なかった。「昔は全然違う世界だったでしょうね」藍はかつてこの地にあった街を想像しているのか。恐らくその残骸こそ砂塵嵐の発生源だ。
2017-03-04 19:55:37宿の従業員が窓を開けると、そこから藍が身を乗り出した。「こんなに景色がきれいな場所だなんて知らなかった」「昔は全然見えなかったのよ。あるのはビルと黒い雲だけ」この街が繁栄していた頃は視程も相当悪かっただろう。無惨な破壊の後始末さえ進まない瓦礫の街を、青空と白い山が見下ろしている。
2017-03-05 19:19:36