イラストレーション締め切り探偵ザザ 第2331話「魔性の影」

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

□イラストレーション締め切り探偵ザザ□第2331話□「魔性の影」□

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□「マジで熱が出てるんです」「わかった、わかった、お大事に」「マジになんですよ」「わかったってば。お大事に」「なんで信じてくれないんですか！」「疑ってないから。ゆっくり治しなさい」「本当なんです！ゲホゲホッ！」オレは咳き込みながら電話を切った。「フー。海でも行くか」□

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□オレは社会人三年目の男、ジェイムズ。ようやく飲み会のクソ幹事を後輩に押し付けられる立場になった。だけど毎日何かが満たされない。それはきっと、野生を置き去りにしちまったからだ。桜も散った。そして俺の中の野性も……「大丈夫よ、ジェイムズ」最初はリンダもそう言ってくれた。最初はな。□

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□リンダは最近返事もまばらだ。そりゃそうさ。でも俺は諦めたくない。コンクリートジャングルでなまっちまった本能を……俺の俺自身に取り戻すんだ。それが会社にとっても利益になる。そうだろう？このままじゃ仕事も手につかない。だから海に行っていい。労災申請だ。オレは会社と逆の電車に乗った□

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□何度か電車を乗り継ぐうちに、磯の匂いを感じた気がした。ボックス席に座ったオレは、缶チューハイと普段読まない週刊誌とカツサンドを買って、早速遠足気分だ。まずは袋とじを、こう、下からこうやって、見る。当然オレは週刊誌を買ってるんだから好きに破いていい。だけど興奮したいんだ。□

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□オウッ！そこだ！こんなにも！クソッ、見えない！フゥーン！オレは段々熱中してきた。「クスクス、おもしろい！」「うるせえぞ……エッ！？」オレは顔を上げて目を見張った。めちゃくちゃホットな美女がオレに人懐っこく笑いかけていた。袋とじのグラドルよりホットな！「ここ空いてますか？」□

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□「エッそりゃ空いてますけど……」オレはガラガラの車内を見渡した。美女はオレの隣に座って笑いかけた。「海に行こうと思って」「エッ、オレもですよ！」「ちょっと職場で煮詰まっちゃって……」「オレも、オレもです！」「彼氏募集中なんです」「エッ、オレ、フリーですよ！」やったぜ！□

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□「私たち、気が合うと思うんですの」美女はオレの太腿に触った。そのとき、オレは目を見張った。なんてこった。オレのオレが……野性が！海に行く前に！「やった！」「どうしたの？」「こっちの話です。それじゃ二人でホットに海……」「ここで結構よ」美女は囁きかける！マジかよ！すごすぎるぜ！□

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□「ンー！」美女にせがまれ、オレはホットなキスをした。まさに絶頂だった。だから車窓の外がなぜかトンネルでもないのに真っ暗で、見えてきた海が赤かった事にもオレは気づかなかったんだな。野性が大事だったし。でも一秒後、否応なしに思い知らされた。「うげえ！これは！？」「ビルビルーッ！」□

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□オレは口の中に入ってきた何かに震撼した。それは細かい繊毛状の何かをのたうち回らせながらオレの喉奥に入り込み、そのまま上に……喉奥を破って脊椎と脳に入り込もうとしてきていた！「ウギャアアア！」振りほどこうとするが女の毛むくじゃらの腕が逃さない！「ビルビルビルーッ！もう遅い！」□

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□「ヒイエエーッ！何でこんなーッ！」「描け！描くのだ！描けェー！」怪物は強要する！「描く……絵を？」「描くのだァー！」「アバババーッ！」もうすぐオレはおしまいだ。記憶がフラッシュバックする。絵……そうだ、オレは昔はよく絵を描いていた……仕事とは関係ないが、日々、楽しく……□

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□それがいつしか、日々の忙しさに追われ、かまけ、なんだったら描かなくていいさみたいな気持ちが徐々に増し……野性を失って……リンダだって、昔のありのままのオレを好きでいてくれて……でも今はただ日々の勤め仕事に……「描くのだァー！」「ヤーアアアア！」リンダ……さよなら……。□

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□KRAASH！その瞬間だった。車両連結ドアが跳ね跳び、駅員さんが弁当とかを運んでくるカートが通路を弾丸めいて走り込んできた。カートはオレたちの隣で停止し、内側から破裂した。KRAAASH！「ウギャアアア！」熱いコーヒー飛沫を背中に受けて怪物が怯んだ。カートの中から現れたのは！□

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□それは長くはためくマントを羽織り、ギラギラと輝く宝石の両目義眼が恐ろしい奇怪な存在だった！「イラストレーション締め切り探偵ザザ、参上！」「ビルビルビルーッ！バカな！」怪物が飛び下がり、オレは解放された。「アンタ一体」「この世には自然科学では説明できない物事が沢山ある」□

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□「ビルビルビルーッ！」怪物が身構えた。ザザは怪物に向き直った。「そんな怪異を殲滅するのがこの私だ！」「させぬぞ！このジェイムズの絵パワーはワシが吸収する！」「喰らえ！義眼光線！」ザザの宝石の目がビームを放った！「ウッギャアアアアア！？」怪物は溶け消え、青い海と空が戻った……。□

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□「現実に戻ったのか」ザザは頷いた。「野生は病院も検討しろ。そしてお前には描くべき絵がある筈」嗚呼、そうだ、オレは思い出した……日常で摩耗したアートへの感動……「今月末が締切だ！わかっているのか！」「アアアアアアーッ！？」ザザはオレを座らせ、隣に座った！「わかっているのか！」□

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□「締切……アッ？」「今月末は物理書籍のウキヨエコーナー　ebssl.jp/hobby/ninjasla…　の投稿締め切りだ！それをお前は！」「アアアアアアーッ！？」「わかっているのか！」「アアアアアアーッ！アアアアアアーッ！」□

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□ザザは液タブやアイパッドプロや紙とペンを並べた！「描け！描くのだ！」「アアアアアアーッ！」「もうすぐだぞ！それをお前は！」「アアアアアアーッ！アアアアアアーッ！」「描くのだ！締め切りだ！」「アアアアアアーッ！」オレとザザを載せて、電車は海に向かって走るのだった□□FIN□□