【憑依:クリーチャー】[艦これ二次創作]『深海disこれくしょん』-6廻_後編。

初めての二次創作という名の盛大な破壊劇。その、五話後半とでも呼ぶべき最終話。
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九重七志@憑依特化 @yorishirosama

黒い空は灰色の雲に覆われ、ただひたすらに礫を叩きつける。 波紋を広げる赤い海は、じわりじわりとその色を広げていく。 夜の闇に嵐は吹き荒れ、水面もまた渦潮で応える。 羅針盤さえ狂う磁石の海さながらに、あらゆるものを間違いへと導いていく。

2017-04-29 02:05:08
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

煮えたぎる地獄の釜を混ぜ返し、ぶち撒けたような海の中。 ただ一ヶ所、恐ろしく凪いだ水面がひとつ。 ああ、そこは海の墓場。 風は止み、雨粒さえも逃れ去る。 澱む水面は舵を妨げ、動けぬ進めぬサルガッソ。 赤い紅い朱い海の始発点。そしてあなたの終着点。 そう、そこには。

2017-04-29 02:05:47
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

"彼"…… ――否! 今は"彼女"とでも呼ぶべき、"それ"が静止していた。

2017-04-29 02:06:09
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

"それ"は周囲に漂う"彼女"の浮遊要塞に目を呉れることもなく、直立し浮揚を続けたまま、ゆらゆらと波間に揺れている。 動き出す様子はなく、まるで眠っているかのようだ。 ああ、されど"彼女"こそがこの現象の元凶にして、深海の海域旗艦。 [深海鎮守府棲姫]に他ならない。

2017-04-29 02:07:11
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

然り、これこそが"彼"の[新しい艦]にして[身体] されど、"彼"の意思は蚊程も発揮されていない。 この艦は未だ眠ったまま、何かを待っているのだ。 それが何なのか、現時点では分からない。 だが、今、この場へと向かうものたちがいる。

2017-04-29 02:07:36
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

"彼"の"友軍提督"の、艦隊。 それも、機動連合艦隊規模の大艦隊が、このE海域の攻略任務を受諾。 彼女たちにとって詳細不明の、この海域地点。 仮名称『U(Undefined)マス』へと進撃を続けているのだ。 倒すべき敵、深海棲艦を討つために。 進軍する。

2017-04-29 02:08:33
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

『――古鷹、さん』 『うん、青葉……』 第二警戒部隊、先陣を切る青葉と古鷹は、視線を合わせて囁き合う。 『何故か、そう……分かる気がします。"あそこにいる"って』 『うん、私も同じ。どうしてかな……艦の記憶に、有るはずもない海なのに』 ――然り。

2017-04-29 02:26:59
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

この海は、この海域は。深海棲艦が陸地を侵食する事によって生まれた海。 彼女らの持つ艦としての記憶、それらにとっては紛れもなく"知らない海"だ。 海流の隙間を抜ける、旗艦の位置を探り当てる、など。 艦の記憶によって海域攻略が有利に働いたケースは無論、多々見られる。

2017-04-29 02:30:48
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

だが、彼女たちは確信している。 うっすらとではあるが、"自分たちに乗った"ことのある"彼"が、何処に居るのかを。 そして、"それ"が、おそらく。 "敵"である、ということを。

2017-04-29 02:34:22
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

羅針盤は真っ直ぐに西を示す。 舞い踊る妖精達に、迷いは一つも無い。 一度の遭遇戦も、防空戦も、対潜戦闘さえもなく。 ただ、嵐と渦潮を乗り越えて。 聯合艦隊は、西進を続ける。 あまりにも不気味な静寂。 雨の音、風の音、波の音さえ空々しく。 沈黙する姫君への道は、開かれる。

2017-04-29 02:43:32
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

――声が聞こえる。 底冷えする様な深い暗闇の中、"彼"は目を覚ました。 ――歌……? 聞こえてくるのは、音色。 節を付けて囁くような、透き通る歌。 ――一体、誰が…… 『-- - - -- - -』 ――いや、これは…… 彼は、気付く。 歌っているのは、自分だ、と。

2017-04-29 02:59:55
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

『叶わなかった』    『届かなかった』  『進めなかった』        『救えなかった』   『叶うことなど無い』 『もう、戻れない』   『慈悲なんて、望んでいない』 『崩れ、剥がれ落ちて』  『もう二度と、戻ることはない』 『消えてゆけ』  『光の中へ』

2017-04-29 03:06:29
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

嵐の海に、荒天の空に、深海鎮守府棲姫は歌う。 叶わぬ願いを、届かぬ思いを、進めぬ無念を、救えぬ報いを、戻れぬ絶望を、慈悲への悲嘆を……何もかも崩れ落ち、光の中へ消えてしまえと。 ――ああ。 "彼"は、何か合点したように頷く。 ――同じだ。 ――同じ、なのか。

2017-04-29 03:15:50
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

其れは、紛れもなく"彼"の感情。 栄光を望むことなど最早出来ず。 思いを届ける相手は既に亡く。 死した以上、進む道は消え失せて。 あの娘達を救うことさえ出来ずに。 戻る場所など、とうに失われた。 ああ、ならば、慈悲など不要。 何もかも崩し、堕とし、光の中へ消し去ってしまえと。

2017-04-29 03:28:06
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

"彼"が目を開く。 己の姿を見遣る。 白い肌の、少女の姿。 ドレスにも似た、薄手の皮膜。 背中には、禍々しくも黒々き、巨人の如き艤装碗。 "彼女"は、笑う。 "アイツラ"を見遣り、嬌笑の声を上げる。 『……モウ……モドレナイ……ミナゾコヘ……シズミナサイ……!』

2017-04-29 03:48:41
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

U地点に到達した連合機動艦隊が見たものは。 恐ろしく粘り気を帯びた、高濃度の深海汚染。 自分たちが用いる[夜戦突入]に、酷似した宵闇の結界術式。 白い戦艦水鬼――否。 滑走路を持たぬ泊地水鬼――否。 巨大艤装碗を持つ、深海海月姫――否。 "彼女"こそが ――深海鎮守府棲姫

2017-04-29 03:58:58
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

式神の飛行隊は飛ぶことを許されない。 警戒部隊の巡洋艦らは散開し、敵旗艦へと狙いをつける。 浮遊要塞らは大口を開け呵々大笑するように、散開した艦娘へと照準を合わせる。 "彼女"は嗤いを絶やさぬまま、警戒部隊の旗艦と思しき艦娘を狙い撃った。

2017-04-29 04:06:28
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

警戒部隊の編成は、以下の通り。 鎮守府最高練度であり、ケッコン艦でもある青葉・改。 鎮守府上位の練度を誇り、探照灯を任される衣笠・改ニ。 練度こそ、まだまだだが。提督お気に入りの古鷹・改。 そして

2017-04-30 00:09:01
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

高い火力を期待され、上等な砲を預かる長良・改。 育成途中ではあるが、照明弾を任された綾波・改。 育成途中ではあるが、対潜装備を備えた初霜・改。 以上の六隻が、この機動聯合艦隊において。 前哨戦闘、夜戦、雷撃戦を担うのだ。 現在の状況は、夜戦。 それも、開幕夜戦だ。

2017-04-30 00:11:41
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

鎮守府側が用いる、[夜戦突入]プロトコルと同様に。 深海棲艦側が[夜戦]の[閉鎖結界]を発動する。これを開幕夜戦と読んでいる。 その技術が初めて実戦で用いられたのは、戦争初期の鉄底海峡夜戦とされる。 慣れぬ戦い方を強いられた艦娘達は、苦戦苦闘し、幾多の轟沈を経験したという。

2017-04-30 00:20:17