アニメ、ドラマ、映画などの映像作品や、PCゲームなどがネット上に違法アップロードされるようになって久しい。それを助ける基地となるサイトが堂々と成立し、著作権保有者の抗議により仮に削除されることがあっても、再びアップロードされなおすといったいたちごっこが続く現状では
2017-04-30 06:22:28コンテンツを求める者は常にその良心を問われることとなる。今までどおり、あくまで正式なルートにて、対価を払いこれを購入し続ける者もいるだろうし、もはやコンテンツにお金を費やすなど愚かな事ととらえ、違法ルートを通じて極力無料で楽しもうとする者も現れる。
2017-04-30 06:29:29そして後者のような人間が一定数存在している以上、コンテンツの売り上げには確実に影響する。ネットを介した違法視聴が全くできない状況であれば、彼らも当然少なからぬ額をそれらの購入に費やしていただろうからである。
2017-04-30 09:11:23映像、ゲーム製作会社は慢性的に、違法アップロードサイトがもたらす売り上げ減に悩まされることとなるが、これらのコンテンツが標的とされるのは、映像、ゲームといったものが元から電子情報の姿をしていることにより、ネット空間との親和性が高いためである。
2017-04-30 09:13:12はじめから電子情報として存在しているものであれば、ネット上に違法アップロードしてやろうという悪意を持った者は、ほんの数回のクリック作業でこの目的を達することができる。では「書籍」の場合はどうか?
2017-04-30 06:42:54書籍は基本的に紙の束の形で成立しているため、この段階では電子情報化されていない。近年は電子書籍なるものものも現れてはいるが、市場の伸びは期待されたほどでもなく、出版社により電子化されている本は流通している全体の一部しかない。
2017-04-30 06:47:48ここで映像やゲームと同じく、書籍に関してもネット上に違法アップロードしてやろうという悪意者が現れたところで、この人間には2,300ページからなる本をまず丸ごとスキャナにかけなければならないという、大変な作業が発生する。その煩わしさは、悪意者の心を折るには十分である。
2017-04-30 06:52:39このため、映像やゲームといった別の形態のコンテンツが、違法アップロードの脅威にさらされ続ける中で、デジタル化を避け、紙の束という物的実体を保ってきた書籍は、そのアナログ性ゆえにネット上の無法地帯から自らを隔離することができていた。
2017-04-30 06:56:45ただ、これでも安心することはできない。基本紙の束の構造をとる書籍の、ネット空間に対する親和性が相対的に低いだけの話であって、その内容を違法アップロードする事は不可能ではない。2,300ページからなる書籍の完全スキャンを行う労力を惜しまず、せっせとネットに上げ続ける「厄介」な悪意者
2017-04-30 07:02:53あるいはサイトが現れてしまった場合、書籍は瞬く間に映像やゲームと同じ穴の狢と化す。映像やゲーム業界と異なり、この手の違法行為に対する免疫が整っていない出版業界が受ける打撃はより大きなものとなることが予想される。
2017-04-30 07:08:12書籍がこの危機から身を守るためには、もともと有していた物的実体の特性を強化していくほかない。たとえば違法サイトが横行しすぎた結果、ほとんどの人が書籍を購入することがなくなり、文筆業が成立しなくなったと仮定する。この場合、職業作家と言われる人々は当然筆を置く。
2017-04-30 07:10:24出版される本の数自体が減り、違法ダウンロード者はいくらネットを駆使しても新たな書物にめぐり合う事のできない共倒れの構図となっていく。ただこの中にあっても、あくまで世に書籍を供給し続ける勢力は存在する。「自費出版」を行う者たちである。
2017-04-30 07:17:16自費出版を行う者達の第一目標は、儲けを生み出すことではなく、あくまで自分達の手元にある草案を書籍の形で流通させることにある。結果本が売れず、赤字を抱えることとなっても構わない。これまでの人間社会における長い伝統の中で、「書籍化」=名誉との共通認識が出来上がっており
2017-04-30 07:27:12自費出版を行う者たちはまずこれを求めている。その格式化、差別化を助けるのが、やはり紙の束という物的実体である。形を持った書籍を世に流通させるためには、少なからぬ関係者の働きと社会的信用を必要とし、それが書籍化=名誉であることの裏づけとなっている。
2017-04-30 07:34:39そのため、もし自費出版(紙媒体)を要請してきた作者相手に、出版社側が同じ値段にて電子書籍化を提案してきた場合、作者の反応はネガティブであると考えられる。いくら電子「書籍」と名を打たれてはいても、誰でも安易に情報をあげることのできるネット空間に漂わされるのみでは
2017-04-30 07:38:37いわゆるブログなどとどこに本質的な違いがあるのか作者の中では見出しにくい。同じ内容であっても紙の束という物的実体を伴っているかどうかでその価値は変わってくる。
2017-04-30 07:40:37ここまでは売り手側の理論であるが、書籍が有する物性は、消費者側にも影響を与える。例えばテレビのニュースなどで、学者や評論家といった知識人たちがインタビューを受ける際、その背景に無数の書籍で埋め尽くされた本棚が配置される構図をよく目にするが
2017-04-30 07:50:59これは「これほど多くの本を読んでいるのだから、この人間は確かに物知りに違いない」と、視聴者に見せ付けたいとする、撮影者あるいは知識人本人の意図の働きによるものである。この状況では書籍はもはや知識人が自らを誇示するためのインテリア、ファッションと化している。
2017-04-30 07:53:54一つの本棚を埋め尽くすほどの書籍の山であっても、電子化すればUSB一体に収められるかもしれない。そちらのほうがよりスマートであるようにも思える。しかし同じ知識人であっても、書籍が山積みとなった本棚をバックにしているのと、USBを刺したパソコンのみを横にしているのとでは
2017-04-30 07:59:05見るものが覚える印象には開きがある。このように紙の束という物的実体を有する書籍には、物理的な姿を持つことで生まれる独特の格式が備わっている。よって、仮に今後書物の中身を丸ごとスキャン、アップロードしてくるような、厄介な違法サイトが登場することがあっても
2017-04-30 08:07:05書籍が売り上げを保っていくためには、その物性の魅力を強化していくことが有効であると考えられる。漫画を例にとれば、毎時ハラハラさせる展開で、次の回が気になって仕方がないような作品の場合、ストーリーは優れていても、それだけでは違法アップロードから身を守る上ではむしろ脆弱だと考えられる
2017-04-30 08:14:05求められているものが「展開」という「情報」に限定されるのであれば、違法サイトによりその情報を無料で入手できるようになってしまった場合これを購入する動機は薄れる。しかし、もし同じ作品がビジュアルアート集を販売した場合はどうなるか。ビジュアルアート集には単なる情報媒体としてのみならず
2017-04-30 08:19:10実際手に取りページをめくり、あるいは部屋に飾って楽しむという美術品としての側面も備わっている。そのため法とモラルに反して違法サイトにて漫画を読み、1巻あたり400円程度の支出を頑なに拒んできたものが、アート集1冊にいきなり3000円を拠出しても全く不思議はない。
2017-04-30 08:23:09一度ハードカバーで出版された書籍を文庫化することで低価格化し、売り上げを伸ばそうとする戦略がこれまでの出版業界では見られたが、ネットにあげられた裸の情報と差別化をはかる意味では、その装飾にあえてこだわり、アクセサリー、芸術品としての側面を尖らせていったほうが有利になるかもしれない
2017-04-30 08:34:18また、近年映画界でみられる、クラウドファウンディング的手法も有効であると考えられる。厄介な悪意者により、書籍の中身がネット上に丸ごと上げられるようになると、単に情報を得るという意味においては、なぜだか法とモラルを遵守して正式なルートで購入活動を行った者だけが相対的に損をするという
2017-04-30 08:39:56