狐不来伝説~不死の騎士編~

狐さんは来ない
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kyu190a@狐のお嫁さん募集中 @kyu190a

(ヽ´゜ω゜)狐さんと一緒に悠久の時を生きてぇ

2017-05-12 00:26:46
帽子男 @alkali_acid

キュッチャンが目覚めると、灰の海に没しかけた都が広がっていた。まだ沈みきらぬ尖塔の一つに背の曲がった老婆がうずくまり、荒涼とした景色を眺めている。 「狐さんはどこですか」 「狐?ああ…もう四世紀も前にね、皆滅んだよ…ほら、あそこに骨がある」 しわがれた指がさした先には

2017-05-12 00:46:33
帽子男 @alkali_acid

あったのは崩れ風に散ってゆく塵ばかりだった。 「おや、かたちをとどめていたのにねえ。何かよほど狐の厭うものをお持ちかね…それともあんた自身か…フェッフェッフェ…思い出したよ。昔キュッチャニアという国で、をあくなく追い求め、世界中のから嫌われ、決して会えなかった元首がいた」

2017-05-12 00:48:19
帽子男 @alkali_acid

「元首は妃をめとることもなく、あれだけ焦がれたの毛並みに触れることはもちろん、匂いを嗅ぐことも、声を聴くこともできず、ついにはを守ろうとした騎士達が攻め寄せ、討伐し、石の棺に収め、湖の底に封じたと」

2017-05-12 00:50:01
帽子男 @alkali_acid

邪悪な元首がいなくなって、たちは喜び、栄え、踊りまわり、輝きの時代が始まった…だがそれも…もう…」

2017-05-12 00:50:35
帽子男 @alkali_acid

不死の元首がいつか蘇る。その予言は狐たちを怯えさせたが、結局は成就を待たずして、一匹残らず時の流れのうちに消えていった…皮肉じゃないか…滅びこそが逃げ道だったなんてね」

2017-05-12 00:51:46
帽子男 @alkali_acid

「それで…不死の御方、あんたは何を望むんだい?」 キュッチャンは大剣を引き抜き、怒りに任せて媼を斬り捨てました。 するとねじくれた屍はたちまち頽れ、埃となって足元に広がったのです。

2017-05-12 00:53:07
帽子男 @alkali_acid

灰の海はただ寒々と乾いた大気の流れに波打ち、虚ろな空漠を地平の果てまで広げていました。 キュッチャンは鼻をひくつかせ、おどおどと四方を眺めやってから、水なき大洋へ続く段差を一歩ずつ降りてゆきました。 「きっと…どこかにいるでござる…きっとまだ…」

2017-05-12 00:54:52
帽子男 @alkali_acid

すると、白く粘りつくようでいながらわずかの湿りもない深淵が、静かに終わりなき命を持つ英雄を包み込み、かき抱いて、忘却という名の偽りの慰めを与えたのです。

2017-05-12 00:56:34