ソウカイ・シンジケート #4
(これまでのあらすじ:ソウカイ・シックスゲイツのガーランドに監禁されたニンジャスレイヤーは、オヒガンから次元転移してくるザイバツ・シャドーギルドの襲撃を逆手にとって危険な交渉に出た。際限なく行われるザイバツの領域侵犯を止める為に、ラオモト・チバに協力させろというのだ)
2017-05-11 22:33:22(当然これを拒絶しようとするガーランドであるが、事実ザイバツから非常に強力なニンジャであるニーズヘグが現れるに至り、ニンジャスレイヤーの要求が否応なしに現実味を帯びてしまった。ザイバツの次元転移を妨げるには、ソウカイヤが抱えるタツジン的タトゥーイストのワザが必要である)
2017-05-11 22:35:58(シックス・ゲイツのニンジャであるヴァニティが援軍に現れたことで、ニーズヘグは退却。ニンジャスレイヤーはガーランドと共にソウカイヤのクロスカタナ紋を掲げるヤクザリムジンに乗り込んだ。向かう先は、果たして……)
2017-05-11 22:38:18その夜、庭から見上げるネオサイタマの空は晴れていた。割れた月は不気味なブラッドオレンジ色に染まり、生暖かい風は嵐の後めいたオゾンのにおいを含んでいた。瓦屋根を頂く朱塗りの塀には等間隔で監視カメラと高射砲が設置され、「厳禁」「ダメ」などの極太ミンチョ警告看板が立っている。1
2017-05-11 22:46:22塀の内側、広大なサンスイ庭には、紫のイクサ旗が無数に配置されていた。どれも金糸のクロスカタナ紋の縫い取りを戴き、「ソウカイヤ」の威圧的五文字カタカナが書かれている。そして、見よ。サンスイの一角、細長い長方形の芝が石で囲われたパットゴルフエリアの人物を。 2
2017-05-11 22:50:51そこでパターを握るのは、黒紫のスラックスにベスト姿、ワイシャツの袖をまくり上げた銀髪の若者だ。ただの若造ではない。そのカタナめいた目つき。あるいは、タタミ数枚離れた地点で地面に膝をつき、ゴルフボールの入ったオトソを捧げ持つ筋骨隆々の傷だらけのニンジャの忠実ぶりからも明らかだ。3
2017-05-11 22:59:13「オヤブン」傷だらけのニンジャは手ぶりで促した。若いオヤブンはパターを振りぬいた。シュルルルと音を立てて白球はジオラマの丘を駆け上がり、斜めに滑り落ち、スココン、と音を立ててホールインした。ニンジャは素早く最後の白球を置いた。シュルルル。スココン。全く同じ軌跡でホールイン。 4
2017-05-11 23:03:39「お見事でした」ニンジャは無雑作に渡されたパターを宝剣めいて掲げたのち、素早くゴルフケースにしまうと、それを担ぎ上げた。「行きやしょう」「ああ」オヤブンの髪を風が揺らす。若さと老成、猛々しさと冷静さの同居するこのただならぬ男こそ、ラオモト・チバ。ソウカイヤの若き帝王であった。 5
2017-05-11 23:08:36「お身体に障りやす」ニンジャはジャケットを差し出す。彼の名はネヴァーモア。ラオモトは断るでもなく受け取って肩にかけ、庭を横切り、エンガワから屋敷に上がった。エンガワに控えていたクローンヤクザが素早くドゲザし、ショウジ戸を引き開けた。タタミ敷きの部屋ではオイランが三味線を弾く。6
2017-05-11 23:15:09チバは一瞥もせずに横切って奥のフスマを開き、廊下を進んだ。語らいの声が近づいて来る。チバはある一室の前で立ち止まる。フスマが開いた。長方形の広間。ザブトンに座っていた者らが目を上げ、チバを……ボスを見た。「ドーモ」「ドーモ」「ドーモ」「続けろ。ブレイコウだ」彼はカミザに座った。7
2017-05-11 23:20:15部屋にはエド戦争の騎士鎧が飾られ、「お遍路」と書かれたショドーが掲げられている。優雅というより猛々しいアトモスフィアだ。ウナギの重箱を前に座る男女が四人。そして彼らにサケを注いで回る蠱惑的な女。計五人がすべてニンジャである。ザブトンはチバのものを除き六つ。ふたつが空席だった。 8
2017-05-11 23:24:56「カンパイ」チバが言った。ネヴァーモアは斜め後ろに直立。酌をした女ニンジャは隅でオコトを弾き始めた。ここはラオモト・チバの私邸の一室であり、半年に一度の「ノウカイ」の場である。即ち、ソウカイヤの帝王たるチバが「シックス・ゲイツ」の六人を直々にねぎらう重要な会であった。 9
2017-05-11 23:30:07「何やってやがるんだ。他二人は」主君をはばからず毒づいたのは、ヤクザスーツに身を包み、全ての指にクロームの指輪をはめたニンジャ、ホローポイント。「シケこんでンのか?」「ヴァニティはともかく、特に几帳面なガーランドが珍しいこと」気だるげに微笑した女のニンジャは、カバレット。10
2017-05-11 23:35:09鼻を鳴らして杯を傾けたニンジャはエド・スタイルのチョンマゲで、着流しを着ている。特異なのはその顎から下。明らかにフル・サイバネティクスである。「酔えるのか?シガーカッター=サンよ。気になって仕方ねえ」ジュー・ウェア姿、節くれだった巨躯のニンジャが囁く。彼の名はデッドフレア。11
2017-05-11 23:41:30ネヴァーモアが低く言った。「既に連絡を受けている……ガーランドはじきに。ヴァニティは遅れると。問題に対応中だ」「ほら。ガーランドは、やっぱり几帳面。抜かりない男だから」カバレットは笑い、キセルの灰を落とした。チバはサケを呷り、眉ひとつ動かさない。ブレイコウの席なのだ。 12
2017-05-11 23:48:38「問題って何です。オヤブン」ホローポイントが尋ねた。凶悪極まるヤクザニンジャ戦士が、若い非ニンジャに恭しくふるまう様は異様である。チバは冷たく笑った。「余興が一つ増えたぞ。貴様ら」「余興?そりゃ何です」「黙って待て」「……噂をすれば」シガーカッターが耳をそばだて、言った。13
2017-05-11 23:53:40フスマが微かに開き、外のクローンヤクザが「ガーランド=サンです」と告げた。「入れ」と、チバ。ターン。フスマが勢いよく開き、ガーランドがエントリーした。シックス・ゲイツの者達は眉をしかめ、訝しんだ。ガーランドは手錠を嵌められた赤黒のニンジャを伴っていたからだ。 14
2017-05-11 23:58:31「オヤブン。遅くなりました。ニンジャスレイヤーです」ガーランドが言い、ニンジャスレイヤーを突き出した。「……ハッハハハハハハ!」チバはいきなり笑い出した。目を見開いたまま、口を大きく開けて堂々と笑った。ピシャリ!扇子を開き、閉じ、先端で指し示す。「見ろ!こいつが余興だ!」 15
2017-05-12 00:01:18「ベイン……オブ……ソウカイ……シンジケート」オコトの弦をヒットしながら、蠱惑的なニンジャ……テンプテイションが区切り区切り言った。どろりとした殺気が広間を満たした。「ムッハハハハ!ムハハハハハハ!ニンジャスレイヤー……ニンジャスレイヤー!」チバは立ち上がり、カタナを抜いた。16
2017-05-12 00:05:08帝王はカタナの切っ先をニンジャスレイヤーの喉元に定めた。「こ奴がニンジャスレイヤーだ、貴様ら!」ニンジャスレイヤーは睨み返す。切っ先が喉元に触れるが、動かない。「フン……間違いない。ニンジャ。ニンジャスレイヤー……だが……フジキドではない。父上の仇では。ならば貴様は何者だ」17
2017-05-12 00:08:44「ニンジャスレイヤーだ」赤黒のニンジャはジゴクめいた目をチバに向け、言った。「貴様に要求がある。ソウカイヤ」ネヴァーモアが一歩踏み出し、シガーカッターがカタナに手をかけ、デッドフレアがタタミを軋ませて重心を動かす。ガーランドはニンジャスレイヤーの後ろ、冷たい目で状況を見守る。18
2017-05-12 00:14:48テン……テテン……テン。オコトのマイペースな音が響き続ける。チバがカタナを動かした……真下に。「キエーッ!」イアイが手錠の鎖を切断した!彼はカタナを戻し、ザブトンに座った。ニンジャスレイヤーはチバを凝視した。チバは言った。「手錠など要らん。殺したい時に殺す。せいぜい話せ」19
2017-05-12 00:21:19場の緊迫感が僅かに薄れた。ネヴァーモアとホローポイントは別だ。前者は拳にカラテを込め、後者はジツの予備動作を解かずにいる。「座ったらどう?」カバレットがガーランドに促した。「ウナギもあるわ」「……」ガーランドはチバを見た。「先程お伝えした通り……」「繰り返すな。十分だ」 20
2017-05-12 00:28:05