幻の日本漫画映画「王様のしっぽ」(昭和24年 瀬尾光世監督)と昭和天皇…そして「やぶにらみの暴君」

田川 滋 TAGAWA Shigeru 타가와 시게루 @kakitama

先日上映会で見たアニメ映画「王様のしっぽ」(1949年 瀬尾光世監督)の感想メモ。 最初に印象から私見を書くと、この作品は”おクラ入り”になったのは、「左翼的」と言うより「天皇のことを描いている」と見られたからではないかな、と思いました。 pic.twitter.com/0DSg8yOGVl

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物語は、狐の国に尻尾のない王子様が産まれる所から。王宮で家来達は全員王子の前で尻尾を見せず、成人するまで育てる。成人した王は町の人々と触れ合いに行くと言い出し、慌てた家臣は町中の民に「尻尾をかくせ」と言うお触れを出す…と言う、「裸の王様」モチーフの話。

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続)王様は「町一番のお年寄り」や「手を失った傷病者」など訪問するが、いきなり尻尾を隠せと言われてもそう上手くは行かないよ、と言う民衆は、行く先々でボロを出す。疑問を深める王はパレードに出て紙吹雪の歓迎を受けるが、とうとうそこで空気を読まない子どもに「王様は尻尾なしだ」と言われる。

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続)あの不敬な子どもを捕まえろ！と家来と民衆は散り、広場には紙テープを頭にかぶったままの王が一人残される(ここはなかなか描写に悲愴感が出ている)。王は「あれが、わが民族の誇り、尻尾と言うものだったか…」と、一筋涙を流す。

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続)王は「もう偽りはやめよう、みな本当のことを言おう」と顔を上げ、尻尾のない王様はめでたく民に迎えられ、ダンスなど踊っているシーンでめでたし…となる。４７分を３３分に縮めて完成にこぎつけたものだそうだが、そのせいか尻尾隠し失敗エピソードが抑揚なく繋がるばかりでメリハリに欠ける感。

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続)町の中には「尻尾を隠せ」のお触れが出ても「尻尾をたたんでは満足な演奏は出来ない！そんなお触れには従わない！」と言う感じのピアニストも出てきたりするのだが、その話もどう収束させたのか曖昧でよく分からなかった(汗。この辺も当初予定からカットした影響だったりするかも。

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自分)で、自分の印象としては、町に出て民と触れ合う王と、応対しながら自分の尻尾を隠す(そして失敗する)民、と言うチグハグ構図は、 戦後昭和天皇が昭和２０年代後半まで全国で行った「地方巡幸」をモチーフにしている様に見えるのですよ。当時の配給会社もそう思っておかしくなかっただろう。

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続) 動画の最初の方にちょっと映ってるだけですが、戦後の天皇の地方巡幸の様子。youtube.com/watch?v=EBvMNg…

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続)「王様のしっぽ」では病院の患者を見舞って、手をなくし包帯を巻いた男に「その手はどうしたのだ」と王が聞くシーンがある。それが”戦争のため”とは特に示されないが、このシチュエーションはやはり先の動画の映像でも天皇が行っていた「傷病兵の見舞い」を連想させる。

田川 滋 TAGAWA Shigeru 타가와 시게루 @kakitama

続)その時ベッドの男はハチが鼻に止まりそうで気が気でなく、王の問いに答えるどころではない。お付きが「答えないと無礼だぞ」とか言っている内にハチにさされて(だったかな)尻尾を出してしまう。ギャグの呼吸がダラダラでなんとも面白くないのだが、やはり王様の”世間知らず”の印象は与える。

田川 滋 TAGAWA Shigeru 타가와 시게루 @kakitama

続)多数の国民が感動して迎えたと言う天皇の地方巡幸だが、やはり一方「お仕着せ」や「わざとらしさ」と言った違和感もあっただろう。天皇が来た時だけ身の回りを整える、みたいな。「王様のしっぽ」はそう言う感想を表出させている、少なくともそう見られる恐れがある、と配給会社は思ったのでは。

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続)また”狐の誇り”とまで言われる尻尾を持たない狐の王様、と言う設定は色々微妙な問題を内包している(今日的な意味でも)。王様が天皇を連想させるなら、大正天皇の前例もあるし、”ナニカガタリナイ”的な連想をさせる設定は、危うい。

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続)巡幸した天皇の「あっそう」は親しまれた、とも言うが、会話の間合いが合わなかったりする”やんごとなさ”は、やはり違和感でもあったろう。だいぶ昔の宮崎駿氏のコメントによると「大塚康生氏の(昭和)天皇の物真似は天下一品。いつか右翼に刺されるだろう」だそう。やはり巡幸時の印象だろう。

田川 滋 TAGAWA Shigeru 타가와 시게루 @kakitama

続)昭和天皇の”喋り”のエッセンスをイッセー尾形が再現した、ソクーロフ監督「太陽」。記録映像から”口を動かしているが喋っていない時がある”と言う要素を取り入れたらしい。語りたいが、声に出来ないことがある。 youtube.com/watch?v=8Ap8mN…

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田川 滋 TAGAWA Shigeru 타가와 시게루 @kakitama

続)作画的に見ても、「王様のしっぽ」に出てくる家来や国民はややバタくさいカートゥーン的な狐なのだが、主人公の王様は瀬尾監督の戦中作「桃太郎海の神兵」の桃太郎の様な、人間…いや”日本人”の顔をしている。最初のツイートのスチルにもありますが。耳はあるが「狐」とはなかなか分からない。

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続)と、恐らく「民主主義」の寓話として描こうとしたはずが、様々なメタメッセージまで読み取られ、「王様のしっぽ」は敗戦４年当時としては大作のスケールで構想されながら、公開されない作品に終わってしまった。戦中は「桃太郎の海鷲」「桃太郎海の神兵」を送り出した瀬尾光世の不運。

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続)「王様のしっぽ」、高木東六の音楽は本格的なミュージカルになっていて「大作」の香りを醸す。ただ動きや演出は合っているとは言えない。作画には大工原章も入っていて家臣の狐があれこれ悩む演技にはらしさがあるが、枚数は使う一方メリハリに欠ける作画はノイズが多く効果的でない。

田川 滋 TAGAWA Shigeru 타가와 시게루 @kakitama

続)瀬尾光世は「桃太郎海の新兵」では作画の経験者が徴兵で消え、見よう見まねの新人を多く使ったと言うが、それでも一定以上の水準を保っていたのに比べると「王様のしっぽ」は弱く見えるが、どうも狐の動きなどディズニー的アニメをそのまま真似して劣化したみたいな方向性が合ってなかったのかも。

田川 滋 TAGAWA Shigeru 타가와 시게루 @kakitama

続)一方で紙吹雪をかぶったまま広場に取り残される王が真相を悟るシーンには「桃太郎海の神兵」でも見せたドラマチックさがある。瀬尾がいかに「戦中」「戦後」の折り合いをつけたかは窺い知る所ではないが、王を天皇と見れば「真相を知らされなかった天皇」に思い入れをしている様でもある。

田川 滋 TAGAWA Shigeru 타가와 시게루 @kakitama

続)またこの作品、衣装の描き方やデザイン面のあれこれが後のＴＶアニメ「リボンの騎士」によく似た雰囲気を持っている。冒頭に二つ並んだ教会の鐘が鳴るカットなど”そのまんま”と言う感じ。「終」のロゴもまんまリボンの騎士のタイトルの字体、と言うか。不思議なほど似ているｗ。

田川 滋 TAGAWA Shigeru 타가와 시게루 @kakitama

続)手塚治虫は「リボンの騎士」を描く時、非公開に終わった「王様のしっぽ」をどこかで見たり参考にする機会があったのだろうか？あってもおかしくはないだろうが、謎。瀬尾光世はこの作品を最後にアニメから去り「瀬尾太郎」等の名で童画家として活躍。手塚治虫と同じ雑誌にもよく載っただろう。

田川 滋 TAGAWA Shigeru 타가와 시게루 @kakitama

おお、そうでしたか！手塚治虫は「王様のしっぽ」、どこかでしっかり見ていたんですね。しかもそこまで明確に評価をしていたなら、「リボンの騎士」が似て来ても全然おかしくはないですね。「桃太郎海の神兵」と言い、瀬尾作品のアニメ的と言うよりドラマ性を出す演出に感応するのかな、と。 twitter.com/gappaiyasu/sta…

ガ ッ パ イ や ー す ー（キ ョ ー ソ ク） @gappaiyasu

@kakitama 手塚は『ぼくはマンガ家』で、「王様のしっぽ」を「ひとつの力作」「まぼろしの名画」と評しています。「本格メルヘンとして立派なできだった。ことにラストで、しんしんと雪の降るシーンは立体効果もあり、忘れられない」（大和書房版、95ページ）

2017-05-14 09:53:36

田川 滋 TAGAWA Shigeru 타가와 시게루 @kakitama

続)手塚治虫は著書「ぼくはマンガ家」で『王様としっぽ』を評価していたとご教示いただきました。 さて、そう言えば、と言うわけでもないが（謎、ポール・グリモーの「やぶにらみの暴君」(王と鳥)の公開は1952年。日本公開は1955年。ただし52年の時点で制作開始から４年経っていた。

田川 滋 TAGAWA Shigeru 타가와 시게루 @kakitama

続)ざっくり言えば「王様のしっぽ」と「やぶにらみの暴君」は近い時期の作品であり、第二次大戦終結直後にあの戦争をふりかえると言う意味の込められた作品でもあるだろう。グリモーの国フランスはナチスの傀儡国家となり占領下の平和を保つ一方、レジスタンス(テロリストとも言う)が活動した。

田川 滋 TAGAWA Shigeru 타가와 시게루 @kakitama

続)「やぶにらみの暴君」では直近のヴィシー傀儡政権より、王制時代フランスに工業的モダニズムを加味したイメージで「専制」が語られる。この王様は生得と思われる寄り目(内斜視)で、それが邦題の「やぶにらみ」の事であり、また「やぶにらみ」には”見当違いな考え方”と言う意味もあった。