トランペッターのおはなし

Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

トランペットとトロンペーテ、どっちがどっちだったかわからなかった。 別にいいか。

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彼はトロンペーテを吹いていました。 それは文明が滅びて久しいこの時代ではとても貴重で、まともに吹けるものは彼の吹いているものだけでした。 カセットテープも再生機器も失われたこの世界では、数少ない美しい音色です。

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ある日、ならず者が彼を襲いました。 物珍しいトロンペーテを奪って、金持ちの物好きに売りつけようとしたのです。いつの世も、権力者はそういう珍しいものや貴重なものが好きなのです。

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彼はあっさりトロンペーテをならず者に渡しました。あまりにも拍子抜けしたならず者たちは、普段なら身ぐるみ剥いで殺すところを見逃してやることにしました。 トロンペーテが物好きに売れれば、しばらくは遊んで暮らせるものですから、そんな小銭にこだわる必要がなかったのです。

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トロンペーテは物好きに買われました。剥げ落ちなかったメッキが輝く美しい形の楽器というのは、物好きも知っていました。聴いたことのないような美しい音を出すと、噂が伝わっていたのです。

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物好きはトロンペーテを吹いてみました。 フー、フーと風の抜ける音がするだけ。

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物好きはならず者たちを呼びつけました。 これを吹いていた男を連れてこい、と。

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彼はあっさり捕まりました。 物好きは彼に命じます。それを吹けと。 彼は嫌そうにトロンペーテを吹きました。美しい音色と旋律が部屋に響きます。 物好きは彼と同じように吹きますが、やはり風の抜ける音しかしません。

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物好きは彼に命じます。吹き方を教えろと。 彼は物好きに音の出し方を教えました。 物好きは彼と同じように吹きますが、こんどは似ても似つかないブー、ブーという汚い音が出ました。

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物好きは、吹き方を教わるために彼を雇いました。どうしても、彼と同じような音色が出したかったのです。旋律を奏でたかったのです。どうしようもないほどに、トロンペーテの音色に惚れ込んでしまったのです。

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物好きは少しずつきれいな音が出せるようになりました。 彼から少しずつ曲を教わりました。

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やがて、物好きは彼と同じくらいの音色と旋律を奏でられるようになりました。 とてもとても長い時間がかかりましたが、完璧な演奏ができるようになったのです。

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ある日、物好きは気づきます。 このトロンペーテは、彼から奪ったものであると。長い間一緒にいて、すっかり忘れていたのです。 物好きは彼にトロンペーテを返すと告げました。泣きながら謝りましたが、彼は物好きにトロンペーテを渡します。

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「これの、いい後継ぎになった」と。