それゆけ!ミヤコようちえんスペシャル ミヤコようちえんVSスカッと邪神

作:ななしのさん
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なくて七しのあって四十八しの @RGB4U

@tristarwats 「いきなりで悪いけど、陳腐な話をしよう。使い古された感のあるフレーズだが、今、世界は危機に瀕している」「……?」「怪訝な顔をしているね。またぞろどこかの国がミサイルの発射スイッチでも押したのか?いつもの事だろう……そう言いたげだ」「……」「その認識は概ね正しい。しかし──」

2017-05-20 13:05:04
なくて七しのあって四十八しの @RGB4U

@tristarwats ようちえんの一室。ブラインドとカーテンによって作り出された暗闇の中で、卓上のPCモニタの光が、両手を台形に組んだ園児の顔を浮かび上がらせる。「事は遥かに深刻なのだ。太古の昔に封じられた邪悪……ミサイルなどよりよほど根本的な『滅び』のスイッチが押されたのだなあ」

2017-05-20 13:10:36
なくて七しのあって四十八しの @RGB4U

@tristarwats 「最初の異変は、ようちえん──ミヤコ幼稚園。ぼくら不思議なようちえんじたちがセンセイと暮らす、郊外の謎多き託児施設──にほど近い商店街で起こった」 園児が背後を指し示すと、プロジェクターが一人でに稼働し、背後のスクリーンに一枚の画像を投影する。

2017-05-20 13:18:13
なくて七しのあって四十八しの @RGB4U

@tristarwats 「時刻は朝。開店直後のパン屋で、客が店員と口論になっている……トングでパンをトレイに運んでは戻し続け、注意した店員に食ってかかったのだ。よくあるクレーマーだと思うだろうが」「S案件ですね」園児の長広舌を遮る、PCから発せられた電子音声。それを聞いた彼が首肯する先にもまた園児。

2017-05-20 13:27:48
なくて七しのあって四十八しの @RGB4U

@tristarwats 「そうだ、みすづちゃん。このクレーマーの影は、常に不定形に揺らいでいる。窓と店内の光源の位置と照らし合わせても、これは明らかに不自然なのだ」「ええ、ななしのちゃん」台形に腕を組んだ園児ななしのにみすづちゃんと呼ばれた園児は、先程から白目を剥いて椅子に腰掛け、ピクリともしない──

2017-05-20 13:39:24
なくて七しのあって四十八しの @RGB4U

@tristarwats それもそのはず。みすづは幼稚園で一二を争うウィザード(※優れたハッカーの意)であり、マシンに直結し、自らの意識ごとネットの海に没入する事で、そのタイプ速度を最大限に高めているのだ。ななしののPCから聞こえる電子音声も、かの園児の電算処理能力の高さの顕れであった。

2017-05-20 13:45:33
なくて七しのあって四十八しの @RGB4U

@tristarwats 何かを思い出そうとするように視線を宙に彷徨わせ、ななしのは続ける。「そして──同刻、複数のえんじが異変を感知している」電子音声が応える。「私はネットの海に広がる、波めいたノイズを」「ぼくとあるとちゃんは魔術めいたシンピテキの予兆を。もずちゃん、オオトリちゃんは野生の勘で、何かを」

2017-05-20 13:55:07
なくて七しのあって四十八しの @RGB4U

@tristarwats 時は少し遡り、早朝の幼稚園。裏山に生い茂る深い緑の中を、二人の園児が、金糸の髪を風に靡かせながら駆けている。「ヘイヘイ獲物だ、悪くないぜ」「ミュートポポス……」各々得意の得物を携え、彼らが駆ける先には、悠然と佇む巨大猪。これは神聖な狩りであり、センセイに課された試練であった。

2017-05-20 14:08:41
なくて七しのあって四十八しの @RGB4U

@tristarwats 「さっきはおめおめ逃げ帰ったけど今度は二人だ!つまり戦力は百倍!行くぞもずちゃん!イヤーッ!」「オオトリちゃ……!」二人に気付いた猪に対し、最初に仕掛けたのは黄色い貫頭衣を纏った園児、オオトリ。その手に握った鉄球を力強く投擲!「バモォーッ!」すると、なんたる事か!

2017-05-20 14:16:00
なくて七しのあって四十八しの @RGB4U

@tristarwats 今にも二人に突進せんとする猪に着弾した鉄球から、不可思議な回転エネルギーが肉を、骨を伝達!前足を痺れさせ、突進の初動を妨害した!「オオオオ!」間髪入れずオオトリは跳躍!力強いカラテシャウトと共に鉄枷を着けた足による空中前転踵落とし、即ちドラゴン・ヒノクルマ・アシを見舞う!

2017-05-20 14:22:40
なくて七しのあって四十八しの @RGB4U

@tristarwats 「バモォーッ!」オオトリのカラテが頭蓋に直撃!脳を揺さぶられ完全に態勢を崩した猪はしかし倒れず、その牙を果敢に振り上げた。相討ち狙いの危険なカミカゼ・アタックである!オオトリは逃げ場のない空中でこの一撃を受けるかと思われたが、その時!「──フォッ」

2017-05-20 14:31:23
なくて七しのあって四十八しの @RGB4U

@tristarwats 上は緑のブラウス、下は足運びを隠す黒いスカートを穿いた、長髪のえんじが音もなく躍り出た。もずである!「ミュートポポス……!!」かの園児はアルカイックな笑みを浮かべ、ミュート棒と呼ばれる杭めいた長柄のヤリで猪の前足の付け根、即ち心臓に通じる急所を深々と刺突!猪はしめやかに絶命!

2017-05-20 14:36:54
なくて七しのあって四十八しの @RGB4U

@tristarwats 「ちびるかと思った……もずちゃん、ありがとう!ユウジョウ!」「ヒィン……オヤスヤポプャポン」二人はザンシンしたのち、オオトリはしめやかに失禁……をこらえてもずに握手を求める。もずは握手すると跪いて祈りを捧げ、猪の目を閉じてやった。ヒヤリ・ハット。実際紙一重の勝利であった。

2017-05-20 14:49:22
なくて七しのあって四十八しの @RGB4U

@tristarwats 過酷なイクサではあるが、これは言わば自然の摂理。猛獣や危険なモンスターと対峙し、これを糧とする事は、ようちえんじ達にとっては日常茶飯事の、ありふれた朝の風景である。しかし、今日この時に限ってはそうではなかった。ミヤコ幼稚園の日常に影が落ちたのだ。名状しがたき邪悪の胎動によって!

2017-05-20 14:57:52
なくて七しのあって四十八しの @RGB4U

@tristarwats 「アイエッ!?なんだ?この感じ……」最初にそれに気付いたのは、ちびりかけた腹いせに猪の尻を蹴っていたオオトリだった。もし読者の皆さんが鋭いえんじ第六感の持ち主ならば、彼同様に気付けただろう。遠い街の方角から、黒い靄のような不穏なアトモスフィアが押し寄せてくるのを。

2017-05-20 15:02:55
なくて七しのあって四十八しの @RGB4U

@tristarwats 「ヂュッ……ゾル……オオトリちゃ……?」「もずちゃん、何かがおかしいぞ……!」その次に異変に勘付いたもずは、血抜き作業の手を止め(※猪の前足の傷から口を離し)、ミュート棒を手に跳ね起きる。二人は顔を見合わせ、猪を近場の沢に放置して、センセイに異常を報せに幼稚園へ駆けた。 --

2017-05-20 15:12:05
なくて七しのあって四十八しの @RGB4U

@tristarwats ----- また、幼稚園内にいるえんじたちの中には、彼らの報告よりも早く異変に気付く者もいた。「……ななしのちゃ……天鱗……ズルいぞ……zzz」「あるとちゃ……物欲センサー……なのだなぁ……zzz」今こうして寝こけている二人のえんじがそうだ。

2017-05-20 15:18:32
なくて七しのあって四十八しの @RGB4U

@tristarwats ゴシックナース服めいた園児装束を纏い、鎖手枷を揺らしながらふわふわと浮かぶユーレイえんじ、ななしの。三角帽をアイマスク代わりに高鼾をかく魔女めいた園児装束のえんじ、あると。この二人は園の遊戯室で、昨晩遅くまで流行りの電子狩猟ゲームを楽しんでおり、今は静かに寝落ちていた。

2017-05-20 15:22:49
なくて七しのあって四十八しの @RGB4U

@tristarwats (ス……ッと……ボタン……押し……頂……)ふと、耳元で囁かれたような感覚に襲われ、あるとはゆっくりと身を起こす。寝ぼけ眼を擦りつつ周囲を見渡すが、室内にあるととななしの以外の人影はない。「ななしのちゃんの寝言かな?」

2017-05-20 15:30:46
なくて七しのあって四十八しの @RGB4U

@tristarwats 部屋は薄暗い。電灯が点いており、外は朝であるにも関わらず、視界にサングラスめいたフィルターが掛かったように周囲の明度が低く感じられる。あるとは訝しんだ。そして、再びその幻聴を聞いた。(スカ……と……)周囲を素早く見回す。ななしのが目を開いていた。「オハヨだ。ぼかあ何もしてないぞ」

2017-05-20 15:37:50
なくて七しのあって四十八しの @RGB4U

@tristarwats 両手を挙げ、しきりに自分が無関係だと示す──ななしのは元は邪悪なユーレイであり、センセイによって調伏されたのだ──ななしのにあるとは問う。「じゃあ、この幻聴はいったい」「ぼくも聞いた。スカッと……とか、何とか。奇妙なノイズだ」「は?」瞬間、あるとの両目がドス黒い怒りの炎を帯びた。

2017-05-20 15:47:25
なくて七しのあって四十八しの @RGB4U

@tristarwats 「スカッと──は?""スカッと""?」「ひいっ!?」シンピテキが高まり、二人の足元に転移魔法陣が浮かび上がる。そこから機械仕掛けの箒を引き抜き、凄まじい気迫のカラテを構えたあるとに、ななしのは思わず後ずさった。「ゆ、許してください!何でも……」「ん?今……いや、そうじゃなくて」

2017-05-20 15:52:40
なくて七しのあって四十八しの @RGB4U

@tristarwats 「実のところ……僕は幻聴の原因に心当たりがある、かもしれない」「原因?」構えを解き、その場に腰を下ろしたあるとに、ななしのはおずおずと近づく。「そう……」するとあるとは、目を閉じ、苦い顔をして語り始めた。「スカッと邪神。……僕のカンが正しければ、黒幕はかつてそう呼ばれたものだ」

2017-05-20 15:59:05
なくて七しのあって四十八しの @RGB4U

@tristarwats 「スカッと邪神?」「うん。奴は自分がスカッとする為だけに、六つの国を滅ぼした」「どんな奴なの?」「奴は自分の半身の血と肉と霊を、更に幾万、幾億に分け、化身としてばら撒くんだ……化身は黒く不定形で、靄やスライムめいているが、巧妙に人に化ける」「コワイだ……」

2017-05-20 16:05:41
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