認知症で、別人となったように見える身内でも、異なる記憶を挿入された別バージョンと化しているにすぎないということ

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生命情報保存研究所 @rodan670

親類縁者が認知症に陥ってしまった場合、家族らが感じる最大の絶望は、目の前にいる長らく多くの時間を共有してきたはずの人間が、自分たちに関する記憶の多くを失ってしまい、まるで別人のようになってしまうことで、これまで積み重ねてきた時間と、認知症に陥った人間そのものがあとかたもなく

2017-05-23 10:19:37
生命情報保存研究所 @rodan670

消失してしまったように錯覚したとき発生する。記憶の消滅=「人格および歴史の死」である。これは脳死=人の死ととらえる自我至上主義的な考え方と共通する解釈である。

2017-05-23 10:22:26
生命情報保存研究所 @rodan670

しかし自我の居場所たる脳髄(本当に自我のありかが脳にしかないと仮定した場合)が生物学的に再起不能に陥ってしまう脳死と違って、認知症による記憶障害の場合はまだ救いはある。自我における2大構成要素である記憶は損なわれているものの、もう一つの構成要素である思考回路は生きているからである

2017-05-23 10:28:28
生命情報保存研究所 @rodan670

人間にはまず生まれてから現時点にいたるまでの人生の過程で構築されてきた固有の思考回路が存在している。固有の思考回路とはいつどのような局面であろうとも、与えられた情報や状況に対して、この人間であればまず間違いなくこう返してくるであろうと期待される思考応答のことである。

2017-05-23 10:37:25
生命情報保存研究所 @rodan670

例えば、発展途上国の貧しい子供たちの支援に関心のある人間が、その救済に当たるNPO法人に加盟したとする。この個人はその中で自らの所属する組織やメンバーに傾倒し、熱心に活動を続ける。周囲の人間はこの人間のことを熱心な会員だととらえる。

2017-05-23 10:43:06
生命情報保存研究所 @rodan670

しかし何らかの出来事をきっかけに、この個人はNPOの活動はまったく無意味で、それどころか偽善に過ぎないととらえるようになる。この個人は次第に活動から遠のくようになり、また他の会員と顔を合わせるごとに悪態をつき、お前たちのやっていることは無意味な偽善にすぎないと侮蔑するとする。

2017-05-23 10:45:22
生命情報保存研究所 @rodan670

この時周囲の人間は「あの人は人格が変わってしまった」「もう発展途上国の貧しい子供たちなどどうでもよくなってしまったのだ」ととらえるかもしれない。ただこの段階では、その個人の中において、あくまで問題のNPOに関する考え方が変わっただけかもしれない。

2017-05-23 10:49:08
生命情報保存研究所 @rodan670

もしこの個人に対し、「発展途上国の貧しい子供たちは救われるべきか?」と問うた際に、今この瞬間も、10年後も20年後も「救われるべき」との応答があった場合、それは当該個人にとっての固有の思考回路である。人間には折に触れて変遷していく表層的思想とは別に、その軸にあり、なおかつ

2017-05-23 10:51:01
生命情報保存研究所 @rodan670

めったなことでは変わることなく生涯を通じて固定された思考回路が数え切れなく存在している。この固定された思考回路を束にすると、自我の半分の領域を占め、その人間をその人間として在らしめるためのプログラムとなる。このプログラムに、これまでの記憶が正常に入力されることで

2017-05-23 10:57:49
生命情報保存研究所 @rodan670

人は昨日と連続した同一人格でいることができる。人は認知症や、その他の出来事がきっかけで記憶障害に陥らなくとも、睡眠時、および起床時に、一時的な記憶喪失を体感することがある。

2017-05-23 11:00:15
生命情報保存研究所 @rodan670

夢の中にいる自分は、多くのケースにおいて現実の自分とは異なる立ち位置と記憶とを有している。自分は10年前の自分になっているかもしれないし、自分がよく見るアニメの登場人物となっているかもしれない。その中で自分は自らの立ち位置と記憶とを特に疑うこともなく(逆に疑った瞬間夢は覚める)

2017-05-23 11:13:56
生命情報保存研究所 @rodan670

あくまで「夢の中の自分」として行動していこうとする。しかしながらその「夢の中の自分」であっても、与えられた情報や状況に対する思考応答は、現実世界に生きる自分のそれとほぼ変わりないことを、我々は経験上認知できている。

2017-05-23 11:15:11
生命情報保存研究所 @rodan670

また朝目が覚めた際、日によっては人間は昨日までの記憶を瞬間的に回復できない場合がある。その時その人間の過去は一時的に無となる。この場合人は今ここにものを考えることのできる思考回路は確かにあるのに、その材料となる記憶が存在していないため、このあとどう行動していいかわからず

2017-05-23 11:19:06
生命情報保存研究所 @rodan670

瞬間的なパニック状態に陥ることもある。しかしこれは意識が判然としていない状態で起きる一時的現象に過ぎないため、当然のことながら記憶はやがてリロードされ、ここであらためてその人間は昨日と連続した自分を取り戻し、とるべき行動を起こしていくことができる。

2017-05-23 11:20:50
生命情報保存研究所 @rodan670

この夢の中と起床時の双方のケースに共通して言えることは、たとえ「記憶」は損なわれていても、今までの自分と同じ固有の思考回路を持つ「私」自体はあくまで変わらず存在しているという事実である。

2017-05-23 11:22:41
生命情報保存研究所 @rodan670

ただ、固有の思考回路は保てていても、挿入された記憶が別個のものとなっている場合、「私」は昨日までの私とは異なる挙動を示すようになる。夢の中で、冤罪により指名手配され、逃亡中という偽りの記憶を埋め込まれている状態の「私」は、現実世界よりもワイルドな行動を取るだろう。

2017-05-25 08:00:22
生命情報保存研究所 @rodan670

その状態をもし知人が外観的に眺めればこの人間は人格が変わってしまった、と考えるかもしれない。しかし行動の材料となる記憶が変わっているだけでこの人間の基本的思考軸になんら変化はない。認知症に陥った人間の場合、例えばこれまでの記憶の多くが喪失することで、内在していた幼少期の記憶が

2017-05-25 08:02:43
生命情報保存研究所 @rodan670

心中で卓越し、結果まるで幼児そのものといった退行的挙動を示すことがある。この場合、その親族は長年時を共にした身内のあまりの変貌振りに絶望する。これまでその人間が培ってきたすべてが崩壊し、まるで別の人間になってしまったように解釈してしまう。しかし幼少期の記憶を強固に挿入されただけで

2017-05-25 08:06:36
生命情報保存研究所 @rodan670

その「人間」はあくまでなんら変わることなくその場に存在している。夢を見ているのと同じで、昨日と連続したものとは異なる別個の記憶を挿入された状態の、その人間が取りうるもう一つのバージョンと解釈すればよい。それでも身内からすれば、この人間と自分たちが共に過ごした時間の記憶が

2017-05-25 08:09:24
生命情報保存研究所 @rodan670

当人の中から消えてしまっている(ように見える)事実は大いなる精神的ダメージとなってのしかかることであろう。この状況を回避するために、人は記憶が正常であるうちに、なるべく自らの記憶、思考を文章あるいは映像の形で保存しておいたほうがよい。

2017-05-25 08:16:14
生命情報保存研究所 @rodan670

こうして昨日までと連続した記憶を保てていたころの人格が当人の外に保管されていれば、身内たちはある程度の精神的余裕を持ってもう一つのバージョンをとるようになった身内と向き合うことができるし、あるいは当人が残した当人の内面記録を本人に示すことで

2017-05-25 08:19:38
生命情報保存研究所 @rodan670

記憶のある程度までの回復につながる可能性もある。ただ、無論すべての人間が常日頃から内面記録の確保にいそしんでいるというわけではない。この状態で本人が認知症など記憶障害に陥ってしまった場合は、身内がメールやブログ、メモといった当人のありし記憶を写し取った少しずつの材料をかき集め

2017-05-25 08:23:09
生命情報保存研究所 @rodan670

なるべく正確な当人の内面像を復元していく努力が重要となる。

2017-05-25 08:24:25