#恋人を喪った安田演劇　まとめ

Ryota @Funatoku_ryota

#恋人を喪った安田演劇 １. 暗闇の中で一瞬、紫色の照明が光る。 その瞬間、恋人の姿が照らし出される。 恋人は空を見上げている。 暗転。間。 恋人「一応、」 紫色の照明が次第に恋人を照らしていく。 恋人「一応、逃げようとは思ってたんです。」

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恋人「危ないって言われてたし、危険って……同じか。とにかくそう言われてて、でもこっちに友達とか知り合いとか結構いて、恋人もいて。恋人は、あ、安田くんっていうんですけど、安田くんは、非常事態でも働かなくちゃいけなくて。」 #恋人を喪った安田演劇

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恋人「いや、むしろ非常事態に働かなくちゃっていう仕事で。だから、心配なことがたくさんあって、でも、一応、逃げなきゃって思って外に出たんです。道路は見たこともないくらい渋滞していて、車でぎゅうぎゅうで。人も結構いて。身を寄せあってる人も小走りの人もいて。」 #恋人を喪った安田演劇

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恋人「パニックになって泣き叫んでる人も、なんだかヘラヘラしている人もいて、いろんな人がいて。……あ、私も逃げなきゃだ。そう思ったときに空がピカッて光ったんです。紫色にピカッて。」 #恋人を喪った安田演劇

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恋人「そのときに思ったのは、空が綺麗だなってことと、……安田くん、大丈夫かな、……ってこと。」 シン・ゴジラ会議シーンのBGMと共に、スーツ姿の人々が物凄い勢いで机や椅子を次々と運び込む。その勢いに紛れていつの間にか恋人は舞台から退場している。 #恋人を喪った安田演劇

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#恋人を喪った安田演劇 ２. スーツの人々が、巨災対メンバーが座った状態のキャスター付き椅子を運び込む。安田も椅子に座った状態で運び込まれる。 音楽止む。様々に巨大不明生物について、分析したり、電話で連絡を取りあったりする巨災対メンバー。安田も電話をしている。

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安田「はい、ええ、では至急分析結果を送ってもらえますか。ええ、よろしくお願いします。はい」 電話を切る。疲れた様子の安田。 巨災対１「少し、休まれたらどうですか。分析結果の他省庁への共有はやっておくので」 安田「あー…何かあったら連絡して」 席を立つ安田。 #恋人を喪った安田演劇

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休むにしてもどこに座ればいいかわからず歩き回る安田。安田の携帯がなる（バイブ音）。 安田「（出て）もしもし？」 まだ生きている恋人、携帯を片手に舞台に現れる。以下、安田と恋人は舞台をうろうろと歩き回りながら会話するが、目を合わしたりぶつかったりはしない。 #恋人を喪った安田演劇

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恋人「あ、もしもし、今、大丈夫？」 安田「今は大丈夫」 恋人「あー……、あのさ、……大丈夫かなって」 安田「だから、大丈夫だって」 恋人「うん、いや……、安田くんが大丈夫かなって。疲れたりとか」 安田「まぁ、疲れたりとかは、それはあるけど。そっちは？」 #恋人を喪った安田演劇

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恋人「あ、何人か連絡は取れて、まだわかんない人もいるけど、まだ大丈夫だと思う」 安田「でも危ないからさ。早く避難したりとかしろよ。全然どうなるか見えてなかったりするから」 恋人「そうなの？」 安田「そう」 恋人「え……大丈夫？」 安田「大丈夫だから」 #恋人を喪った安田演劇

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恋人「ならいいけど、無理しないでね」 安田「しないよ」 恋人「危なかったりしたらさ、」 安田「危なかったりもするから、早く決めろよ、避難先とか、どうするとか。俺はもう基本帰れないから」 恋人「帰れないの？」 安田「当分は」 恋人「あー、当分ね、当分」 #恋人を喪った安田演劇

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安田「じゃあもう、仕事戻るから。切るから。何かあったらすぐ連絡しろよ、メールとかLINEとかじゃなくて、電話かけちゃっていいから」 恋人「うん」 安田「じゃあ、切るね。おやすみ」 恋人「あ、」 安田「何？」 恋人「ううん、おやすみー」 安田「おやすみ」 #恋人を喪った安田演劇

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安田、電話を切り、自分の席に戻る。 恋人、まだ舞台を歩き回る。 恋人「これが、私と安田くんの最後の会話です。正確にはこのあと、私が電話をかけて、安田くんは出られなくて、安田くんが折り返してきたときにはもう、私は出られる状態じゃなくて」 #恋人を喪った安田演劇

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恋人「だから、安田くんとの最後の会話は『おやすみ』でした。おやすみ、おやすみ、おやすみ……」 唱えながら、恋人は会議机に横たわる。 恋人「おやすみなさい」 #恋人を喪った安田演劇

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#恋人を喪った安田演劇 ３.（証言者たち） 安田以外の巨災対のメンバーは皆、証言者に変わっている。役者たちはそれぞれ、自分が『シン・ゴジラ』で描かれる東京に暮らしていたら、どのように行動し、どのような末路をたどるか（生き延びてもかまわない）を想像して語る。

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発話は順番でなくても構わず、誰かが話している途中で話はじめてもかまわない。声のトーンや大小も問わないが、一度話をはじめたら中断せずに最後まで証言する。その間、安田はデスクワークを続け、恋人は眠り続ける。 #恋人を喪った安田演劇

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最後の証言が終わる。 恋人「安田くん、大丈夫かな」 一瞬紫の光が舞台を照らしたのち暗転。安田の声が聞こえる。 安田「もしもし、電話出られなくてごめん、もしもし、今どこですか？　もしもし、今どこですか、もしもし、もしもし、もしもし……」 #恋人を喪った安田演劇

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#恋人を喪った安田演劇 ４. 舞台が明るくなると、恋人が横たわっていた会議机は棺となり、彼女が生前大切にしていたものや、花が供えられている。しかし、恋人はそこに横たわらず、参列者に挨拶する遺族の横に立っている。焼香の列の最後尾に、安田が無表情で並んでいる。

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恋人「そこからのことは皆さんもよくご存じだと思います。安田くんたちの努力によって、東京は、そして日本はなんとか救われました。それから、様々な調査や手続きがあって、誰が生きていて、誰が死んでいて、誰が死んだとは必ずしも言い切れないのかがわかってきて、」 #恋人を喪った安田演劇

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恋人「でも、私は死んだって言い切れてしまう側だったので」 安田の焼香の番になる。空の棺に一瞬うろたえるが、動揺を抑え焼香を終える安田。 安田「（遺族に）この度は……」 遺族１「安田さん？」 安田「……ええ」 遺族１「ああ、やっぱり」 #恋人を喪った安田演劇

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遺族１｢あの子から、写真を見せてもらってたもので。本当に、お世話になったそうで｣ 安田「いえ、こちらこそ、」 遺族１「あの子には、いつか会わせるからって言われてたんですけど、なかなか機会がなくて。ええ、お会いできて、よかったです」 #恋人を喪った安田演劇

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安田「……」 遺族１「本当に、お会いできて……（涙ぐむ）」 恋人、遺族１の肩に触れる。 安田「私も、お会いできて、よかったです」 遺族１「はい……」 安田「この度は誠にご愁傷さまでした。お悔やみ申し上げます」 遺族１「はい……」 #恋人を喪った安田演劇

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安田、いたたまれなくなり、遺族から離れる。 遺族１「お陰をもちまして葬儀・告別式も滞りなく相すみ、 これより出棺の運びとなりました。娘は生前、」 恋人「（遺族１の口の動きにあわせて）私は生前、実家を出て東京で一人暮らしを始めました」 #恋人を喪った安田演劇

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恋人「最初の頃は東京ってすごく複雑でものすごく広く感じて、心細くて、不安で、でも、友達もできて、それから恋人もできて、いつの間にか不安な私はいなくなってました。いつの間にか、私は大丈夫になってた。安田くんがいてくれたから、私、大丈夫だったよ」 #恋人を喪った安田演劇

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恋人「私は」 遺族１「本日はお見送りありがとうございました」 棺が運び出される。呆然とする安田。次第に涙が込み上げてきて、泣き崩れる。その間に人々は去り、舞台には安田と恋人が残される。 恋人、携帯を取り出す。安田に電話をかける。 #恋人を喪った安田演劇