金剛のものがたり。十一話『最終決戦！』

はるか @Kurosu_Haruka

「ちょっと！　七瀬提督！」 「あ、うん。おはよう」 　寝坊していた私は秘書艦の金切り声で起こされた。 「め、メガネメガネ……」 「もう、しっかりしなさいよ。私がいないとなんにもできないんだから！」 「あ、あはは、ごめんね、私の大切な──」 ──叢雲 #金剛のものがたり

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"零号計画第一実験"レポート。 　我々の近代兵器が通用しない未知の怪物。深海棲艦。すべてクラス分けされた連中は、みな、女性系を取っている。彼女たちはどこからきてどこへ行くのか。それはどうでもいい。速やかに対抗可能な兵器を造らなければいけない。 #金剛のものがたり

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幾度の兵器開発はすべて失敗に終わる。人間の兵器では深海棲艦にはほぼ通用しないのだ。ならば敵を味方につければいい。数々の失敗を経て、ようやく捕らえたヲ級。彼女を解剖し、実験の果てに培養に成功した深海細胞。それを育てて造り出した人形のなにか。 #金剛のものがたり

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しかし、それは自我と魂を持たない空っぽの怪物に成り果て、人を襲うだけの欠陥品だった。幾多の失敗を超え、陰陽道の技術も取り入れ開発されたのが人間に忠実だった軍艦の魂を空っぽの器に入れて心にするというものだった。この実験は成功し、最初の零号艦娘── #金剛のものがたり

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「『叢雲』が生まれた？　ですって？」 「わ、叢雲、なに朗読してるの！？」 「七瀬提督、これどういう意味よ？」 「さ、さあ？」 「ふーん。まあいいわ」 　私は胸を撫でおろし、微笑む。 　海軍の施設。隔離された部屋の中で過ごす彼女との生活。 #金剛のものがたり

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私は経過観察のために視察に来るたび、彼女に愛着を覚え、いつしか叢雲を大切な娘のように接するようになっていた。 ────── 「七瀬提督。叢雲、いい感じでしょっ！」 「うん、春野博士！　すごくいい。可愛い！」 　春野は深海細胞の急速な活性化を研究している。 #金剛のものがたり

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細胞学や遺伝子工学の権威だ。私と春野は中学時代からの旧友で進む道が違えど交友は絶えず、同じ軍の仕事につくようになり、こうして会う機会も増えた。なにより艦娘の研究視察のために、あの施設へ通うようになってからは親交は更に深まった。 「叢雲、実戦投入いけるかも！」 #金剛のものがたり

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「ま、まだ早いよ」 「私たちの叢雲なら、もう実戦もこなせるよ！」 ────── 　春野は次第に深海細胞の活性化の研究に没頭していった。ライバルの天ノ川製薬の元会長、天ノ川提督が深海細胞の抑制や非活性化についての研究論文を発表したのも要因の一つかもしれない。 #金剛のものがたり

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「できた〜！　これで艦娘性能の五割向上を見込めるよ！」 「春野博士、それは？」 「簡易深海化促進秘薬『紅牡丹試』！」 「そ、促進？」 「そう、深海細胞を活性化、艦娘の性能を底上げができる秘薬！」 　海軍施設にある研究室。そこに呼ばだされた私に春野は微笑んだ。 #金剛のものがたり

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────── 「こうなったら『紅牡丹試』を叢雲に使おう」 「で、でも春野博士……」 「このままじゃ叢雲は廃棄だよ。新しい零号艦娘の開発が予定されてるんだ」 「確か……零号計画『金剛』」 「なにが金剛だよ。叢雲が最高の艦娘なのに！」 #金剛のものがたり

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その時、私はパンドラの箱の鍵を開けてしまったのかもしれない。どうして春野を止めなかったのだろう。『紅牡丹試』を使用して軍に私や春野、そして可愛い愛娘認めさせようとなど考えたのだろう。 ────── 「叢雲！　私がわからないの！？」 「がああああああ！！」 #金剛のものがたり

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ベッドに拘束された叢雲は鬼の形相で叫んでいる。 「し、深海細胞の活性化が止まらない！」 　よくわからないモニターを見ながら春野が叫ぶ。 「各所で電力サージが計測されている。細胞間や神経系に走る電気信号が増幅……異常な熱量に。これは進化──」 「春野博士！」 #金剛のものがたり

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「はっ！？」 「そんなことより叢雲が！！」 　研究員の助手。彼女の腕と叢雲の腕が同化していた。響く悲鳴。 「なんとかして、春野博士ぇ……！」 「……進化。他生物のDNA情報を欲して……だめ！　この子は凍結する！」 「馬鹿言わないでよ、春野博士……！」 #金剛のものがたり

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「仕方ないよ、このままじゃ人類が滅ぶ……！」 ────── そして叢雲計画は凍結され、ロストナンバー扱い。計画自体がなかったことになった。最初の艦娘は金剛となり、春野は更迭された。それでも彼女は深海細胞の活性化の研究をやめなかった。 #金剛のものがたり

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叢雲の犠牲を無駄にしないために。そう春野は言っていた。 　そして完成したのが、この── 「全艦娘に告げろぉ！　『紅牡丹改』投与！！」 　──紅牡丹シリーズである。 #金剛のものがたり

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────── 「以上が、私の調べ上げた『七瀬提督』の経歴と過去に起こした不祥事です、金剛お姉様」 「さんきゅー、メガネ」 　横須賀鎮守府全艦隊への待機命令。現在、深海艦隊と交戦中の『七瀬艦隊』。その総指揮に当たっている七瀬という女提督。 #金剛のものがたり

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「わたしの前に造られた艦娘ガ……」 　叢雲。後期型なら何隻も見たことがある。しかし、零号として存在していたなんて。それも試作型よりも以前に。 「そんな情報、よく手に入れられたわネ」 「かなり際どい手段を取りました」 　霧島は眼鏡のツルを掴み、誇らしく笑う。 #金剛のものがたり

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「いくつもの海外ユーザーの端末を乗っ取り、それをハシゴにあらゆる国の様々なサーバーを経由、最終的にニカラグアの酒屋さんのパソコンから日本軍のサーバーにアクセスし──」 「はんざ──」 「黙ってればわかりません！　私たちは艦娘！　人間の法に従う義務はない！」 #金剛のものがたり

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「お、おうけい！　さんきゅー霧島！」 「それで、『紅牡丹』と叢雲の製作者、春野博士のその後はどうなったのかしら？」 「それがですね、加賀さん」 　霧島は言い淀む。 「忽然と消息を絶っているのです」 「行方不明ナノ？」 「いえ、軍にはなんの記録も」 #金剛のものがたり

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「それは変ネ。なにも？　突然消えたら、それは大事よネ。春野博士の立場から機密もメニーもってるハズ」 「たしかに！　変ですね、姉様！　調査記録もないのは不自然です！」 「それが本当に。何事もないかのように。ただ二ヶ月前からどこの軍施設にも顔を見せていません」 #金剛のものがたり

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「一連の騒動。なんだか、きな臭いワ」 「七瀬艦隊には全艦紅牡丹改が配備されているそうですね」 「ん？　霧島、ナニヨ、そのノーパソ」 「ま、まさかリアルタイムで軍の機密にアクセスしているのかしら？」 「その通りです、加賀さん！」 「あぶないことスンナ……！」 #金剛のものがたり

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「……え？」 「どうしたノ？　霧島」 「春野博士の最後の実験記録……まさか、そんな」 「な、なにヨ？」 　モニターを覗き込もうとした瞬間だった、那珂ちゃんの叫びが耳に届いたのは。 「どうしたネ！」 「島風さんから入電！！　大変なの！」 #金剛のものがたり

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「ほわっつ！？」 「ナナセカンタイホボカイメツタダチニキュウエンモトム。だよ！」 「七瀬艦隊ほぼ壊滅ゥ〜？」 「ただちに救援求むですって！？　比叡お姉様！」 「榛名、もう二隻だけでも、気合！　入れて！　出撃するよ！」 「まちなサイ」 #金剛のものがたり

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「止めても無駄です！　お姉様！」 「文面から見て島風と川内も危機に陥ってる可能性が高いです！　見捨てるなんて榛名は大丈夫じゃないです！」 　わたしは二人を開いた左手で制す。 「零号艦隊、出撃ネ」 「お姉様！」 「そうこなくっちゃ！」 「金剛姉妹出撃ですね！」 #金剛のものがたり

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──決着をつけるヨ、『赤い深海』。 「赤城ッ！」 　暁の水平線に、わたしたちは勝利を誓った。 ────── 「ぱんぱかぱーん！」 　三隻の深海駆逐艦を沈め、私は高雄へウインクを送る。 「最高ね、この『紅牡丹改』！」 「ま、慢心しちゃだめよ、愛宕」 #金剛のものがたり