- fbd_forest
- 718
- 1
- 0
- 0
「#5「四羽の若鳥」フォビドゥンフォレスト5話「選ばれし者、選ぶべき者」」をトゥギャりました。 togetter.com/li/1114946
2017-05-29 01:22:53(前回のあらすじ:日曜日。所属するアイドル事務所・紅エンターテイメントを訪れた瑠梨。次の土曜のラジオの司会の仕事を「本業」である巫女の仕事の為に休むことになっていたが、その代役である貴子から学校や巫女の仕事を減らせないのかと尋ねられた。アイドル業に集中する気はないのかというのだ)
2017-06-01 23:40:37留美を黙らせた二人は紅茶を飲み直してから話を再開する。 「北里さん……貴女の現状ははっきり言って勿体無いと思うのよ」 「勿体無い?」 貴子は瑠梨や風科、鳥姫神社や僚勇会の裏事情については知らないが、瑠梨が事務所に入った事情や大まかな契約内容については知っている。 1
2017-06-01 23:44:42瑠梨が招かれたのは、親の間接的な知り合いである紅社長を助ける為であった。事務所を開設したものの思うようにアイドル候補が集まらなかった状態では、巫女として舞や祝詞を学んでいる瑠梨は(無論ポップスとはジャンルが大違いではあるがそれでも)即戦力だった。 2
2017-06-01 23:49:13実際、瑠梨がいなければ事務所の経営は未だに採算ラインには乗っていなかっただろう。そんな「本業の合間に」「手伝ってくれている」事務所の看板アイドルが瑠梨なのだ。貴子はそんな彼女に物申すのは筋違いであると思っていたが、それでも言わずにはいられなかった。 3
2017-06-01 23:55:16「貴女が本気を…いえ全力をこっちに注ぎ込めば届くのよ。もっと上にね」 「そう…かな?」 「そうよ」 貴子ははっきりと断言する。 「何に貴女は上を目指そうとしていない」 非難がましくも見える表現だが、貴子はただ淡々と事実を指摘する口調で告げた。その内心はともかくとして。 4
2017-06-01 23:59:41瑠梨は姿勢を正す。まっすぐ見つめ返す。 「貴子ちゃんみたいにアイドル一本でやっている人から見たら、確かに私はちゃんとしてない…中途半端に見えるのかも知れないよね。けど、私は手の届く範囲の仕事をやれるだけやっていこうと思っているよ。受けた仕事にだけは全力を尽くしているよ?」 5
2017-06-02 00:05:43「確かにその通りね。今週のラジオは例外として、確かに貴女はちゃんとやっているわ。でもそれが勿体無いのよ。アイドルになったからには上を目指すべきでしょう」 「そうなの…かな?」 「そうよ」 きっぱりと頷く。 「応援してくれている人のことを考えてみなさい」 6
2017-06-02 00:07:47瑠梨達4人にも事務所公認会員でまだ数十名ではあるが、ファンはいる。 「自分の推しが上に行ったほうが嬉しい筈でしょう?」 「それは…そうかも知れないけど」 アイドル業に限らず、競争事に今一つ感心のない瑠梨には実感が沸かない感覚だが、好きな人が褒められると嬉しいのは分かる。 7
2017-06-02 00:18:11「貴女より遥かに実力の劣る…いえ、ウチで一番実力の無い私に言われたくは無いでしょうけどね…」 貴子は自嘲する。根拠の無い自虐ではない。新人アイドルランキングの順位では瑠梨には大きく、ほかの2人には僅差ながら負けており、公認ファンクラブ会員内の個人人気投票も似た状況だった。 8
2017-06-02 00:22:49「そんなことは無いよ!貴子ちゃんのアドバイスにはいつも助けられて…」 「でも、それだけよ」 「そんなことは…」 無い、と言い切ろうとして言葉が止まる。4人でダンスや歌を合わせる際に貴子が僅かに悪い意味でずれるのは事実だ。残念ながら分析力が優秀でも実践もそうとは限らないのだ。 9
2017-06-02 00:34:22瑠梨は言い直そうとして言葉に詰まる。下手な慰めや励ましはかえって失礼になるし、そもそも瑠梨は嘘がつけない。だから本心だけを告げた。 「確かに…色々大変かもしれないけど、貴子ちゃんは諦めずに最後までやれる人でしょ…!?前のラジオの代役だって私よりしっかりしてたじゃない…!」 10
2017-06-02 00:49:15「ラジオね…あの仕事だって元々は貴女一人に来たものじゃない?家の仕事で抜けることも多いだろうからって今の形にして貰ったんでしょう。実際、貴女のほうが評判がいいわ」 「でも、スポンサーだって私の周りの人が多いし…」 「局が募集したところに貴女の地元の人が集まっただけでしょう?」11
2017-06-04 23:53:01「誰かがそんなこと言ったの?」 「直接言われてはないけど…」 「どっちにしても放っておきなさい。前後関係も分からない馬鹿の言葉なんて」 「そうよ!」 留美が腰を浮かせて腕を振り上げる。二人の視線が向くと、留美は両手で口を塞いで座り直す。二人は話を再開する。 12
2017-06-04 23:58:48貴子は話をラジオに戻す。 「勿論、私なりには頑張ったけどメールやFAXの数も普段より少なかったし、貴女の方が良いって意見も多かったみたいね」 前者はともかく後者は局の人間が言った訳ではないが、雰囲気やネットの反応で分かることだ。 「そんな…」 13
2017-06-05 00:07:50瑠梨にとっては複雑だ。自分が認められて嬉しい気持ちも有るが、だからと言って貴子の気持ちを考えると素直に喜ぶ気にもなれない。 「ねぇ。北里さん。貴女、私の人を見る目は信用できる?」 「…うん」 瑠梨は神妙に頷く。 14
2017-06-05 00:16:24「ありがとう。その私が断言するわ。貴女は必ずアイドルの頂点に立てるわ。私では行けない場所にね」 貴子は歯痒げな表情を浮かべる。 「本音を言えばね。貴女には家の仕事を止めてこっちに全力を注いで欲しいくらい」 「それは…」 貴子は開いた片手を出して瑠梨の言葉を押し留める。 15
2017-06-05 00:19:14「分かってるわ。私の身勝手な我儘。それでもね、私より凄い人が全力で羽ばたいてくれないのは…辛いのよ」 それきり貴子は押し黙り、瑠梨も返す言葉が見つからない。実際問題として、瑠梨は巫女をやめる訳にはいかない。風科の守りに必要な鳥姫の巫女は現在代わりがいないのだ。 16
2017-06-05 00:23:29巫女は血筋で伝承されるが、既に傍系は絶えている。瑠梨の母・杏子は長女の瑠梨を産んだ時の負担が大きく、妹の誕生は期待できない。瑠梨が娘を産まなければ完全に血が絶えてしまう。約千年と言われる鳥姫神社の歴史でも数えるほどしか無かった事態である。 17
2017-06-05 00:29:02勿論、いずれは最短数年間は巫女が不在となる。巫女は処女ないし未婚が条件たからだ。不妊に悩まされたり息子しか産まれなければ不在は長引く。この不在に備えた体制作りは瑠梨が産まれる前から進められてはいたが、その準備は一度崩壊しており、今は10年後までを目処に再構築が進んでいる。 18
2017-06-05 00:34:26いずれにせよ、瑠梨がアイドル一本で行けるのは産後の話になる。子育てのサポート体制は充実しているので不可能ではない。問題は一般にアイドルも未婚に限るということだ。男性はともかく女性は芸能界に留まっても歌手やタレントなど別の存在になるのが普通だ。不公平な様だがそれが現実だ。 19
2017-06-05 00:40:00…だがそう言った事情とは別に、そもそも瑠梨には家の仕事をやめるつもりは無かった。学校の仕事もだ。楽しいというのは違うがやりがいは感じているし、辛いと思ったことはあるが、やめたいと思ったこともない。物心ついた時からそうしてきてそれが普通だからだ。ではアイドルの仕事はどうか? 20
2017-06-05 00:53:28