- Jindai_Komaki_
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──次のゲーム。まだあの殺し合いが続くのだろうか。ボクは微笑みながら頷く。二階の階段の先は何故か白い部屋になっており、先に降りた生存者たちがそれぞれソファーに腰掛けたり床に座り込んだりと待機しているようだ。 その中に星川きらりの姿もある。 #へるげえむアリスロンド
2017-05-12 14:24:36彼女は薄ら笑いを浮かべると、生きてたんだと憎々しい態度で呟いた。 「さて次のゲームの説明をする前に。三階からの生存者は百合鴎ゆりかさんで最後──」 「いいえ」 三階へと続く階段の折り返し地点。踊り場に金色の髪を持つ少女が現れる。 #へるげえむアリスロンド
2017-05-12 14:27:53「失礼しました、灰咲ホルンさん。あなたも三階の試練を越えてきましたか」 白い人はフードから覗く口角を緩ませ微笑む。 「もう一人、生き残りがいます」 ホルンの影からひょっこり桜が照れくさそうに顔を出す。 「あ、あはは。生き残っちゃったみたい」 #へるげえむアリスロンド
2017-05-12 14:31:42【へるげえむアリス・ロンド『楽しい楽しい!からだアツメげえむ!』】 「……そんなバカな」 白い人は動揺したように声を震わせた。 「枝垂桜さん。あなたのキルカウンターは『1』のはず」 「うん。その通りです」 「どうやってシステムをくぐり抜けました!」 #へるげえむアリスロンド
2017-05-12 14:37:10「あの時──」 ──── わたしを抱きかかえて涙をこぼす、ゆりか。 「ごほっ……一回助けただけなのに。泣いてくれるなんて優しいね」 「……ボクにとって助けられたのは……初めてだから……」 「そっか。それならもう一回助けさせて」 声が震える。 #へるげえむアリスロンド
2017-05-12 14:41:52肋骨が断ち切られ肺も傷ついている。力に目覚めた、わたしたち。体も丈夫になり、苦しくても耐えられる。肺から溢れる血。本来なら喋っているのも辛いのだろう。自分のことだからわかる。 「ボクにキミは……殺せそうにない……」 「このままじゃ二人とも……」 #へるげえむアリスロンド
2017-05-12 14:44:36「かまうもんか……ボクはキミとなら死んでもいい……」 「百合鴎さ……ごほっ!」 肺から溢れる血が喉を刺激する。意識も朦朧としてきた。 多分、わたし死んじゃうのかな。バスケの夢も諦めて、花子との仲直りも叶わない。中途半端な人生だった。 #へるげえむアリスロンド
2017-05-12 14:46:54ここがわたしの最期の場所。 覚悟を決めた、そんなわたしをゆりかは強く抱きしめる。そして── 「誰だ……キミ!!」 朦朧とする意識の中。ゆりかの視線を追うと、教室の入り口に立っている美しい少女の姿が目に入った。 「やっと見つけました」 #へるげえむアリスロンド
2017-05-12 14:49:28ホルン……先輩? わたしは声にならない声で彼女の名を呼ぶ。 「近づくな……吹き飛ばすぞ!」 ゆりかは警戒した声で周囲に花粉を放つ。 「ご心配なく。私は味方です」 対象的にホルンは堂々とした振る舞いで、ゆっくりとこちらに近づいてくる。 #へるげえむアリスロンド
2017-05-12 14:52:00「お姉様……なんてお姿に」 ホルンは涙を浮かべ、わたしへ手を差し伸べる。 「……キミは」 「申し遅れました」 ホルンは手にしていたフルートを回転させ、それを天井へと向ける。 「桜お姉様の忠実なしもべ。灰咲ホルン、ただいま参上」 #へるげえむアリスロンド
2017-05-12 14:54:10「ほ……本当に味方なのか……?」 ゆりかの疑惑でいっぱいといった視線に、わたしは頷いて応える。ホルンは限りなく変態だが、わたしにはとても優しくしてくれる。 「時間がありません。二階へ向かいますよ」 「でも……ボクたちは殺害数が」 「策があります」 #へるげえむアリスロンド
2017-05-12 14:58:20そう言ってホルンが指を鳴らすと、突然近くに白目を剥いて仰向けに倒れている男が現れた。まるでマジックショーである。ちなみにわたしは肺から溢れる血と咳が止まらず、会話に参加できないのだ。実に苦しい。 「この男は、まだ生きています」 「こ……こいつは?」 #へるげえむアリスロンド
2017-05-12 15:01:48「話は後です。あなたはこの男を殺めなさい」 「あ……ああ」 「お姉様は私がなんとかしきます」 ──プレリュード! そう叫び、ホルンはフルート唇を当てる。 ──── 「え……ここは。ごほっ!」 喉から溢れる血を咳とともに吐き出し、わたしは驚愕する。 #へるげえむアリスロンド
2017-05-12 15:04:39驚いたのは咳と血のせいじゃない。突然周囲が見たこともないゴシック様式のお洒落だが薄暗い部屋に変わったからだ。 ──教室にいたはずなのに。 「お姉様。わたしの『伝導美の部屋』へ、ようこそ」 「ごほっ……」 「ご無理はなさらないでください」 #へるげえむアリスロンド
2017-05-12 15:06:56わたしは頷き、周囲を見回す。壁掛けのろうそく。その頼りない明かりに照らされ、周りには椅子に拘束された男女が何人もいることに気がついた。 「ごほっ!?」 「驚かせて申し訳ありません、お姉様」 わたしは首を振り応える。 「この者たちは『ストック』です」 #へるげえむアリスロンド
2017-05-12 15:09:38『ストック』 どういう意味か、すぐに把握した。"何かの時に"いつでも殺せるように捕えてあるのだろう。 ゆりかに差し出した男のように。 「この部屋は時間が流れません。焦る必要はありませんが──」 ホルンは近くにいた女の髪を、椅子ごと掴み上げる。 #へるげえむアリスロンド
2017-05-12 15:13:50「残り二人。殺していただきます、お姉様」 え? わたしが二人を? 「お姉様?」 わたしは必死に首を振る。もう二度と人は手にかけたくない。絶対に絶対に。 「困りましたね。二人を殺さなければ、お姉様は…………はっ!?」 #へるげえむアリスロンド
2017-05-12 15:16:24ホルンは突然美しい顔を歪め、左手で額を抑える。 「ああっ! わたくしとしたことが! お姉様のお優しい心情を察することもせず、無理に殺生をすすめるなどと! お姉様はこのような蒙昧どもにすら情けをかける美しき魂の持ち主! わたくしは恥じます!」 #へるげえむアリスロンド
2017-05-12 15:18:52女の悲鳴。なにを思ったのかホルンは掴み上げていた女を壁に投げつけた。水平に飛ぶほどの激しい勢いで。彼女の座っていた椅子が砕け散る。 「お姉様に恩赦をいただき、優しくされるとは。なんとうらやましいうらやましいうらやましいうらやましいうらやましい」 #へるげえむアリスロンド
2017-05-12 15:22:33「公正明瞭綱紀粛正天罰覿面!」 微笑みが消えたホルンがフルートに唇を当てる。 これはまずい。わたしが制止の声をあげようとしたが──よく考えたら血泡が吹き出し、声を出してる余裕なんてなかった。 「響かせましょう! ラプソディ!」 #へるげえむアリスロンド
2017-05-12 15:25:42優しい音色。心が癒やされるような。素敵なきょ── 思わず聞き入りかけた瞬間、女の頭が吹き飛んだ。高所から落ちたスイカのように。 「さあ、お姉様。ご安心ください。闇は浄化されました」 なにを言ってるんだ、この人は。 #へるげえむアリスロンド
2017-05-12 15:28:12そもそもホルンという名前なのに、どうしてフルートを使ってるのだろう。名は体を表してホルンを吹けばいいのに。 「お姉様が命を大切になさるというのなら、次のプランに賭けてみましょう」 「プ……ラン……? ごほっ……」 「わたくしにお任せを。お姉様」 #へるげえむアリスロンド
2017-05-12 15:30:27──── 「あの時──」 「ええ」 三階へ続く階段の踊り場に立つわたしを、白いローブの女は食い入るように見上げている。わたしの話に興味があるのだろう。 「よくわかんないうちに、ここにいました……っ!」 「あ、あらっ」 #へるげえむアリスロンド
2017-05-12 15:37:10多分、わたしはホルンの作った部屋に匿われ、そして彼女が二階へ降りると同時に解放された。解放された理由は、二階に降りると全ての怪我が治ったからだ。わたしの胸の傷も肩の傷も完治している。服は裂けて、血でべったり汚れたままだが。 #へるげえむアリスロンド
2017-05-12 15:38:55とにかくホルンの能力は隠しておくに限る。今後、あの力は絶対に役に立つはずだ。 「灰咲ホルンさんと対峙した人間はすべて忽然と消息を断っています」 「……えっ」 フードから覗く彼女の口は不敵に微笑んでいる。 「異世界へ送る力。そして引き戻す力」 #へるげえむアリスロンド
2017-05-12 15:42:39