亜里沙のことが大好きな雪穂　短編（７）「自由と剣」

亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

人、人、人。 新年を迎えて人でいっぱいの神田明神。亜里沙と二人で、長い長い列を並んで賽銭箱の前までたどり着く。賽銭の音は、どれが自分が投げたものなのかわからないくらい、絶え間なく聞こえる。 「今年も雪穂といっぱい愛し合えますように！」 「声に出さなくていいからね！？」

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隣でいきなりものすごく恥ずかしいことを叫ぶ亜里沙に、全力でツッコミを入れる。 「っていうかもう慣れてるでしょ亜里沙も！　わざとだよね！？」 「雪穂が恥ずかしがってくれると思って」 「知ってる！　恥ずかしいよ！」 「やったね」 「やったねじゃない」

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今年も亜里沙は絶好調のスタートだ。まあ、ラブライブの東京代表に決まったばかりだから、もちろんお互い気分はいいに決まっている。本当に、今年も亜里沙と一緒に楽しく幸せにやっていきたい。スクールアイドルと、それと、その、愛し合う……ことも。

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「亜里沙、今年も頑張ろうね」 「うん！　雪穂が喜ぶこともっと覚えてしっかり攻めるよ！」 「そっちじゃなくてね！？　……いや、そっちも……嬉しいけど、うん、すごく」 「こういうところ素直な雪穂が大好き」 「……わ、私だって、亜里沙にもっと喜んでもらいたいもん」 「んー楽しみっ」

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「あ、真姫さんだ」 「ほんとだ！　わあ……すっごい、綺麗」 参拝を済ませて帰る途中、階段の下によく知った顔を見つけた。 着物を着て、髪を上げて首を出している真姫さんは、いつもどおりものすごく美人で、いつも以上に綺麗に見えた。

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まだ声をかけるには遠い距離だったけど、周囲とは色々とクオリティが違ってて、とてもよく目立った。亜里沙とはまた少し違う意味で。 寄っていこうと思っていたところで、凛ちゃんが向かいにいることに気づいた。というか、さっき来たという感じみたいだった。

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「真姫ちゃん！　やっぱり真姫ちゃんはすぐ見つけられるにゃー」 「どういう意味よ……」 「んーだって、きらきらって輝いてるから」 「……なに、それ。別にラメなんてしてないわよ」 「違うよー、真姫ちゃんはとっても綺麗できらきらしてるの」 「……意味、わかんない」

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ある程度近づいたところで、会話も聞こえてきた。暗くて表情はよく見えないけど、なんとなく真姫さんがどんな顔をしているのか想像はできた。 「……今は、邪魔みたいかな」 「そうだね」 たぶん、すぐに花陽さんも合流するだろう。そのときにタイミングを見て声をかけよう。

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お姉ちゃん、海未ちゃん、ことりちゃんの、三人のユニット。一番最初のμ’ｓだ。ありそうで実はμ’ｓ以降は一度もなかったこのユニットでの曲の発表があって、スクールアイドル界隈は大いに盛り上がっていた。ラブライブの大会とはまったく無関係に。やっぱりμ’ｓは強い。

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「懐かしい感じだね。可愛いなあ」 「うん……私も、初めてμ’ｓを見たときのこと、思い出した。あの時からもう輝いてた」 「亜里沙は、私よりも前からのファンだもんね」 「うん！　これも、この三人の歌だなって感じがする」 「原点回帰って感じだね」 とても前向きで、未来を見つめる歌。

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お姉ちゃんたち三人にとっては、いつ最後の歌になってもおかしくない、という時期にそろそろ差し掛かってきている。このタイミングでの三人組ということもあって、これが最後なのではないかという噂も流れていた。 そもそも今はもう受験の目の前だ。今さらだけど。

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「さあ。特に聞いてないけど、卒業ぎりぎりまでやるでしょ。私も最後のつもりはないし」 真姫さんはあっさりそう言った。 「みんながやりたいって言う限り私も作り続けるつもりよ」 「すごいですね……」 考えてみれば、真姫さんの作った曲の数は、今年になってからのほうが圧倒的に多い。

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「そりゃ、大変よ。でもこの組み合わせならこんな曲がいいかな、ってどんどん新鮮なイメージが湧いてくるからね、楽しいわ」 「確かにユニットごとに曲ぜんぜん違いますよね。μ'sとも違うし」 「私たちに作ってくれた曲もμ'sとは違いましたし」 「それぞれ、らしさっていうのがあるしね」

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「真姫さんから見て、私たちらしさってどんなところですか？」 「……私から見ても、穂乃果から見ても、ファンから見ても、同じだと思うわよ。これほど個性が強いユニットはそうそうないと思うんだけど」 「……いい意味ですよね？」 「んー……いいも悪いもないんじゃない？」

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真姫さんは、結局あなたたちが一番よくわかってるでしょうに、と呆れたように言った。 「完全に二人の世界を作ってる。極端に言えば、観客も見ていない。それでいて、見ていて惹きつけられるものがあって、なんというか――まあ、二人の邪魔をせず見守ってあげようって気持ちになる」

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「いやあ」 「嬉しいです！」 「――うん。あなたたちは、一年間こうやってきて、独自のポジションを得た。それでこんなに楽しそうにやってる。だから、これからも、そうやっていけばいいのよ。迷わずにね」 真姫さんの口調は、なぜか、どこかシリアスだった。

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「きたよ！　雪穂ちゃん、亜里沙ちゃん！」 「きた？」 「なんですか？」 今日はテンション高いほうの花陽さんだ。とりあえず悪い知らせじゃないことだけは確かなわけで、首を傾げながらも期待は高まってくる。 花陽さんは、拳を握りしめて言った。 「テレビ取材！」

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身体がざわつく私。すぐに元気な反応を見せたのは、やっぱり亜里沙だった。 「テレビ！　私たちが出ちゃうんですか？」 「もちろん！　二人が主役だよ」 「すごいね雪穂！　……あ、すっごい緊張してる」 「だって、テレビだよ……緊張するよ」 「予選だって放送されたんだし、大丈夫じゃない？」

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「それとこれとは……取材って、どんな内容なんですか？」 「全国大会前の特集番組用で、インタビューと練習風景の撮影。大丈夫、いつもどおりの二人でいいよ」 「練習風景ってことは、学校で撮るん……ですよね」 「もちろん。雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんは、学校の代表だよ？」 「う……うう」

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「雑誌のときと同じ感じでいいんだよきっと」 亜里沙が勇気づけてくれる。とはいえ、喋っているのがそのまま放送されてしまうわけ、 「まあ、あまりにいつもどおりだと、テレビもどこまで放送していいのか困っちゃうかもしれないけど」 花陽さんは苦笑い。……はい。気をつけようね亜里沙。

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取材の日。練習風景の撮影は、本当にいつもどおりでよくて、特にこんな場面がほしいといった指示もなかった。もともと練習風景の放送はわずかで、とりあえず練習してるよということがわかる程度でいいらしい。といっても、やっぱり、放送して恥ずかしくないか不安で緊張はした。

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「スクールアイドルを始めたきっかけは？」 「学校の魅力は？」 「全国大会に向けての意気込みを聞かせて？」 やっぱり、メインはインタビューのようだ。 さすがに変なこと言ってそのまま全国に放送されるとまずいので、私としてはそれなりに無難なコメントを考えて答えてみた。のだが――

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『お二人の見どころを教えて！』 「私たちの気持ちをストレートに込めた歌です。スクールアイドルへの思いと魅力を精一杯に表現します！」 「雪穂の脚です！！」 「ちょ！？」 「大会でもぜひそこに注目してみてください！」 「恥ずかしくて意識しちゃうからやめて！？」

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「……もー、すみません、この子ちょっと色々偏ってて」 「違うよー！　雪穂の脚の魅力を伝えたかっただけで、私は雪穂の全部が大好きだから安心して♡」 「知ってるけど！」 『雪穂ちゃんから亜里沙ちゃんに一言はある？』 「え？　あ……もちろん、私も、大好きです」 なぜ結局こうなるのか。

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「さて、音ノ木坂といえばもちろんμ'sの学校で、しかも二人ともメンバーの妹だよね。やっぱり、影響は受けてる？」 当然、この質問も出た。むしろ、遅くまで触れずにおいてくれた、という感じだ。 「実際、先輩たちにはかなりお世話になっています。本当に……たくさんのことを教わりました」