野生動物管理を視野に入れた、針葉樹人工林への広葉樹導入技術について

絶滅が危惧されている四国におけるツキノワグマの生息域分断の問題をきっかけに、針葉樹人工林に広葉樹を導入して混交林に誘導するための具体的な技術についてまとめました。
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きっかけは『四国のツキノワグマ』

桔梗屋@Deer Culler @r_kikyoya

絶滅が危惧されている四国のツキノワグマに関する資料を読んでいた。四国では人工林化によって老齢天然林が非常に少なく、それがクマの生息域を分断する要因になっていること、天然林同士をつなぐ『緑の回廊』における人工林の針広混交林化が課題であることなど、非常に興味深い内容であった。

2017-06-11 22:31:36
桔梗屋@Deer Culler @r_kikyoya

2016年に開催された公開シンポジウム『SOS!四国のツキノワグマ』では、林野庁から「人工林の混交林化に積極的に取り組む方針だが、広葉樹の導入は林業技術としては体系が確立されていない」という旨の発言があった。確かにその通りだと思うので、自分なりに混交林化の技術について考えてみた。

2017-06-11 22:42:17

針葉樹人工林の混交林化(広葉樹の導入)技術について

桔梗屋@Deer Culler @r_kikyoya

広葉樹林化と聞いて、多くの方が真っ先に思いうかべるのは広葉樹の植林だと思うが、実はあまり得策ではない。広葉樹造林は全国的に見ても成功例が少なく、しかも植栽や下刈り等に必要となる多大な費用と労力を考えると、四国の険しい奥山で大面積に行うことは現実的ではないと私は考えている。

2017-06-11 22:54:15
桔梗屋@Deer Culler @r_kikyoya

針葉樹人工林の混交林化については、もっと手間と費用がかからない方法がある。それは人工林の強度間伐である。人工林内の土壌には、様々な動物が運んできた埋土種子が眠っていて、発芽のチャンスを待っている。5割程度の強度間伐で林床に光が届くようになると、それらの種子が一斉に発芽してくる。

2017-06-11 23:04:35
桔梗屋@Deer Culler @r_kikyoya

しかも、下層植生が無いような暗い人工林の中には、広葉樹の生長を妨げる大型草本が生えていないため、広葉樹の更新に適した環境が整っている。しかし3割程度の普通の徐間伐では、すぐに樹冠が閉鎖してしまい、広葉樹が更新するチャンスが無い。風倒木を恐れず強度の間伐を行うことが重要である。

2017-06-11 23:11:40
桔梗屋@Deer Culler @r_kikyoya

ここで要注意なのは、シカによる更新木の食害である。シカの生息密度の高い場所で、強度の人工林間伐を行い、林床をきれいに整理してしまうと、そこはシカにとっても居心地の良い場所になってしまい。せっかく更新してきた広葉樹の稚樹が食べつくされてしまう危険性が高い。

2017-06-11 23:18:48
桔梗屋@Deer Culler @r_kikyoya

そこで、シカにとって居心地が良くならないような除間伐が必要なのだが、その最も簡単な方法は、切り捨て除間伐の際に、倒した木を切り刻んで整理せずに、出来る限り枝葉の付いたまま放置することである。これによりシカにとって歩きにくい状態がしばらく続き、広葉樹が更新するまでの時間が稼げる。

2017-06-11 23:23:40
桔梗屋@Deer Culler @r_kikyoya

そうは言っても、人工林での徐間伐の現場で、倒した木を整理せずに、枝葉が付いたまま放置した方がいいという提案はなかなか受け入れられにくかと思う。切り捨て徐間伐の現場では、切り倒した木は切り刻んで、林床をきれいに片づけるというのが長年の習慣になっているからだ。

2017-06-11 23:40:30
桔梗屋@Deer Culler @r_kikyoya

しかし、木が減って明るく開けた上に、歩くのに邪魔な障害物のない針葉樹人工林はシカを呼び込む。だからもう間伐木を刻んで片づけるのはやめないか? 切り捨てを前提に、間伐率と間伐の仕方を少し変えるだけで、針葉樹人工林の混交林化は十分に可能だと私は考えている。必要なのは考え方の転換だ。

2017-06-11 23:45:51
桔梗屋@Deer Culler @r_kikyoya

針葉樹人工林の間伐により広葉樹を導入する技術について、より詳しく知りたい方は「人工林 間伐 広葉樹」でGoogle検索すると、多くの学術論文が見つかる。間伐強度と更新樹種については、特に北海道での研究成果が豊富で、ギャップ更新型の樹種の更新が多いことが分かっている。

2017-06-12 09:18:26

Twitterユーザーからの反応

ゥに @unitoro2501

@r_kikyoya 今年の4月から新卒で林業従事者になった者です。とても興味深い内容ですね。桔梗屋さんが言うように例え強度間伐が成功し、広葉樹林の芽が出たとしても鹿が新芽を食べてしまうとダメになってしまうと思いますし、鹿の繁殖増加を抑えるためにもマタギと林業従事者の関係を深める事も重要だと思いました

2017-06-11 23:26:20
桔梗屋@Deer Culler @r_kikyoya

@unitoro2501 シカを減らすことも必要なのですが、間伐によって人工林をシカにとって居心地の良い空間にしないことも重要だと思います。北海道でも本州でも、きれいに手入れされた人工林にシカが集まり、角研ぎの被害にあった例を私は沢山見ています。これからは、見た目だけがきれいな施業をしないことも必要かと…

2017-06-11 23:57:35
Y. Uchiyama @y1406uchiyama

FF外からすみません。強度間伐というのは同意見ですが、一般に人工林では埋土種子集団が少なく、間伐後すぐは先駆樹種しか生えてこないのでは? また、伐倒木を玉切りしないだけで、それほどシカの侵入を防げるものでしょうか? 私の知る現場では、枝条を集積しても2、3年で侵入されているので… twitter.com/r_kikyoya/stat…

2017-06-12 00:16:46
Y. Uchiyama @y1406uchiyama

とはいえ、これだけシカが増えてる現状で、ベストではなくてもやれることはやるべきかなと思います。 林業サイドとしては、やはり現場をきれいに仕上げてこそ、という意識があるので抵抗は強いかと。例えば、風倒被害地の植生回復を追跡したら手かがりになるかも。

2017-06-12 00:27:46
桔梗屋@Deer Culler @r_kikyoya

@4sima3_02 ご指摘の通り、埋土種子がだけが発芽するわけではありませんね。風散布型・鳥散布型の種子がいち早く侵入してくる可能性も高いです。それに広葉樹化なら先駆樹種でも何ら問題は無いのでは? 伐倒木の玉切りは百害あって一利なしだと思います。出来るだけシカが歩きにくい環境を作ることが重要かと。

2017-06-12 00:26:44
Y. Uchiyama @y1406uchiyama

@r_kikyoya 樹種を問わず広葉樹林化を目指すのであれば、仰るとおりですよね。たとえばブナ科のような高木樹種からなる森を目指すのであれば、広葉樹林の林縁から人工林間伐をするなど、種子散布などを考慮する必要があるように思います。 玉切りのことは、完全に防ぐという(続

2017-06-12 00:49:47
Y. Uchiyama @y1406uchiyama

@r_kikyoya ことではなく、少しでもシカが歩きにくくする、ということですよね? 林業サイドからの反発は大きそうですよね。。もっと危機感持ってやらないといけないのですが。 夜分にすみませんでした。お返事ありがとうございました。

2017-06-12 00:51:13
大内正伸 @tamarinSHIZUKU

同感です。10年以上前から鋸谷さんと共にその方法を推奨しています。手間もずっと減るんですよ。 twitter.com/r_kikyoya/stat…

2017-06-12 06:31:25
大内正伸 @tamarinSHIZUKU

またまた過去の林業本の増刷です。前著よりさらに幅広く人工林を解説。伐採跡地を広葉樹の山に誘導する省力的な森づくりも登場。最終的な目標を大径木生産にする意味。意欲ある若い人にこの本を読んでほしい。ブログ更新。 iroridanro.net/?p=26299 pic.twitter.com/FgoyIx7eac

2017-04-21 11:35:49
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リンク 囲炉裏暖炉のある家 tortoise+lotus studio 増刷のお知らせ(その2) | 囲炉裏暖炉のある家 tortoise+lotus studio 『鋸谷式 新・間伐マニュアル』の増刷の知らせから2日後、今度は『図解 これならできる山づくり』(鋸谷 茂・大内正伸 著/農文協2003/12/2,052円)の増刷の知らせが届いた。こちらもプロフィールを書き直すことになった。 (画像をクリックすると出版社の販売ページに飛びます) この本も息が長い。『鋸谷式 新・間伐マニュアル』出版の翌年(2003年)、鋸谷さんとの共著というかたちで出した本だが、今回で12刷目になる。 前著はその名のとおり間伐に特化した内容だが、この『図解 これならできる山づくり』はさらに 4
大内正伸 @tamarinSHIZUKU

『鋸谷式 新・間伐マニュアル──強度の間伐であなたの山が生まれ変わる!!』大内正伸著 鋸谷茂監修/全林協(2002/11)34ページの解説です。この本は2017/5/30に3刷発行、累計発行部数は15,000部とまだ売れ続けています。 pic.twitter.com/Myn7r3LdO4

2017-06-12 09:28:00
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リンク www.ringyou.or.jp 鋸谷式 新・間伐マニュアル-強度の間伐であなたの山が生まれ変わる!!|出版物|一般社団法人 全国林業改良普及協会 このページでは出版物の、「鋸谷式 新・間伐マニュアル-強度の間伐であなたの山が生まれ変わる!!」をご紹介します。全国林業改良普及協会は、幅広い情報の発信と普及を通じて、森林・林業と農山村地域の発展に貢献します。 5