折鶴蘭の少女 271~320(完結)

一同は事件の真相を知り、事件には終止符が打たれました。ご読了ありがとうございます。
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ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

折鶴蘭の少女 271  「さて、まずは自己紹介しましょう。私は小津グループ代表の小津と申します。既にお話がありましたように、当船のオーナーでもあります」  小津は、流れるように述べてから、佐宮に目で促した。 「佐宮です。なかなかお会い出来ずにすみません」 272へ

2017-06-12 00:42:30
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

272 雅達もそれぞれ名前を名乗った。あれこれ苦労したのを考えると、馬鹿馬鹿しいほど礼儀正しい滑り出しだ。にもかかわらず、三人は手足が震えるのを懸命に抑えていた。 「本題に入りましょう。最大の疑問、つまり、佐宮さんの謎について、これから説明します」 273へ

2017-06-12 00:43:26
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

273 と、小津が切り出した直後、頑丈な船体を突き破るように落雷が轟いた。一瞬電気が消えすぐに回復した。 「佐宮さんは氷漬けの子宮から取り出された受精卵から生まれました。実に奇妙なことに、佐宮さんは十五、六歳になると、男性と接触していないのに自然に妊娠してしまうのです」 274へ

2017-06-12 00:46:07
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274 小津の口調は冷静そのもので、内容は異様を極めている。 「そして、必ず女児を出産します。生まれた子供は、性格はそれぞれ違いますが、外見は全く同じです。いずれにせよ当グループで保護し、他所の子供と変わらない教育を施して、当グループで働くようにしています」 275へ

2017-06-12 00:47:57
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275  出だしからめちゃくちゃな話だった。 「今、ここにいるのは、一番最後から一つ前に生まれた佐宮さんです。なお、各代の佐宮さんは、結婚もすれば家庭も営みますが、出産するのはその一回だけです」  では、既に新しい佐宮が……。口にしなくとも三人の気持ちは変わらなかった。 276へ

2017-06-12 00:48:57
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276 当の佐宮は表情を消している。 「さて、キョーカさんのご作品、零名は、今から数年前にさる美術品窃盗団が盗んだものです。詳細は知らない方がいいでしょう。つい最近、升気氏からその話を聞いた私は彼を仲介してご作品を買い取りました。升気本人は私の代理人のつもりでした」 277へ

2017-06-12 00:51:11
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277 「とは言え、結局升気氏は窃盗団に消されました。事実上の転売、とみなされたようです」  特に罪悪感もなく小津は言い、そのまま続けた。 「私は、生き物が持つ意志や意欲そのものに強い関心を持っているのですよ。零名も、元はと言えばそれが動機で描かれたはずです」 278へ

2017-06-12 00:53:52
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278 「そして何より、これをお見せせねばなりません」  小津は、足元に置いていた鞄を机の上に置き、留め金を外した。 中に手を入れ、頑丈なガラスケースに納められた化石を一個取り出した。それは、零名に描かれたのと、まさに同じ生物だった。 279へ

2017-06-12 00:55:35
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

279 「槍別炭鉱で、戦時中に発掘されたものです。船長室に飾ってありました。私は古生物学には何の経験もありませんが、ウミサソリと甲冑魚が全く別種の生き物であるくらいは知っています。便宜上、サソリウオとでも呼んでおきましょう」 「まさか……本当にいたなんて……」 280へ

2017-06-12 00:56:36
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280 キョーカは、突拍子もない話が自作品に絡み、驚いていいのか嘆けばいいのか分からなくなった。 「サソリウオに槍別町。この二つに共通するのは少なくとも一度は滅んだと言う事実です。そして、佐宮さんは全くの自力で子孫を遺し続ける。私は、槍別町を再生の象徴にしたいのですよ」 281へ

2017-06-12 00:58:25
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

281 「あのう、お話の途中で申し訳ありません」  藍斗が、小さいがはっきりした声と仕種で話を途切らせた。 「何ですか」  小津は、寛大にも受け入れた。 「あなたは私と雅さんの真ん中くらいのお歳ですよね? この船をサルベージした時は、とても幼かったんじゃないですか?」 282

2017-06-12 00:59:15
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

282 「鋭いご指摘ですね。その通り。まさにこれから、私が説明したかったところです。つまり私は、一定の年齢の中を、進んだり後戻りしたりするのですよ」  反論のしようがない。狂気の沙汰とも革命的事実とも、どうにも言いようがない。強いていえば、『変』だろう。 283へ

2017-06-12 01:00:03
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

283 雅は思わずりおんに顔を向けた。何の変哲もなく当然だ、といわんばかりだった。 「話を戻しましょう。槍別町の復興事業は、予算を抑えるつもりで始めました。幸せ世界というキャッチコピーも有志一同で考案したものです。もっとも、途中で計画が頓挫したのは目論見通りでした」 284へ

2017-06-12 01:01:08
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

284 「じゃあ、最初から……」  と、思わず口を開けた雅を、小津はやんわりと手で制した。 「妨害はしていません。いつでも現代に近いインフラが使えるようになればそれで良し、あとはお客様を佐宮が選ぶだけでした」 「サミヤンヌが!?」  藍斗でなくとも叫びたくなる。 285へ

2017-06-12 01:02:07
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

285 「左様。何故なら、槍別町は、佐宮の為に復活する街だからです。折鶴蘭を町花に選んだのは私です。花言葉は『子孫繁栄』」 「あなたって、慇懃無礼な人ですね」  キョーカは遠慮なく言った。 「どちらかと言えば、それは升気氏でしたよ」  小津が答え、りおんが小さく吹き出した。 続く

2017-06-12 01:05:11
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折鶴蘭の少女 286 「じゃあ、どうして私達を選んだんですか?」  キョーカが小津と佐宮の二人に同時に問いかけた。 「まずキョーカさんを、ご作品の縁で。それから、キョーカさんと特に親しい雅さんを。最後に、藍斗さんは……。私をさらって下さりそうでしたから」 287へ

2017-06-12 18:36:09
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287 はにかみながら佐宮は答えた。 「小津さん、私達はオフ会で集まる予定だったんです。干渉しないで頂けませんか?」  詰め寄らんばかりに雅は言った。 「貴重な休日を潰したのはお詫びしよう。しかし、もっと充実した内容をお届けする」 「はあ?」  露骨に不信感を示す雅の 288へ

2017-06-12 18:38:28
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

288 隣で、藍斗はぶるっと震えた。両腕で自分の胴体を抱えている。 「怖がる必要はない。りおんさんの手際は完璧だ。沈没した船の冷凍庫が、数十年たっても機能していたのは何故か? 原子力電池を使っていたからだ。心配御無用、ここには最新型がセットしてある」 289へ

2017-06-12 18:40:10
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

289 「ど……どうして……」 「まず死者に礼拝し、町の歴史を通り抜け、最後にこの船に行き着いた。我々はいつでも復活できる状態のまま、船ごと海底で眠りにつく。人工冬眠に。次に目を覚ませば、新しい家族として、幸せ世界が実現する! 『折鶴蘭の少女』、即ち佐宮さんの世界が!」 290へ

2017-06-12 18:41:42
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290 「鍾乳洞の事務室で……あの貼り紙を貼ったり……インスタントラーメンを準備したりしたのは……」  両頬を両手で抑えながら、藍斗が質問を絞り出した。 「全て私だ」  小津は平然と答えた。   出港以来、最も高く強烈な三角波がせり上がり、第三幸天丸は舳先を天に向けた。 291へ

2017-06-12 18:43:11
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

291 机にしがみつく雅達の中で、唯一、藍斗だけは席を次々に蹴って床を登り、佐宮の前までたどり着くや否や、彼女を抱えて飛び降りた。その時、船は海面に叩きつけられ、藍斗の腕から離れた佐宮は会議室のドアまで吹き飛ばされた。藍斗は背中を机に打ちつけ、息が詰まってしまった。 292へ

2017-06-12 18:44:12
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

292 すぐには動けない。 「席に戻りなさい、佐宮さん」  小津が、小さな子供をさとすように言った。 「ドアを……開けて……サミヤンヌ」  佐宮は、小津と藍斗を交互に見比べた。ほんの数秒ためらったろうか。彼女の右手はドアに伸び、オレンジ色の通路が戸口の向こうに現れた。 293へ

2017-06-12 18:45:06
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

293 栓が抜けたように冷気が引き、代わりにブザーのような警報が鳴り始める。 「最下層甲板キングストン開放、注水開始。当船は強制自沈手順に入りました。『幸せ世界』計画に不参加の人員は、直ちに上甲板から脱出して下さい」  無機質な合成音声で、危急存亡が告げられた。 294へ

2017-06-12 18:45:41
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

294 冷気は、一度は引いたが、再びじわじわと濃くなりつつある。ドアが開く程度の事態は想定していたのだろう。 「藍ちゃん、立てる?」  雅が、自分の身体を席から引き剥がしつつ言った。 「何とか」  藍斗としては、さっきの立ち回りで一生分の反射神経を使い果たした思いだ。 295へ

2017-06-12 18:46:41
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

295 さりとてずっと横たわるのも許されない。キョーカが手を貸し、どうにか姿勢を立て直した。三人は、佐宮と共に部屋を出た。雅は最後尾に回り、戸口から室内を振り返った。小津もりおんも行儀良く座ったまま一言も発しない。雅もまた、黙って通路に出て、ドアを閉じた。 296へ

2017-06-12 18:47:49