ウィア・スラッツ、チープ・プロダクツ、イン・サム・ニンジャズ・ノートブック #4

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【ウィア・スラッツ、チープ・プロダクツ、イン・サム・ニンジャズ・ノートブック】#4

2017-06-12 22:31:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「こちらのオフィスで管理業務を行っています」エリア・マネージャーは額の汗をテヌギーで拭いながら愛想笑いをして先導する。デシケイターは「ん」と生返事をして、後ろで手を組み、パーティションで区切られたオフィスを多少歩いた。彼の傍らには鉄めいて無表情な秘書の女性が随行している。 1

2017-06-12 22:36:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「この通り、各自、かわらず高いモチベーションをもって業務を……」「ん?」デシケイターは聞き咎めた。「何と"かわらず"だ?俺のCEO就任以前とかわらず……という事かね?」「アイエッ」マネージャーは笑顔を引きつらせた。ダラダラと流れる汗はもはやムンバイの気候のせいではない。 2

2017-06-12 22:39:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「勿論そうではなく、昼夜かわらず……あるいは、ネオサイタマ・オフィスの頃とかわらず……常に高いモチベーションを保ちですね……」「まあ、勤務の細かい評価はそっちで勝手にやればいい」デシケイターは花瓶に活けられたオレンジの花を手に取った。たちまちその花は彼の手の中でしおれ、朽ちた。3

2017-06-12 22:41:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「この花は?誰かが飾ったのか」「アイエッ!すぐ片付けさせ……」「私です!」ガゴン!ガゴン!唸りをあげるプリンターと格闘しながら、オレンジの髪のオーエルが挙手した。「私です!」「フン、そうか」デシケイターはもう一輪手に取った。やはり枯れた。「体質でね。ま、環境作りは好きにやれ」 4

2017-06-12 22:45:41
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「そろそろお時間です」秘書が冷たく言った。デシケイターは鼻を鳴らした。「ああ。少しスケジュールを詰め込み過ぎたか?」「もう行かれるので?オチャとヨーカンの用意がありましたが……」「いい。ただ立ち寄っただけだ。面倒だがな」デシケイターは見渡した。幾つかの敵意ある視線が逸れた。 5

2017-06-12 22:50:26
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デシケイターは鼻を鳴らす。ムカついているにも関わらず、どうにもできず従わねばならない時の非ニンジャの表情が、彼の三番目に好きなものである(第一が上向きのグラフ、第二がカイシャ買収の瞬間だ)。強気そうな人間であればある程いい。エリアマネージャーは貧弱な男であり、どうでもよかった。6

2017-06-12 22:57:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

既にこのオフィスで確かめるべきものは確かめ終えている。彼は建物を離れ、家紋リムジンに乗り込んだ。マネージャーはずっとオジギ姿勢のままだった。デシケイターは嫌悪感を覚えた。(卑屈な豚め)もっとも、そうさせているのは彼自身の威圧的な接し方である事はわかっている。そのうえでだ。 7

2017-06-12 23:03:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「俺はああいう手合いが嫌いでな」車内でデシケイターは秘書に言った。「シンケンタメダ社を侵しているヌルさの象徴だよ」「左様ですね。……問題なくオンタイムです」秘書が携帯端末を操作し、時刻を確認した。「この地の道路事情にもよりますが……」「甘ったるい空気だ。本当に」「そうですね」8

2017-06-12 23:08:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

デシケイターは社内冷蔵庫に用意された「岡山県の磨かれた水」を飲みながら、左目を閉じて、右目の網膜に映し出されるリアルタイムの株価チャートに集中した。スケジュールを伝える秘書の声が遠くに聞こえる。それを並列処理しながら、左手では手首から投射されるホロ・キーボードをタイプしている。9

2017-06-12 23:13:25
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「ルートが違うのでは?」秘書が運転手に尋ねた。「そんな事ありません」運転手は抑揚の薄い声で答えた。「先程と違う方ですね」「え?そんな事はありません」「社長。ショック防御を」秘書は呟き、左手の指を揃えて運転者のこめかみに向けた。「うん」デシケイターは株取引を止めずに生返事した。10

2017-06-12 23:20:25
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BLAM!次の瞬間、運転手の顔が爆ぜた。「アバーッ!」フロントガラスが赤く染まった。キュルルルル!家紋リムジンはスピンし、ストリートの人々を撥ね飛ばしながら数メートル滑り、錆び朽ちた廃車に衝突して止まった。KRAASH!ドアを蹴り開け、デシケイターと秘書は車外に転がり出た。11

2017-06-12 23:22:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「面倒でならんな」デシケイターは株取引を続けながら言った。「クルマは無事か?」「支障ありません」秘書はリモート・コントローラーを操作した。家紋リムジンはウインドウを装甲版で覆った。「ならいい」キャバアーン!取引音が鳴った。その時既に、彼らは敵意ある市民に包囲されていた! 12

2017-06-12 23:27:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼らは口をスカーフ布で覆い、手には鈍器や短銃を持っていた。中には日本語で「薬の値段を下げないと何するか」と書かれたノボリ旗を背負っている者もいる。その目的は明白だった。「こいつが例のCEOだ……」「お前、許さんぞ!」「兄さんを返せ!」「オオッ!」デシケイターは株をショート!13

2017-06-12 23:30:55
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「現地市民に偽装したアンタイ・コーポレーション勢力ですね」秘書が言った。「プロの企業傭兵です」「個人的恨み言も聞こえたな」「個人的恨みをもつプロの企業傭兵でしょう」「とっとと殺せ……よしッ!」キャバアーン!秘書は両手を無造作に前へ突き出した。BLAMBLAM!「アバーッ!」14

2017-06-12 23:33:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

秘書は構えた両手の指先から大口径の銃弾を射出し、容赦なく殺した。BLAM!BLAM!「アバーッ!」「グワーッ!」「何だコイツは!」「人間じゃないのか?」「サイバネ?」BLAM!BLAM!BLAM!「アババーッ!」「アバーッ!」「怯むな!」企業傭兵はアサルトライフルを構えた。 15

2017-06-12 23:37:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

BRATATATATATA……BRATATATATA……「注意を。社長」「ちょっと話しかけるな……よし、いいぞ!」キャバアーン!秘書はクロス腕でデシケイターの前に立ちふさがった。カンカンカンカン……銃撃を受けてスーツの袖が裂け、皮膚が裂け、灰色の無機質が露出した。 16

2017-06-12 23:40:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」KABOOOM!折り曲げた膝から小型ミサイルが射出され、マシンガン傭兵に直撃した。「アバーッ!」ナムアミダブツ!一般市民は悲鳴を上げて走り回り、傭兵達も潰走を始めた。「増援が来る!もう少しだ!」「薬価是正!」屋台の陰に隠れながら、襲撃者達は叫び合った。 17

2017-06-12 23:43:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「増援だそうです」「チンタラやっているからだ」デシケイターはいつの間にか取引を終えていた。「いい頃合いだ。どうせニンジャだろう。俺には見えている」彼はスーツの埃を払った。その二秒後、回転ジャンプでエントリーしたのはケブラー装束のニンジャである。「足止めご苦労」彼は言った。 18

2017-06-12 23:46:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「センセイ!お願いします!」「こいつのせいで故郷はメチャクチャだ……」襲撃者がニンジャに声援した。秘書の見立て通り、傭兵と恨みを持つ市民が半々の割合といったところか。ニンジャはデシケイターにアイサツを繰り出した。「ドーモ。ホンブロワーです」「フン。どこのニンジャだ?」 19

2017-06-12 23:52:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「俺が誰であろうと同じだ」ホンブロワーは笑った。「企業倫理に欠けた人間は遅かれ早かれこうなるさだめよ。メガコーポによる誅殺……神の見えざる手だ」「そうか」デシケイターは頷いた。ジャケットを脱ぎ、秘書の腕にかけた。そしてアイサツを返した。「ドーモ。デシケイターです」 20

2017-06-12 23:55:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

いつの間にか彼はニンジャ装束を纏い、メンポを装着していた。ホンブロワーが唸った。「その落ち着き……貴様自身ニンジャか」「普段はススキが掃除をするんだが」デシケイターは秘書のウキヨを示し、「軽く運動したい時や、直接わからせてやりたい時は俺がやる」「今はどちらだ」「両方だな」21

2017-06-12 23:58:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「笑止!」ホンブロワーが両手を前に突き出す!ススキは防御姿勢を取った。BOOOM!指向性破裂音が彼らを襲った!「アバーッ!」後方の市民が巻き添えを食って目や耳から出血、身体を曲げて吹き飛んだ。ススキも弾き飛ばされて後転、し、難儀そうに身を起こした。デシケイターは……いない!22

2017-06-13 00:04:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハヤイ!」ホンブロワーは後方へ瞬時に回り込んだデシケイターをニンジャ動体視力で追っていた。振り向きながら身構えたが、デシケイターは攻撃せず、両手をだらりと垂らしたままだった。彼は両手の指を小刻みに動かした。「そら……行くぞ……行くぞ」「……!」ホンブロワーはジツを警戒した。23

2017-06-13 00:06:11