異世界へ転生すべき人間を選ぶ女神の話

帽子男さんの呟きのまとめです。 かつて、女神が異世界に転生するチャンスを与えたのに、それを断った男がいました。
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帽子男 @alkali_acid

@alkali_acid 昔いちど転生するチャンスがあった

2017-06-17 17:39:33
帽子男 @alkali_acid

@alkali_acid 高校生ぐらいのとき、お年寄りを助けようとしてトラックに轢かれたと思ったら、真暗な空間にいて きれいな女神様が目の前にいた。

2017-06-17 17:40:51
帽子男 @alkali_acid

@alkali_acid 「勇者として異世界を救っていただきたいのです」 女神様は言った。けれども当時高校生だった男は答えた。 「期末近いんで…」 たいして成績がいい方でもなかったのに。本当はびびってたのかもしれない。

2017-06-17 17:41:48
帽子男 @alkali_acid

@alkali_acid 「残念ですね。勇者になりたい方は沢山いるんですよ」 「それ皆、妄想の中だけで、いざとなったらびびると思いますよ」 高校生はついうかつな口を利いてしまう。女神様はちょっといらついたようだった。 「では結構。次の方」 気付くと病院のベッドに寝ていた。

2017-06-17 17:43:15
帽子男 @alkali_acid

@alkali_acid もちろんあとになって随分後悔した。トラックに轢かれてから半身にしびれが残るようになったし、 もともと悪かった頭はもっと悪くなった気がする。受験もうまくいかなかった。就職にも失敗した。 今はネカフェ店員。客が勝手に自慰した部屋の掃除とかをしてる。

2017-06-17 17:45:52
帽子男 @alkali_acid

@alkali_acid 資格は専門学校時代に覚えた簿記2級

2017-06-17 17:47:51
帽子男 @alkali_acid

@alkali_acid 「転生しとけばよかったな…」 帰り道、びっこを引きながらつぶやく。 「なんで俺、誘い断ったんだろうな」

2017-06-17 17:50:51
帽子男 @alkali_acid

@alkali_acid 「やりなおしてえ…」 目の前の車通りを鈴をつけた猫がよこぎっていく。トラックが突っ込んでくる。 「ちょっ」 機敏な高校生だったら助けに飛びだせたが、足をひきずるこの体では無理。 だがトラックがハンドルを切ってこっちへ突っ込んでくる。 「おい…」

2017-06-17 17:53:17
帽子男 @alkali_acid

@alkali_acid 「勇者様…転生されますか?」 女神が目の前にいる。 「…いや、いいです」 「怖いんですか?」 「とにかくいいです」 「死にますよ?」 「死ぬ?」 「今度のは致命傷です」

2017-06-17 17:54:43
帽子男 @alkali_acid

@alkali_acid 「…そうか…まあそれもしかたないかな」 「強情な人ですね」 「はあ…」

2017-06-17 17:55:27
帽子男 @alkali_acid

@alkali_acid 目覚めると病院のベッドの上。 「患者は?」 「さきほどバイタルが」 「気の毒にな」

2017-06-17 17:58:37
帽子男 @alkali_acid

@alkali_acid 意識が体をゆっくりと離れていく。 自分の体が下にあるのが見える。 「これが死ぬってことか。意味のない人生だったな」

2017-06-17 17:59:36
帽子男 @alkali_acid

@alkali_acid 泣き崩れる母親が見える。胸が痛む。 「なんてこった。なぜこんな…」 ふと見ると、はるか上空に暗い空間があり、そこにきれいな女神が腰かけている。 女神は地上を見下ろしながら、何かをじっと待っている。 事故だ。

2017-06-17 18:02:42
帽子男 @alkali_acid

@alkali_acid 「禿鷹みたいだ」 女神の視線の向いている先をたどると、今しもトラックが高校生をはねようとしているところだった。 男は気づくとそちらに吸い寄せられていた。運転席に入る。高齢ドライバーだ。運送業は年寄りばかりになりつつあるのだ。 「止まれ」

2017-06-17 18:04:15
帽子男 @alkali_acid

@alkali_acid 強く念じるとトラックは異様な軋みをさせて止まった。 「そうだ…それでいい」 男はほっとしてつぶやいた。空を見上げると女神はもう別の方を見ている。 そちらに急ぐ。またトラックだ。今度はニートっぽいジャージの若者を轢こうとしている。

2017-06-17 18:05:27
帽子男 @alkali_acid

@alkali_acid 男は道におりて、両腕をさしのべた。トラックはやはり異様な軋みをさせて止まる 「なんだ…あんた…」 「俺が見えるのか」 「なんで邪魔するんだ…あのトラックで俺は転生を…」 「だがお前の家族は泣くぞ」

2017-06-17 18:06:42
帽子男 @alkali_acid

@alkali_acid 男は繰り返し繰り返し事故を防いだ。土砂崩れだったり、マイカーが集団下校する児童を撥ねようとしたりするのを止めた。 過労で死にかけている会社員をすばやく本人にかわって救急に連絡した。

2017-06-17 18:07:49
帽子男 @alkali_acid

@alkali_acid 「何をしているのです」 女神がたまりかねて話しかけてくる。 「人が無意味に死ぬのを止めてる」 「人はたいてい無意味に死にます」 「じゃあいいだろ」

2017-06-17 18:08:47
帽子男 @alkali_acid

@alkali_acid 「異世界へ転生する勇者が不足しているのです」 「死ぬ人間は沢山いるじゃないか」 「誰でもいいという訳ではないのです」 「そうかい」

2017-06-17 18:09:39
帽子男 @alkali_acid

@alkali_acid 「この世界で生き延びたとしても、ろくな人生は待っていない。勇者たるべき資質をすり減らし、みじめな暮らしを送るだけです」 「そうかね」 「彼等は転生すべきなのですよ」 「だが泣く人はいる」 「それがなんだというのですか」 「俺は生きていた方がいいと思う」

2017-06-17 18:16:36
帽子男 @alkali_acid

@alkali_acid 男は女神の獲物をかっさらい続ける。 「観なさい。あなたの救った若者のひとりが、殺人事件を起こしました」 「そうだな」 「おとなしく転生させておけば」 「別の若いのが、昨日大学を卒業して、就職を決めたよ。嬉しそうだった」 「無意味な人生です」

2017-06-17 18:19:31
帽子男 @alkali_acid

@alkali_acid 「あなたがこの世界で力を振るい続けられるのもあとわずかですよ」 「なんとなくそんな気はしていた」 「あなたが二度も転生を拒み、世界から世界へ渡るための力があなたにたまったままになったために、そうして死んだあとふわふわと動き回れるのです」 「ありがとう」

2017-06-17 18:21:10
帽子男 @alkali_acid

@alkali_acid 「あなたは立派な勇者になっていたでしょう。救った世界を虐げたりしない、よい英雄に」 「でも俺の世界はここだ」 「この世界に価値があるというのですか。あなたに報いたことなどろくにない」 「そこまでひどくもない」

2017-06-17 18:23:01
帽子男 @alkali_acid

@alkali_acid 「見ろ、俺が救った若いのがきれいな娘さんと恋に落ちたみたいだぜ。詳しいことは分からんが、公園でキスしてる」 「無意味な。エルフの姫ですらない。十人並の器量です」 「素敵な娘さんだよ…ああ…なんだか視界がぼやけてきた。これが…言ってた終わりかな?」

2017-06-17 18:24:39