木造アパートの3人組

夢日記。完全に自分向け。
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にゅい @lanuit2012

舞台は昭和。街頭テレビが衰退し始めて、各家庭にテレビがあるのが当たり前になった頃。私は木造アパートに住む貧乏大学生だった。木造アパートといっても、この頃はできたばかりの新築物件で、まだ木の香りがするくらい。数棟からなるアパートの住人は40人以上はいただろうか。格安の良物件だった。

2017-06-21 10:57:05
にゅい @lanuit2012

勿論、時代が時代だから自分の部屋にお風呂などあるわけもなく。近くの銭湯に行くのが当たり前で、一緒に連れだって銭湯に行くのが、住人同士の一種のコミュニケーションみたいになっていた。それともうひとつ、テレビのある集会室があって、ここも社交の場みたいになっていた。

2017-06-21 11:00:46
にゅい @lanuit2012

住人は不思議なことに大半が高年の方ばかりで、私と年齢が近いのは、同じ貧乏大学生のナツミさん(漢字は分からない)と、高校生のトモキくんだけだった。歳が近いこと、性格はばらばらだけど相性は良いこと、なにかと話題が合うことで、私たちは結構仲良しだった。銭湯に行くのも大体一緒だった。

2017-06-21 11:07:08
にゅい @lanuit2012

ナツミさんは、個室でも集会所でも大っぴらにタバコを吸ってお酒を飲んで、しかもデニムのホットパンツがトレードマークみたいな人だったから、高年の皆さんからは「はしたない」とか、評判が悪かったけど、本人はどこ吹く風と聞き流してて、物言いがストレートで裏表がなくて、気持ちの良い人だった。

2017-06-21 11:10:25
にゅい @lanuit2012

トモキくんは読書家で、大学生の私たちでさえ舌を巻くくらい博識で、「成績が良い」だけじゃなく「頭が良い」子だった。ナツミさんはよく、地味なトモキくんの私服をからかって嫌な顔をされていたけれど、それでも何か相談があるとトモキくんのところに行くくらいには信頼してたし、一目置いていた。

2017-06-21 11:13:33
にゅい @lanuit2012

ある夜、集会室のテレビは、トモキくんの通う高校の洒落にならないレベルの不祥事を報じていた。トモキくんは高年の方々にすごく受けが良かったから、皆さんとっても心配していた。みんなテレビの前に群がって、ニュースが報じる内容を聞き洩らすまいと、じっと見入っていた。本当に深刻な内容だった。

2017-06-21 11:18:16
にゅい @lanuit2012

ミチさんと言って、80歳くらいの女性がいて。腰がわるいので、よくトモキくんが買い出しや、ちょっとした身の回りの世話を熱心に焼いていて。だからミチさんはトモキくんを孫のように可愛がっていたんだけど。彼女がこのニュースに、たぶん一番、心を痛めていたと思う。

2017-06-21 11:20:24
にゅい @lanuit2012

みんなテレビに夢中で、足と腰のわるいミチさんはテレビに近づけない。だから私は、手を引いて「すみません、ミチさんの場所を空けてあげて頂けますか」と言いながら、彼女が座って観られる場所までつれていった。「ありがとうねえ」とミチさんは言った。「トモキくんの学校、どうなるのかしらねえ」

2017-06-21 11:28:13
にゅい @lanuit2012

集会所のはるか後方のソファ(ここが私たちの指定席みたいなものだった)まで戻ると、タバコを吸いながら、安いビールを飲んでいたナツミさんが「おうおう、相変わらずヒサコはイイ子ちゃんだねえ」と声をかけてきた。ヒサコというのは夢の中の私の名前、なかなかいい名前だと思う。

2017-06-21 11:31:24
にゅい @lanuit2012

「そういうナツミさんは相変わらずワルイ子ちゃんですねえ」テーブルに乱暴に投げ出された美脚と、吸い殻てんこ盛りの灰皿と、ビールの空き缶を眺めながら私は答えた。「テレビ、観ないんですか?」「私にゃ関係ないからなあ、興味ないし。それに、学校は潰れやしないだろ?」

2017-06-21 11:37:31
にゅい @lanuit2012

そこへ学生服のトモキくんが帰ってきた。彼はちらりとテレビに目をやっただけで、すぐに私たちのソファにやってきた。「なんだよ、観ないの?」「とっくに学校であらましは聞いてますよ」と涼しい顔。「不祥事に関わった人間が処分されて、すげ替えがあって、それで手打ちってところでしょう。」

2017-06-21 11:42:42
にゅい @lanuit2012

「どうせこんなのは蜥蜴の尻尾切りですよ。本当のところは表に出てこない。茶番劇です」トモキくんは冷たいとも言える視線を、もう一回ちらっとテレビにやっただけ。「お前大人だねえ……」ナツミさんは呆れ半分、感心半分。彼女がこういうトモキくんを、実はすごく好きなのを、私は知っている。

2017-06-21 11:45:51
にゅい @lanuit2012

「なあ、ここにいてもジジババどもの餌食になるだけだろ。私の部屋に来いよ。晩飯作りすぎたんだ」ナツミさんの言葉に、私は内心でちょっと笑う。トモキくんの帰宅時間と、食べる量を見計らって作っていたのが容易に想像できたから。集会所の皆さんのターゲットにならないように、という配慮も見える。

2017-06-21 11:51:01
にゅい @lanuit2012

「女性の部屋に上がるなんて」と言うトモキくん、「いいからいいから」と無理矢理連れて行くナツミさん。勿論、二人きりは困るから私にも来てほしいというのは分かっているから、笑いながら私は二人の後についていった。たぶんこの後、楽しく三人で晩ご飯を食べたんだろう。そこで目が覚めた。

2017-06-21 11:53:03