ライトノベル作家・扇智史の鯰鎮めの小咄「カナメとミズキ」

バーチャル後方見守り女／扇智史 @o_g_s_t_

「なあカナメ」「何よミズキ」「いい加減どいてくれない？　窮屈なんだけど」「嫌よ」「どうして？　あたしが動いたら、また地震だから？」「そのたびに、人が死ぬのよ。見たことあるでしょ、人」「知ってるよ、そのくらい。あいつらが上にいるせいで、ずっと背中がこそばゆい」 *Tw*

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「まさか、くすぐったくて揺れるの？」「違うよ。そりゃ動き回って、けったいなもの建ててるけど、そのくらいじゃどうってことない」「なら、じっとしてなさいよ」「凝るんだよ、全身が。だいたい、お前さんの方が人をぜんぶ足したよりずっと重いんだぞ」「失敬な」 *Tw*

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「そもそもお前さんこそ何なんだよ、いったい」「わたしは要石よ」「説明になってねえ。この世のものじゃないだろ？」「あえて言うなら、祈りね」「祈り？」「そう。人があなたを抑えつけるために、想像したもの。あなたにはもう、暴れて欲しくないのよ、かれらは」 *Tw*

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「けどそりゃあ無理だ。分かってんだろ、ほんとは？」「……うん。どうせ、あなたはいつか我慢できなくなる。わたしはそれを止められない」「でも、退かないんだよな」「そうよ。わたしがあなたを、ほんの少し……ほんの一年でも長く留められれば、それでいいのよ」 *Tw*

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「たったの一年？　まばたきほどじゃないか」「人には充分な時間よ。あなたのいうけったいな街を再建し、立ち上がるための時間」「立ち上がっても、すぐ倒れるぜ。あんなに脆いのに」「でも、かれらはわたしやあなたに出来ないこともするわ」「そりゃいったい？」 *Tw*

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「産み育てること。長く生きられない代わりに、次の世代に受け継ぐ。わたしたちがこうして無駄話してるうちに、彼らはどんどん新しくなる」「なるほど。あたしも卵は産めても、子は産めんな、確かに」「雄はいないの？」「どうだかな、物心ついてこの方会った記憶がない」 *Tw*

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「どこか遠くにいるのかもね。何万年かしたら会えるかしら」「お前は？　子を産むあてはないのか？」「わたしは……」「ん？」「わたしは、石だもの」「ああ、石女か」「どこでそういう言い回しを覚えたのよ」「長生きしてるといろいろな」「まったく……」 *Tw*

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「じゃあ、あたしたちはずっとこのまま、ふたりぼっちか」「人と話せたらいいのだけど」「やめとけよ、あいつらとは話が合わない」「生きる時間が違いすぎるわね」「まあ、いいじゃないか。あたしはお前とふたりだけでも、別に寂しくないよ」「……そう」 *Tw*

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「けど、動けないとほんと退屈だな。また卵でも産むか。揺らさないように押さえとけよ」「分かってるわよ。……ねえ、その卵、どこに行くの？」「あたしにも分からん。それこそどこか、雄のいる所だろ」「じゃあ、生まれた子が、泳いでここまでやってくるのかしら？」 *Tw*

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「どうかな。そいつの上にも人が生まれたら、人はお前みたいな石を生み出して、きっとその子も動けなくなっちまうよ」「……そうかもね」「たぶん、会えるのは人同士だろうな。きっと、あたしの背中を飛び出して、どこか遠くの別の人に、会いに行くのさ」 *Tw*

バーチャル後方見守り女／扇智史 @o_g_s_t_

「そうしたら、本当にふたりぼっちね」「あたしは自由になるから、その方がうれしいね」「……わたしは存在意義がなくなってしまうわね」「何でだよ？」「え？」「あたしの話し相手してくれたら、それで充分だ」「……ありがとう」「……喋り疲れた。ちょっと寝るわ」「ええ、おやすみ」 *Tw*