NHKの「にっぽん縦断 こころ旅」は2010年代における「男はつらいよ」「釣りバカ日誌」であるのか?

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生命情報保存研究所 @rodan670

かつて松竹映画が数十年にわかって毎年公開し続けてきた、国民的喜劇映画シリーズ「男はつらいよ」「釣りバカ日誌」が、2009年公開の「釣りバカ日誌20 ファイナル」にて途切れてから8年が経過する。今後このような映画シリーズが製作される可能性はもちろんあるが、

2017-07-11 08:14:54
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現時点でその兆しは特に見えない。「男はつらいよ」「釣りバカ日誌」両シリーズにはいくつかの共通点があり、まずひとつは作品が強烈な個性を持った主演俳優(渥美清、西田敏行ら)の能力によって支えられている事、また毎作喜劇の進行にあわせて、時代時代における日本社会の情勢や人々の暮らしが

2017-07-11 08:23:15
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そこかしこに記録されている。これが数十年レベルで継続されているため、結果「男はつらいよ」「釣りバカ日誌」シリーズは、それぞれ昭和、平成という時代を知るための貴重な歴史的資料と化している。ゆえに、このような長期映画シリーズの系譜が途絶えてしまっている現状は残念なものではあるが

2017-07-12 05:26:25
生命情報保存研究所 @rodan670

松竹映画という枠を離れてみれば、まったく別なところで、これと同等の役割を果たし2010年代の日本の姿を記録する、ある映像作品が存在している。NHKがBSプレミアムで放送中の、「にっぽん縦断 こころ旅」という番組である。

2017-07-12 05:29:54
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この番組では、俳優の火野正平氏が自転車に乗りながら、47都道府県のあらゆる場所を訪れていく。基本的には日本列島の真ん中あたりを出発点として、春は北海道へ向けて北上、秋は沖縄へ向かって南下していく。太平洋側を通るか日本海側を通るか、四国を経由するか否かにより

2017-07-12 05:38:09
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1年を通じて訪れる都道府県と訪れない都道府県が出てくるが、番組は2011年から現在に至るまで6年継続しているため、すでに全都道府県は回収されている。火野氏はひとつの都道府県に4日滞在し、1日につき一箇所、視聴者から寄せられた「思い出の場所」を訪れ、その様子がやはり4日にわたり

2017-07-12 05:52:10
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毎週放映される。この番組が「男はつらいよ」や「釣りバカ日誌」と共通している事柄としては、まず作品が両シリーズと同様に、強烈な個性を持った俳優(火野正平氏)の存在によって支えられている点があげられる。火野氏は飄々としてつかみ所がなく自由奔放、人情とユーモアに溢れ

2017-07-12 06:03:38
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自らが作詞作曲した歌を歌い、訪れた先の誰からも愛されるという魅力ある人物である。同番組には随行するスタッフも数人いるが、カメラの中央に収まり続けるのはほぼ一貫してこの火野氏のみであるため、事実上火野氏の存在なくしてはこの番組は成り立たない。

2017-07-12 06:06:44
生命情報保存研究所 @rodan670

二つ目の共通点は、この番組がそのスタイル上必然的に、2010年代における日本各地の光景、状況、そこに暮らす人々の生活の有り様を記録した映像資料となっている部分である。

2017-07-12 06:11:02
生命情報保存研究所 @rodan670

「釣りバカ日誌」シリーズは2009年をもって終了したが、「にっぽん縦断 こころ旅」は奇しくも2011年より開始されたため、喜劇を介した日本の記録は、ほぼ間髪置かぬ形で引き継がれたという事ができる。

2017-07-12 06:12:50
生命情報保存研究所 @rodan670

ただ「男はつらいよ」や「釣りバカ日誌」シリーズと「にっぽん縦断 こころ旅」には大きな相違点も存在している。最大の違いは「男はつらいよ」「釣りバカ日誌」がフィクションであるのに対し、「にっぽん縦断 こころ旅」はあくまでもノンフィクションであるという点である。

2017-07-12 06:14:47
生命情報保存研究所 @rodan670

映像は、監督があらかじめ計算しつくした位置から撮影される(いわゆる神の視点)ではなく、火野氏や随行スタッフの自転車にくくりつけられた小型カメラ、あるいはカメラマンの手持ちカメラにて、カットもやり直しもなく場当たり的に撮影されていく。

2017-07-12 06:28:46
生命情報保存研究所 @rodan670

このスタイルはパラノーマルアクティビティなどを中心に、近年映像業界において流行を見せるPOV(Point of view=主観ショット)の様式に近い。昭和中後期から、平成半ばまで「男はつらいよ」「釣りバカ日誌」の形で継続してきたフィクション、神の視点形式の国民的喜劇シリーズが

2017-07-12 06:44:39
生命情報保存研究所 @rodan670

2010年代においてノンフィクション,POV形式の「にっぽん縦断 こころ旅」へと移り変わった背景には、個々人の価値観の多様化、及びスマホカメラとyoutubeの登場で、個人視点の映像に人々の目が慣れきったことによるリアリズム嗜好があるものと考えられる。

2017-07-12 06:58:58
生命情報保存研究所 @rodan670

「男はつらいよ」の寅さんや、「釣りバカ日誌」の浜ちゃんは、映画内では喜劇作品が持つ予定調和の中で絶対的なヒーローでいられるが、自らの確固たる視点を有し、またいたるところで覚めてしまった現代人は、このような存在に対し共感を覚えにくくなってしまったのかもしれない。

2017-07-13 05:35:56
生命情報保存研究所 @rodan670

寅さんや浜ちゃんが持ち前のユーモアで危機的状況を収めたり、あるいは思わぬハプニングをもたらすたびに、視聴者は「現実にはこうはいかない」と一歩距離ををおいて眺めてしまう。もし仮に現在においても「男はつらいよ」や「釣りバカ日誌」のシリーズが継続していれば、それでも観客は既に培われた

2017-07-13 05:39:36
生命情報保存研究所 @rodan670

前提理解から、まだ寅さんや浜ちゃんについていく余地を持ち合わせているだろうが、両シリーズが終了した今、予定調和に支えられる新たな主人公を作り出し受け入れてもらうことは至難の業であると考えられる。ヒーローがヒーローとして存在することが難しくなってきている。

2017-07-13 05:42:22
生命情報保存研究所 @rodan670

しかし、「にっぽん縦断 こころ旅」における火野正平氏のあり方は、これとは一線を画している。番組内における氏の旅も、言動も、人々との出会いも、すべては現実として起こったことであり、そこには何の筋書きも予定調和も用意されてはいない。

2017-07-13 05:47:44
生命情報保存研究所 @rodan670

ならば、視聴者は「こんなことは実際にはありえない」とする疎外感にさいなまれることなく、番組に向き合うことができる。ただ、何の筋書きも予定調和もない旅の記録は、ともすれば単調となりがちで、一般人が撮影すればそれこそただのホームビデオ的なものに終始してしまうが

2017-07-13 06:15:38
生命情報保存研究所 @rodan670

火野正平の類まれな人間味は、現実の旅の記録に明確なストーリー性を与え、その内容をシナリオありきの映像作品に劣らぬ高密度なものに作り変えている。この意味で火野正平氏は、スマホカメラとyoutubeによって蔓延した「現実の映像」に慣れきってしまった2010年代の人間を納得させる

2017-07-13 06:30:35
生命情報保存研究所 @rodan670

新たな時代のヒーローといえる。「男はつらいよ」「釣りバカ日誌」シリーズと「 にっぽん縦断 こころ旅」にはもうひとつ相違点がある。どちらも日本全国津々浦々の、撮影当時における風景や人々の暮らしを克明に記録した、映像資料としての価値を有していることは先に述べたが、

2017-07-13 06:39:46
生命情報保存研究所 @rodan670

「にっぽん縦断 こころ旅」が映し出しているのは「現在」の日本の風景だけではない。この番組は最も基本的なコンセプトとして、投稿にて寄せられた、視聴者にとっての「思い出の風景」の在り処を追っていき、日々のゴール地点としている。

2017-07-13 06:49:57
生命情報保存研究所 @rodan670

目的地にたどり着くと火野氏は「思い出の風景」を前に、視聴者からの手紙にしたためられた、問題の思い出に関するエピソードを読み上げる。この時カメラに映し出されているのは間違いなく今現在の風景であるが、テレビ越しの他視聴者は、この瞬間同じ場所の数十年前の光景を脳裏に浮かべることとなる。

2017-07-13 07:04:37
生命情報保存研究所 @rodan670

ゆえに「にっぽん縦断 こころ旅」は常時、日本各地の今現在と、過去の風景を二重に記録している。当時の風景を当時の風景として記録するにとどまる「男はつらいよ」や「釣りバカ日誌」とはここで性質を少し異にする。

2017-07-13 07:13:59
生命情報保存研究所 @rodan670

このような違いが生まれる背景としては、日本社会の高齢化、そして日本という国自体の老年化が関与しているものと考えられる。国全体が高度成長に沸きたいた「男はつらいよ」の時代や、バブル及びその崩壊に伴う不況というジェットコースターの渦中にあった「釣りバカ日誌」の時代においては

2017-07-13 07:23:59