連作ついのべ vol.3 夕焼け小焼け

3~10連作程度のついのべをいくつかまとめました。 8.夕焼け小焼け Vol.1:http://togetter.com/li/1026526 続きを読む
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8.夕焼け小焼け

水木ナオ @nayotaf

夕暮れ時、町の屋外スピーカーから”夕焼け小焼け”が流れ終わるとともに、見上げるマンションの2階、角部屋の窓に灯りが点るのを目にして。 「……今夜は鍋、かな」 よし、と商店街へと踵を返した。

2017-01-28 20:58:27
水木ナオ @nayotaf

「今晩は、先生」 「……来るなら来ると前もって知らせろと、君は何度言ったら」 「まあまあ、また商店街でいろいろおまけしてもらっちゃったんですよ。一人じゃ食べきれなくて、先生夕飯まだでしょう?」 「ああ」 「よし、じゃあ鍋にしましょう、鍋!」 「声が煩い、さっさと入りなさい」

2017-01-28 20:59:11
水木ナオ @nayotaf

ねえ先生、そんな憮然とした言い方して、本当は嬉しいんでしょう?すたすた部屋へ戻っていく背にほくそ笑みながら、そっと玄関の電気スイッチを押す。すぐに眩い灯りが照らした廊下には雑然と本や段ボールが置かれ、すぐに蹴躓いてしまいそうだ。玄関に入った際、点けてあったそれを消したのは私だ。

2017-01-28 20:59:48
水木ナオ @nayotaf

先生は気付かない、必要ない、家に灯りがあろうとなかろうと、先生はずっと闇の中で生きているのだから。盲目で独り身の先生が家に灯りを点すのは、誰かが訪れる約束をしているとき。雑多な部屋で転んだりしないよう、先生は優しい人なのだ。それと、もう一つ。約束もない夕暮れに、灯りを灯すのは。

2017-01-28 21:00:36
水木ナオ @nayotaf

ここは明るいですよ、来ても大丈夫ですよ、――だから誰か来て、というサインなのだ。不器用な先生らしい、そう寂しいのだ、甘えているのだ。ああなんて可愛らしい。願わくばそれに気づいたのも、そして応えるのも自分だけでありますようにと、私は夕暮れ時の窓を見上げては想いを馳せるのだ。(了)

2017-01-28 21:01:27