#13「雪中の行軍」<フォビドゥンフォレスト5話「選ばれし者、選ぶべき者」>

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まとめを更新しました。「#12「燃え立つ氷②」<フォビドゥンフォレスト5話「選ばれし者、選ぶべき者」>」 togetter.com/li/1128984

2017-07-15 02:27:49
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(前回のあらすじ:風科僚勇会は禁忌の森の中に拠点となる砦を再敷設すべく大人数を動員しての計画を準備していた。部隊の大半は森の中央の開けた場所を除雪しつつ徒歩で移動、残りの者は鳩寺望の力で川を凍らせて、その上を列車型の乗り物・トレインを滑らせて資材を運ぶ計画だった)

2017-07-18 23:24:45
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(作戦の発令から一週間、片桐春夏や北里瑠梨、僚勇会やその協力者の面々は準備を進めてきた。ある者は武器や戦術の改良を試み、ある者は作戦の為に中断せざるを得ない別の仕事を前倒しで進めるなど、公私共にするべきことを行ってきた。そして作戦当日となった…)

2017-07-18 23:34:48
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「はぁ…」 的場恵里は剣を納めると白い息を吐いた。除雪車のボンネットの上に立ち、僚勇会の茶色いコートを着た彼女の両脇に、小鳥ほどの大きさの塊がごとりと落ちる。スズメガに似た妖怪の両断死体だ。落ちた端からすぐに煙を上げて消える。黒い煙もびゅうと吹いた寒風に流されて見えなくなる。 1

2017-07-18 23:44:03
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「ありがとう、恵里ちゃん」 除雪用のヒートロッドを持った若い隊員が、除雪車の下へと近付こうとする。 「待て待て」 その隊員の腕を中年の隊員が掴んで止める。 「何です?」 若い隊員が振り向く。 「まだだ」 再び前を見ると、恵里は彼女らしからぬ気怠さでぼんやりと立っている。 2

2017-07-18 23:55:35
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「あーあ…」 恵里が音もなく剣を納める。両断されて落ちたのは、今度は四対の羽を持つムカデ型妖怪だった。恵里の抜剣はおろか、納剣の瞬間を視認できた者すら、彼女のすぐ周囲にはいなかった。 「もう大丈夫だろうな」 既に腕を離していた中年隊員が霊波探知機に目をやりながら言った。 3

2017-07-19 00:03:27
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中隊の指揮官は再度前進を促す。除雪車も恵里を乗せたまま再始動し、ヒートロッドや手押し除雪機の隊員も行動を再開する。この徒歩行軍部隊の最前を行く中隊は、除雪と前方の索敵が主任務で戦闘員は少ない。隊員の半数は宇宙服にも似た耐瘴気スーツを着た、耐魔力の低い隊員である。 4

2017-07-19 00:07:55
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森に入る前には妖怪除けの禊を受けてはいるが、今回は人数が多い。個々人が受ける禊の効果は同じでも、それ以上に百人近い大人数が生み出す誘引効果が大きいのだ。幸い妖怪は強いほど賢い傾向にあり、散発的に無謀な突撃を試みてくるのは恵里一人で瞬殺できる下級妖怪ばかりだった。 5

2017-07-19 00:22:54
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妖怪は森の奥に行くほど強くなるので、この最前に戦力を集中したくなるが、今回は雪崩を警戒して数十メートル間隔で三つの中隊に分かれている。部隊が縦長に間延びしているので、後ろにも戦力を割かねばならない。 6

2017-07-19 00:34:37
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実のところ、冬場は妖怪は少ない。先日のバケグモや姑獲蝶が異常なだけで、本来は餌となる動物がいないので、冬眠しているのだ。特にこの辺りのような深い雪をわざわざ越えてくる妖怪は本当に数種しかいない。途中までは後ろよりもかえって安全だ。つまり除雪要員のほうが優先されるのだ。 7

2017-07-19 00:42:05
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数日前から予め除雪や妖怪退治を散発的に行ってはいたか、森の雪は深い所では数メートルにも達する上に、冬に適応した下級妖怪は倒しても新たに沸いてくるので、事前の地慣らしには限度があるのだ。恵里はそんな除雪部隊を護衛する少数精鋭の一人にして、最前中の最前を担当していた。 8

2017-07-19 00:45:08
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「あれ、恵里ちゃん?」 恵里が動かない。元々車上が定位置ではあるのだが、仮設された座椅子に座っていれば良いものを何故か直立不動のままだ。霊波探知には反応が無いが、もしや彼女だけが気付いた新手でもいるのか?近くの隊員達は進みつつも周囲を警戒するが、特に何も起こらない。 9

2017-07-19 00:51:13
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「礼太、的場の嬢ちゃん、具合でも悪ぃんじゃねぇだろうな?」 前方部隊の後方、中隊長の永友雷牙は眉を顰めて息子に問う。 「ああ…違う違う」 礼太は首と両手を振る。四十メートルほどは離れていたが、二人には抜剣動作も含めて恵里の様子は概ね見えていた。 10

2017-07-19 01:00:15
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「編成が…残念だったんだろ」 「残念…?ああ、そういうことか」 雷牙は訳知り顔でうんうんと頷く。 「いや、でも春坊と別行動くらいはいつものことだろうよ?」 「一緒に森に入ってるのに、別ってのが嫌なんだろ。しかもハルとは同じ徒歩部隊だと思ってた訳だからな…」 11

2017-07-19 01:03:39
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「ふぅん…別に百メートルも離れてねぇのになぁ?」 雷牙は後方の第二中隊を振り返る。雷牙達第一中隊と比べると大型車両が少なく人の多い編成である。 「父ちゃん、女心ってのが分かってねぇなぁ」 礼太は目を細めて首を振る。 「おいおい、おういうお前ぇは分かって……いやすまねぇ」 12

2017-07-19 01:09:52
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雷牙は襟元を正して、燃料補給車の上に設けられた座椅子に腰を深く降ろし直す。礼太は無言のまま同じようにする。 「まあ、仕事はしてくれてるから良いけどよ…」 視線の先の恵里は、除雪車上に跳び乗ってきた女性隊員の取りなしでようやく着席するところだった。 13

2017-07-19 01:11:56
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-同時刻:徒歩部隊・第二中隊。 中隊は幅二十メートルほどの通路を、主に車両で進んでいる。前を行く第一中隊が除雪して切り開いた道ではあるが、雪はなおも膝上までの高さがある。元が二~三メートルだったことを思えば、これでも格段に歩きやすくはなっている。 14

2017-07-22 23:19:06
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両サイドの雪壁は正にその除雪前の高さで、崩れればちょっとした雪崩になる。第一中隊も除雪と並行して雪壁を固めてくれてはいたが十分では無い。第二中隊はこの雪壁を更に押し広げつつ足元を踏み固めるのが役目である。後続の第三中隊は大人数なので彼らを通せるようにせねばならないのだ。 15

2017-07-22 23:32:34
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六台の車が横三台づつ二列に並んで走る。外側の四台のうち先行する除雪車二台が壁を広げ、後続の屋根付きジープは熱の出る杖と凍らせる杖を使い、広げた壁を固めていく。中央の二台は彼らの護衛と指揮を担当しており、共に車高の高いオープントップのジープだ。 16

2017-07-22 23:47:58
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「暇だな…」 前方のジープの助手席に立つ片桐は白い息をゆっくりと吐き出した。左右の除雪部隊を見回す。 「座ってなよ、桐くん」 後ろの座席に座る柳原は片桐を窘める。戦闘要員である片桐は今はやることが無い。除雪を手伝いたいと思っているのは見れば明らかだ。 17

2017-07-23 00:25:32
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「でもよ…」 片桐は所在なさ気にで振り向く。彼とて待機や休息、予備戦力の重要性は分かっている。そもそも護衛が活躍するということは味方が危機に陥った時だ。活躍したいと思うのがもう間違いだとも言える。 「リラックスしときなって。想良ちゃんみたいに」 柳原は横の座席に目をやる。 18

2017-07-23 00:32:19
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想良はホットココアを片手に棒スナックを摘んでいる。後ろ一杯まで倒した背もたれに体を預けて寛いでいる。 「コイツみたいに…」 「ゴメン。流石にコレはどうかと思う」 言われた想良はきょとんとした様子で何やら考え込むと、柳原にスナックを差し出した。 19

2017-07-23 00:43:51